MEMS技術分野で最も権威ある国際学会の一つ「IEEE MEMS2011@メキシコ・カンクーン(2011年1月23-27日)」において、BEANSプロジェクトの成果が一挙に7件採択された。ちなみに、昨年の発表件数は口頭75件、ポスター223件。全採択率は34%でした。
技術研究組合BEANS研究所(理事長:作田 久男)が実施しているBEANSプロジェクト((独)新エネルギー・産業技術総合開発機構より委託業務、平成20年度より5年間) は平成20年7月の開始以来、約60件の国内外特許出願や数百件に及ぶ成果の外部発表を行なってきました。3年目にあたる平成22年度はすでに150件の外部発表(論文発表、学会発表など)を行なっております。
1月23-27日にメキシコ・カンクーンにて開催されますMEMS2011 (IEEE The 24th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems,
http://www.ieee-mems2011.org/) にBEANSプロジェクトより成果発表の論文を応募し、その結果として口頭発表2件、ポスター発表5件の合計7件の採択を実現しました。これだけ多くの論文が採択されたことは、BEANSプロジェクトの研究テーマが先端技術分野で注目されており、成果内容が高水準である事を示すものです。なお、採択された発表論文の内容は参考資料 #1~#7に記載しました。タイトルは正式論文表題ではなく、キャッチフレーズを書いております。
参考資料
【発表論文 7件】
#1 「3D構造への位置選択的自己組織化微粒子の配列」(口頭発表)
【筆者】阿波嵜実 他 : 3D BEANSセンター
【技術説明】トレンチ構造の側壁に選択的にポリスチレン微粒子を配列。また、トレンチ加工時に導入されるスキャロップ構造を利用して、ポリスチレン微粒子の配列状態を制御した。
【研究の背景と今後の展開】マイクロチャネル等を利用したデバイスでは大表面積の反応場が必要とされる。本研究では自己組織化現象を利用し、トレンチ構造にポリスチレン微粒子を配列し、大表面積の構造体を作製した。今回、トレンチ構造内部(側壁部)で位置選択的に微粒子を配列し、トレンチ加工時に形成されるスキャロップ構造を利用して配列状態の制御を行った。スキャロップ構造を積極的に利用する事で微粒子がランダムな配列からライン状配列になる事を確認した。また、ライン状に配列した微粒子のラインピッチ制御の可能性を示した。
【専門用語解説】自己組織化:自然と秩序が生じて、自分自身でパターンのある構造を作り出して、組織化していく現象 スキャロップ:Siトレンチ加工時に導入される周期構造
【問合せ先】
阿波嵜 実 BEANS研究所3D BEANSセンター(東京大学生産技術研究所 As405)
TEL:03-5452-6545 FAX:03-5452-6544 E-mail: mabasaki@beanspj.org
#2 「どんな隙間も均一製膜」 (口頭発表)
【筆者】山田英雄 他 :3D BEANS センター
【技術説明】耐熱温度の低いポリマー材料(PDMS)上へ超臨界製膜法を適用し、 PDMS流路内部へSiO2製膜に成功した。
【研究の背景と今後の展開】ポリマー材料は加工のし易さやコスト面からさまざまな分野で注目されているが、 耐熱温度が低いという問題があった。そこで、酸化剤にO3を用いることによりSiO2超臨界製膜の低温化、及びPDMS流路の親水化に成功した。 今後は、SiO2製膜のPDMS流路のガス透過防止膜としての有効性を検証していく。
【問合せ先】
山田 英雄 BEANS研究所3D BEANSセンター(東京大学 生産技術研究所 As405)
TEL:03-5452-6545 FAX:03-5452-6544 E-mail:hyamada@beanspj.org
#3 「立体構造を使った高容量キャパシタ形成に成功」
【筆者】百瀬 健 他 :3D BEANSセンター
【技術説明】超臨界流体と呼ばれる特殊な流体中において,立体キャパシタを作製し,平面キャパシタの70倍の高容量化に成功。
【研究の背景と今後の展開】当グループでは,固体でも液体でも気体でもない超臨界流体と呼ばれる流体中において,金属錯体を還元あるいは酸化すると,複雑な立体構造内部に均一な金属/金属酸化物薄膜を形成することを明らかにしてきた。本発表ではこれらの技術を応用し,抵抗の低いシリコントレンチ上に誘電膜/金属膜を形成し,金属電極/誘電膜/シリコン電極の3層構造からなるキャパシタの形成に成功した。このキャパシタは同一サイズの平面的(非立体的)キャパシタに比べると70倍もの高い蓄電性能を有することを確認した。
【専門用語解説】高容量キャパシタ:より多くの電荷を蓄積することのできるキャパシタのこと ・超臨界流体:物質固有の臨界点を超えた高密度流体のこと。気相,液相,固相に続く第四相。
【問合せ先】
百瀬 健 BEANS研究所3D BEANSセンター(東京大学 生産技術研究所 As405)
TEL:03-5452-6545 FAX:03-5452-6544 E-mail:tmomose@beanspj.org
#4 「摩耗しにくく、摩耗されても、特性が変わらないプローブ」
【筆者】李 永芳 他 :3D BEANSセンター
【技術説明】新規耐摩耗プローブの構造、設計、試作を行い、耐摩耗プローブの耐久性と描画安定性を確認した。
【研究の背景と今後の展開】 従来のリソグラフィは、用いる波長から、光の回折限界等で加工出来る最小サイズが限界に近づいてきている。その中、SPMリソグラフィはポスト光リソグラフィの有力な代替技術と言われている。しかし、プローブの先端の摩耗により、描画特性が不安定になり、描画できなくなる問題があり、スループットが低いため、SPMリソグラフィが工業的に実用していなかった。今後は耐摩耗プローブをアレイ状にすることで、SPMリソグラフィのスループットを向上させる。
【問合せ先】
李 永芳 Yongfang li BEANS研究所3D BEANSセンター(東京大学生産技術研究所 As405)
TEL:03-5452-6545 FAX:03-5452-6544 E-mail:yli@beanspj.org
#5 「誰でも作れる!ナノサイズのデコボコゲル 」
【筆者】柴田 秀彬 他 :Life BEANS センター
【技術説明】微細な溝を有するパターン上でゲルを作製することで、微細な凹凸構造を表面に有するゲルを作製した。
【研究の背景と今後の展開】ハイドロゲルはその組成により、生体適合性やセンサー機能などを持たせることができる。このハイドロゲル表面に微細な凹凸構造を作製することで、細胞接着形態の制御、センサーとしての高感度化などが期待される。本研究では、微細な溝を有するパターン上にゲルを作製するシンプルな方法を用いて、微細凹凸構造(最小140nmのライン形状)を有するゲルの作製に成功した。ここに細胞を撒くと、その微細表面形状に沿った形で、細胞が接着することが確認できた。今後は細胞接着の制御などにより、生体適合性機能の付与について検討していく
【問合せ先】
柴田 秀彬 BEANS研究所Life BEANSセンター(東京大学 生産技術研究所 As405)
TEL:03-5452-6545 FAX:03-5452-6544 E-mail:hshibata@beanspj.org
#6 「大面積電子織物の電導接点」
【筆者】クンプアン ソマワン 他 :Macro BEANSセンター
【技術説明】本発表は、繊維状基材連続微細加工としてシートデバイスの応用を広げるために縦横ファイバーの電気的な接触技術開発です。
【研究の背景と今後の展開】衣服にセンサや電気回路を埋め込む技術であるエレクトロニクス・テキスタイルの実現には機能性ファイバーの成形技術が必要です。成果内容は次のとおり① 横縦ファイバー表面の相互に電気接続するためのマイクロ/ナノ構造を考案した。② ダイコーティング及びリール・ツー・リールインプリント装置を用いて、繊維状基材上に、マイクロ構造の製作技術を開発した。③ 製作したスプリングカンチレバー構造は、繊維状デバイス応用として縦横ファイバーのギャップが良好な電気接続が480Ωの低接触抵抗で繰返し500回数を確認した。今後は開発したリール・ツー・リール連続プロセスを用いた高速度接点構造を製作する。
【専門用語解説】ファイバー上に熱インプリントされたPEDOT:PSS(有機導電性ポリマー材料)カンチレバーアレイはエレクトロニクステキスタイルに対して、可動接点構造です。
【問合せ先】
クンプアン ソマワン、 三宅 晃司、 伊藤 寿浩
BEANS研究所Macro BEANSセンター(産業技術総合研究所)
TEL:029-868-3883 FAX:029-868-3884 E-mail: ksommawan@beanspj.org
#7 「特殊材料ガスを用いないプラズマ化学輸送法による多結晶Si成膜」
【筆者】横山 吉典 他 : Macro BEANSセンター
【技術説明】プラズマ化学輸送法により大気圧で多結晶Si成膜を実現し、この膜を用いて歪ゲージ型の圧力センサを世界で初めて製作した。
【研究の背景と今後の展開】環境・エネルギーの分野ではSi膜に代表される機能膜の大面積プロセス化が進みつつある。特殊材料ガスを用いない開放スキャン型装置が実現されれば、真空チャンバーの大型化に歯止めをかけ、装置コストの低減に繋がると考えられる。今回、 300℃、700torrという低温・大気圧下で多結晶Si成膜を実現した。さらに、このSi膜を用いて歪ゲージ型の圧力センサを製作し、その機能を検証した。今後は、チャンバーを用いない大気圧での噴出し型成膜装置の実現を目指す。
【専門用語解説】プラズマ化学輸送法:水素プラズマを用いて固体Si原料を気相中に取りこみ成膜する手法のこと。
【問合せ先】
横山吉典、村上隆昭、徳永隆志
BEANS研究所Macro BEANSセンター(産業技術総合研究所)
TEL:029-868-3883 FAX:029-868-3884 yyokoyama@beanspj.org
【その他用語解説】
MEMS2011:マイクロ・ナノテクノロジー分野での主要な国際学会。アメリカ、欧州・アフリカ、アジア・オセアニアの各地域で順次開催されている。今年はメキシコのカンクーンにて開催される。
BEANS(Bio Electromechanical Autonomous Nano Systems)プロジェクト: 「異分野融合型次世代デバイス製造技術」を開発する国(経済産業省)プロジェクト。事業委託者は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)。2008年から5年間のプロジェクト。
マイクロナノ、バイオの異分野融合領域研究開発を実施。産官学の異分野の専門家を結集して集中研方式で行っている。開発マネジメントはコスト、スピード、効率、計画性を重視した企業型マネジメント手法を取り入れている。知的財産権の取得を最も重視している。