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2012年11月28日 (水)

18th North American Regional ISSX meeting報告

標記会議が4日間にわたって開催され,薬物動態研究に従事する約500名の世界中のアカデミア・企業研究者が参加した。会議では、3つの基調講演セッション、3件のkeynote lecture、ならびに10個のシンポジウムテーマで計50件の口頭発表が行われた。また、同時に28の小テーマに別れて258件のポスター発表が行われた。


 基調講演では、(1) MSを用いた画期的な薬物代謝解析方法に関する報告、(2)動物モデルとメタボロミクスを用いた薬物毒性のメカニズム解析に関する報告、(3)抗体医薬の先の生物医薬品開発の紹介、といった内容であった。医薬品開発において、肝臓での薬物動態・毒性の解明が重要な位置を占めているにも関わらず、代謝物やその反応に関わる分子の多様性、定量的解析の必要性、ヒトと動物との種差、といった難しい要素を抱えている。基調講演では最新の創薬トレンドの紹介とともに、これらの要素を乗り越えるためのそれぞれ独自のアプローチを紹介していたので、非常に有意義なものであった。


 ISSX meetingは、アカデミアが少なく、企業の発表が多くの部分を占めているところも大きな特徴であった。発表者の所属が企業系の口演は50件中22件とさすがに過半数を下回るが、ポスター発表件数258件中では207件と約80%を占めていた。


 本報告では、小生の専門であるin vitro解析のための肝細胞培養技術について主に記述する。今回のISSX meetingでは、サンドイッチ培養もしくは肝細胞とクッパー細胞をパターン化した共培養に関する発表が相次いだ。肝細胞とクッパー細胞の共培養は、肝炎などで肝臓が炎症反応を起こしている際の薬物の作用や、薬物等により生じる免疫反応の影響を調べるためのもの。もともとはHepregen社単独の技術のようだが、複数の企業がこの技術を用いた解析を行っており、最近では最もホットな共培養系だと感じた。スフェロイド培養の情報に注意して全体を見ていたが、これを用いた解析例はまったく見られなかったのが意外であった。

一方、活性の高い肝細胞の材料としては、生体の肝臓から得られた初代肝細胞を使用したもののみで、今話題のES/iPS細胞といった幹細胞由来の肝細胞を使用した解析はまったくなかった。幹細胞由来の肝細胞が、ドラッグスクリーニングや薬物動態研究の用途のレベルにはまだまだ到達していないのが現状と言っていいだろう。一方、新たに樹立されたHep-TRU1という肝細胞様細胞株(ヒト肝細胞をSV40で不死化,Corning社)が紹介されており、成熟肝レベルの代謝能発現はともかくとして,酵素誘導プロファイルなどが比較的均一かつ把握可能な不死化肝細胞株には一定のニーズがあることが窺われた。

小生は,胆管から直接胆管代謝物を抽出し測定するという試みに関するポスター発表を行った.会場からは非常に好意的な意見が多く,担当者として嬉しく思った。一方、再現性よく同じ微細胆管構造を作らせ、分析に足る量の代謝物を抽出するプロセスの必要性を問われた。また。ビリルビンの代謝異常は肝毒性の大きな要因の一つとなっているが、本培養系では正常なビリルビン代謝が見えるので、ビリルビン代謝異常の原因解明やモデル作製に用いることも考えられるとの意見もあった。さらに、ヒト肝細胞に見られるロット差は大きな問題となっており、本技術でロット差を改善できるかどうかを問われた。今後は、さらなる製造プロセスの確実化とヒト肝細胞を用いた解析を進める必要があると考えている。

 なお,プログラム・アブストラクト等の情報は,http://www.issx.org/?page=Dallasから入手可能である.

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2012年2月16日 (木)

MEMS2012 参加報告 (Life BEANSセンター)

BEANSプロジェクトのテーマの一つである「ハイドロゲル高次構造形成プロセスの開発」に関して、プロジェクトの成果であるナノパターン表面を有するハイドロゲルの生体適合性向上について、「NANO-PATTERNED HYDROGEL REDUCED INFLAMMATORY EFFECTS IN SUBCUTANEOUS TISSUE」という題で発表すると共に、最新MEMS関連技術の情報収集(特にバイオセンサーや医療関連技術)を目的とし、2012年1月29日(日)~2月2日(木)の5日間の期間に、フランス・パリにあるマリオットホテルで開催されたMEMS2012(The 25th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)に参加しました。本学会は、口頭発表48件、ポスター発表298件から構成されており、口頭発表は1会場で行われるため、全ての発表を聴講することができました。発表内容はFabricationやRF MEMS、Medical MicrosystemsなどMEMSに関する基礎技術から応用技術までの内容が満遍なく発表されており、自分の分野以外の情報を得ることができる良い機会でした。また、各日のPlenaryセッションでは、分野の第一人者による研究発表があり、その独創的なアイデアや考え方に触れることができ、貴重な経験となりました。

研究発表では、当プロジェクトの成果であるナノパターン表面を有するハイドロゲルの生体適合性向上に関して、ゲルの作製と表面形状の確認、生体に埋め込んだ評価について発表しました。発表は最終日の朝ということもあり、人が来てくれるか心配していましたが、2時間のポスター発表中、途切れることなくディスカッションを行うことができました。人数は全部で15人ぐらい、日本人と海外の人が半々といったところでした。生体適合性については、なぜLine & Space形状が生体適合性に効果があるのか、深さ、幅、スペースのどれが一番効いているのということに関する質問が多く、表面形状と生体適合性の関係に関する関心の高さが伺えました。この点に関しては本発表までに十分な検討を実施することができなかったこともあり、今後の課題です。また、本技術について、細胞培養やセンサーへ応用できないかということについてディスカッションでき、MEMS技術のバイオ、医療分野への応用については多くの人が模索中であると同時に、色々なアイデアを考えているんだということを感じられました。。なお、他の発表ではin vivoの内容が少なく、in vivo実験メインの本研究発表を聞きたかったという声も多く、ラットへのゲル埋め込み写真を前面に押し出したポスターの効果があったようです(写真参照)。

Mems2012_lbc

他の報告でも、全体の内容を取り上げていると思うので、私が気になった分野として、Medical Microsystemsを取り上げたいと思います。自分が医療分野の研究を行っていることもあり、この分野の発表者とディスカッションすることが多かったです。その中で、Medical分野では①治療と、②検査・診断という二つの方向性を強く感じました。治療に関しては、再生医療が、検査・診断に関しては、低侵襲、長期埋め込み、連続測定の3つがキーワードでした。再生医療に関しては、まだまだ研究段階であるという印象が強かったです。検査・診断に関しては、グルコースやラクトース、温度や圧力などを測定するためのMEMSデバイス開発がメインで、どれも測定可能なところまで来ているが、測定した値の有用性について、従来法との差を示すのに苦労しているという印象を受けました。この点に関しては、我々の研究でも今後課題になると思うので、センサーや装置を作るだけでなく、新しいデバイスによる測定値から得られる新たな知見について、その解析法や使い方を含め、何を提供できるのか、深く考えていかなければならないと感じました。

なお、次回のMEMS2013は台北のInternational Convention Centerで行われます。次回も成果報告ができるよう、頑張ります。

Life BEANSセンター
高橋正幸


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2011年9月15日 (木)

BEANSプロジェクト、最近のメディア報道から 「耳が光って血糖値をお知らせ~4カ月以上長期埋め込み計測に成功~」

 8月はLife BEANSセンター長の竹内昌治准教授らの成果に関した報道が展開されました。


 2年前の2009年6月に発表した「光る耳!?~体内で光る血糖値センサーの開発~」の続報にあたります。当時はTransducers2009@Denverで発表しましたが、今回は米国科学アカデミー紀要(PNAS)電子版Proc.Natl.Acad.Sci.USAに2011年8月2日に掲載されたのに合わせて報道機関に発表しました。

 糖尿病は脳梗塞などを併発することがあります。合併症を防ぐには血糖値の厳正な管理が不可欠です。糖尿病患者の一部は、1日に数回、指などに針を刺し血糖値を計測しています。

 しかし、血糖値は食事や運動により刻々と変動するため、1日数回の計測では経時的変化を十分とらえることはできません。連続計測のために半埋め込み型センサが市販されていますが、感染症などの理由から数日おきに取り替えが必要で、長期間の計測は困難でした。

 東京大学生産技術研究所の竹内昌治准教授と許允禎研究員らは技術研究組合BEANS研究所と共同で、血糖値に応じて光の強度が変化するハイドロゲルを開発し、ファイバー状に加工してマウスの耳に埋め込み、血糖値を4ヶ月以上にわたり連続計測することに成功しました。


Photo

 研究グループは以前に、このハイドロゲルを用いたビーズ状の埋め込みに成功していましたが、体内でビーズが移動してしまうことや、回収が難しいという問題がありました。そこで今回は、ハイドロゲルを微小径ファイバーにすることによって、センサを埋め込み位置に長期間安定させること、体内から容易に外部に引き抜くことにも成功しました。さらにハイドロゲル内に生体適合性ポリマーを混ぜることで、埋め込み時の皮膚周囲の炎症が低減しました。

 この微小径ファイバー型センサにより、埋め込み時の患者の負担が大幅に軽減するだけでなく、睡眠中なども自動的に血糖値を計測するシステムの実現が期待できます。

 メディア媒体については、新聞では一般全国紙(産経、毎日)や日経関係(日本経済新聞、日経産業新聞)、ネットでは【日経TECH-ON】や【NHK /NEWS WEBサイト】、【東京大学ホームページ】、など。TVでは【NHK-おはよう日本】、【米国CNNニュース】、【ワールドビジネスサテライト】がとりあげていました。



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2011年1月26日 (水)

産学官連携「BEANSプロジェクト」の論文、国際学会MEMS2011で一挙に大量(7件)採択される

 MEMS技術分野で最も権威ある国際学会の一つ「IEEE MEMS2011@メキシコ・カンクーン(2011年1月23-27日)」において、BEANSプロジェクトの成果が一挙に7件採択された。ちなみに、昨年の発表件数は口頭75件、ポスター223件。全採択率は34%でした。


技術研究組合BEANS研究所(理事長:作田 久男)が実施しているBEANSプロジェクト((独)新エネルギー・産業技術総合開発機構より委託業務、平成20年度より5年間) は平成20年7月の開始以来、約60件の国内外特許出願や数百件に及ぶ成果の外部発表を行なってきました。3年目にあたる平成22年度はすでに150件の外部発表(論文発表、学会発表など)を行なっております。


 1月23-27日にメキシコ・カンクーンにて開催されますMEMS2011 (IEEE The 24th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems, http://www.ieee-mems2011.org/) にBEANSプロジェクトより成果発表の論文を応募し、その結果として口頭発表2件、ポスター発表5件の合計7件の採択を実現しました。これだけ多くの論文が採択されたことは、BEANSプロジェクトの研究テーマが先端技術分野で注目されており、成果内容が高水準である事を示すものです。なお、採択された発表論文の内容は参考資料 #1~#7に記載しました。タイトルは正式論文表題ではなく、キャッチフレーズを書いております。


参考資料

【発表論文 7件】


#1 「3D構造への位置選択的自己組織化微粒子の配列」(口頭発表)

【筆者】阿波嵜実 他 : 3D BEANSセンター

【技術説明】トレンチ構造の側壁に選択的にポリスチレン微粒子を配列。また、トレンチ加工時に導入されるスキャロップ構造を利用して、ポリスチレン微粒子の配列状態を制御した。

【研究の背景と今後の展開】マイクロチャネル等を利用したデバイスでは大表面積の反応場が必要とされる。本研究では自己組織化現象を利用し、トレンチ構造にポリスチレン微粒子を配列し、大表面積の構造体を作製した。今回、トレンチ構造内部(側壁部)で位置選択的に微粒子を配列し、トレンチ加工時に形成されるスキャロップ構造を利用して配列状態の制御を行った。スキャロップ構造を積極的に利用する事で微粒子がランダムな配列からライン状配列になる事を確認した。また、ライン状に配列した微粒子のラインピッチ制御の可能性を示した。

【専門用語解説】自己組織化:自然と秩序が生じて、自分自身でパターンのある構造を作り出して、組織化していく現象 スキャロップ:Siトレンチ加工時に導入される周期構造

【問合せ先】

阿波嵜 実 BEANS研究所3D BEANSセンター(東京大学生産技術研究所 As405)

TEL:03-5452-6545    FAX:03-5452-6544     E-mail: mabasaki@beanspj.org


#2 「どんな隙間も均一製膜」  (口頭発表)

【筆者】山田英雄 他  :3D BEANS センター

【技術説明】耐熱温度の低いポリマー材料(PDMS)上へ超臨界製膜法を適用し、 PDMS流路内部へSiO2製膜に成功した。

【研究の背景と今後の展開】ポリマー材料は加工のし易さやコスト面からさまざまな分野で注目されているが、 耐熱温度が低いという問題があった。そこで、酸化剤にO3を用いることによりSiO2超臨界製膜の低温化、及びPDMS流路の親水化に成功した。 今後は、SiO2製膜のPDMS流路のガス透過防止膜としての有効性を検証していく。 

【問合せ先】

山田 英雄 BEANS研究所3D BEANSセンター(東京大学 生産技術研究所 As405)

TEL:03-5452-6545    FAX:03-5452-6544       E-mail:hyamada@beanspj.org

#3  「立体構造を使った高容量キャパシタ形成に成功」

【筆者】百瀬 健 他  :3D BEANSセンター

【技術説明】超臨界流体と呼ばれる特殊な流体中において,立体キャパシタを作製し,平面キャパシタの70倍の高容量化に成功。


【研究の背景と今後の展開】当グループでは,固体でも液体でも気体でもない超臨界流体と呼ばれる流体中において,金属錯体を還元あるいは酸化すると,複雑な立体構造内部に均一な金属/金属酸化物薄膜を形成することを明らかにしてきた。本発表ではこれらの技術を応用し,抵抗の低いシリコントレンチ上に誘電膜/金属膜を形成し,金属電極/誘電膜/シリコン電極の3層構造からなるキャパシタの形成に成功した。このキャパシタは同一サイズの平面的(非立体的)キャパシタに比べると70倍もの高い蓄電性能を有することを確認した。

【専門用語解説】高容量キャパシタ:より多くの電荷を蓄積することのできるキャパシタのこと ・超臨界流体:物質固有の臨界点を超えた高密度流体のこと。気相,液相,固相に続く第四相。

【問合せ先】

百瀬 健  BEANS研究所3D BEANSセンター(東京大学 生産技術研究所 As405)  

TEL:03-5452-6545    FAX:03-5452-6544       E-mail:tmomose@beanspj.org


#4  「摩耗しにくく、摩耗されても、特性が変わらないプローブ」

【筆者】李 永芳 他  :3D BEANSセンター

【技術説明】新規耐摩耗プローブの構造、設計、試作を行い、耐摩耗プローブの耐久性と描画安定性を確認した。

【研究の背景と今後の展開】 従来のリソグラフィは、用いる波長から、光の回折限界等で加工出来る最小サイズが限界に近づいてきている。その中、SPMリソグラフィはポスト光リソグラフィの有力な代替技術と言われている。しかし、プローブの先端の摩耗により、描画特性が不安定になり、描画できなくなる問題があり、スループットが低いため、SPMリソグラフィが工業的に実用していなかった。今後は耐摩耗プローブをアレイ状にすることで、SPMリソグラフィのスループットを向上させる。

【問合せ先】

李 永芳 Yongfang li BEANS研究所3D BEANSセンター(東京大学生産技術研究所 As405)

TEL:03-5452-6545    FAX:03-5452-6544       E-mail:yli@beanspj.org


#5  「誰でも作れる!ナノサイズのデコボコゲル 」

【筆者】柴田 秀彬 他  :Life BEANS センター

【技術説明】微細な溝を有するパターン上でゲルを作製することで、微細な凹凸構造を表面に有するゲルを作製した。

【研究の背景と今後の展開】ハイドロゲルはその組成により、生体適合性やセンサー機能などを持たせることができる。このハイドロゲル表面に微細な凹凸構造を作製することで、細胞接着形態の制御、センサーとしての高感度化などが期待される。本研究では、微細な溝を有するパターン上にゲルを作製するシンプルな方法を用いて、微細凹凸構造(最小140nmのライン形状)を有するゲルの作製に成功した。ここに細胞を撒くと、その微細表面形状に沿った形で、細胞が接着することが確認できた。今後は細胞接着の制御などにより、生体適合性機能の付与について検討していく

【問合せ先】

柴田 秀彬  BEANS研究所Life BEANSセンター(東京大学 生産技術研究所 As405)

TEL:03-5452-6545    FAX:03-5452-6544       E-mail:hshibata@beanspj.org


#6 「大面積電子織物の電導接点」

【筆者】クンプアン  ソマワン 他  :Macro BEANSセンター 

【技術説明】本発表は、繊維状基材連続微細加工としてシートデバイスの応用を広げるために縦横ファイバーの電気的な接触技術開発です。

【研究の背景と今後の展開】衣服にセンサや電気回路を埋め込む技術であるエレクトロニクス・テキスタイルの実現には機能性ファイバーの成形技術が必要です。成果内容は次のとおり① 横縦ファイバー表面の相互に電気接続するためのマイクロ/ナノ構造を考案した。② ダイコーティング及びリール・ツー・リールインプリント装置を用いて、繊維状基材上に、マイクロ構造の製作技術を開発した。③ 製作したスプリングカンチレバー構造は、繊維状デバイス応用として縦横ファイバーのギャップが良好な電気接続が480Ωの低接触抵抗で繰返し500回数を確認した。今後は開発したリール・ツー・リール連続プロセスを用いた高速度接点構造を製作する。

【専門用語解説】ファイバー上に熱インプリントされたPEDOT:PSS(有機導電性ポリマー材料)カンチレバーアレイはエレクトロニクステキスタイルに対して、可動接点構造です。

【問合せ先】

クンプアン ソマワン、 三宅 晃司、 伊藤 寿浩       

BEANS研究所Macro BEANSセンター(産業技術総合研究所)

TEL:029-868-3883   FAX:029-868-3884  E-mail: ksommawan@beanspj.org


#7 「特殊材料ガスを用いないプラズマ化学輸送法による多結晶Si成膜」

【筆者】横山 吉典 他 : Macro BEANSセンター 

【技術説明】プラズマ化学輸送法により大気圧で多結晶Si成膜を実現し、この膜を用いて歪ゲージ型の圧力センサを世界で初めて製作した。

【研究の背景と今後の展開】環境・エネルギーの分野ではSi膜に代表される機能膜の大面積プロセス化が進みつつある。特殊材料ガスを用いない開放スキャン型装置が実現されれば、真空チャンバーの大型化に歯止めをかけ、装置コストの低減に繋がると考えられる。今回、 300℃、700torrという低温・大気圧下で多結晶Si成膜を実現した。さらに、このSi膜を用いて歪ゲージ型の圧力センサを製作し、その機能を検証した。今後は、チャンバーを用いない大気圧での噴出し型成膜装置の実現を目指す。

【専門用語解説】プラズマ化学輸送法:水素プラズマを用いて固体Si原料を気相中に取りこみ成膜する手法のこと。


【問合せ先】  

横山吉典、村上隆昭、徳永隆志    

BEANS研究所Macro BEANSセンター(産業技術総合研究所)

TEL:029-868-3883   FAX:029-868-3884   yyokoyama@beanspj.org


【その他用語解説】

MEMS2011:マイクロ・ナノテクノロジー分野での主要な国際学会。アメリカ、欧州・アフリカ、アジア・オセアニアの各地域で順次開催されている。今年はメキシコのカンクーンにて開催される。

BEANS(Bio Electromechanical Autonomous Nano Systems)プロジェクト: 「異分野融合型次世代デバイス製造技術」を開発する国(経済産業省)プロジェクト。事業委託者は独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)。2008年から5年間のプロジェクト。


マイクロナノ、バイオの異分野融合領域研究開発を実施。産官学の異分野の専門家を結集して集中研方式で行っている。開発マネジメントはコスト、スピード、効率、計画性を重視した企業型マネジメント手法を取り入れている。知的財産権の取得を最も重視している。



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2010年10月29日 (金)

第27回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム報告

  電気学会センサ・マイクロマシン部門主催,第27回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムが2010年10月14日(木),15日(金)の2日間の日程で島根県松江市のくにびきメッセ(島根県立産業交流会館)にて(株)デンソーの川原氏を実行委員長として開催されました.本シンポジウムは日本機械学会マイクロ・ナノ工学専門会議主催(10/13-15),第2回「マイクロ・ナノ工学シンポジウム」,応用物理学会集積化MEMS技術研究会主催,第2回「集積化MEMSシンポジウム」(10/14-15)と同所同時開催されました.昨年より電気系、機械系と物理系の研究者が集い討議を行う場として,3つのシンポジウムが同じ会場にて同時に開催されています.1つのシンポジウムに参加すると他の2つのシンポジウムの参加が可能になっています.


  講演はPlenary 2件,Invited 2件,Oralが76 件,Poster 81件であり,実際のOral講演について自動車用MEMS,ナノバイオ材料とMEMS/NEMS,バイオセンシング,マイクロメディカルコンポーネント,フィジカルセンサ,プロセス・評価,プロセス技術,移動ロボットとケミカルセンサ,マイクロシステムと流体,マイクロアクチュエータ,ケミカルセンサ,表面・触覚センシング,最先端MMES実装技術1,2,センシングシステム,および企画セッションである集積化MEMSの応用と実用化1,2について,同時開催のシンポジウムと合わせて4つのパラレル・セッション形式で行われました.  

 BEANSプロジェクトからも以下のOral 4件,Poster 6件,同時開催シンポジウムに3件の発表がありました.

 

B1-2:Sommawan Khumpuang他,“Reel-to-Reel Compatible Patterning Technique for Conductive Polymer Microstructures”

B1-3:高松誠一他,“繊維状基板上への有機電子膜形成と製織技術を用いた大面積タッチセンサ”

B2-3:横山吉典他,“Siノズルを用いたSi微粒子のミスト吐出”

A3-4:Jung HeoYun他,“In Vivo Glucose Monitoring with Hydrogel Fibers”

P-1-8:張 毅他,“Spray Coating Technology of Thin and Uniform Photoresist Layer on Fiber Substrate”

P-1-11:大友明宏他,“スライドプレス型リールツーリール熱インプリントシステムの開発”

P-1-13:村上隆昭他,“プラズマ化学輸送法を用いた700Torrでのシリコン成膜”

P-1-15:柴山学久他,“ダイコーティング法による繊維状基材への連続的高速ナノ薄膜形成技術”

P-2-5:水頭英一他,“微生物を用いたマイクロ発電デバイスの開発”

P-6-1:加野智慎他,“マイクロゲルビーズを用いた微生物固定化利用に関する研究”

MNM-1B-7:冨澤泰他,“二物質同時接触型耐摩耗プローブのトライポロジー特性評価”

MNM-P11-1:西森勇貴他,“自己回帰モデルによるMEMS振動子パラメータ抽出法の提案”

MNM-P11-2:植木真治他,“ゲート・チャネル間電気機械相互作用を考慮したVibrating-Body Field Effect Transistorのモデリング”


 最終日の講演後には恒例の五十嵐賞等の表彰式が行われ,BEANSプロジェクトからはLife BEANSセンターの許允禎研究員が“In Vivo Glucose Monitoring with Hydrogel Fibers”の発表で4名の五十嵐賞の受賞候補に選ばれましたが,おしくも五十嵐賞の受賞は逃し,若手研究者優秀論文発表賞を受賞しました.

 


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         許允禎研究員表彰風景


 五十嵐賞は若手研究者(発表時点で35歳以下)による優秀な研究論文発表に対し授与されるものです.その他の受賞者は以下のとおりです.

■五十嵐賞

≫野田聡人@東京大学,

“表面センサネットワークのための低漏出ワイヤレス電力伝送”

■若手研究者優秀論文発表賞

≫榎本哲也@デンソー,

“赤外線吸収式マルチガスセンサ~超広帯域なファブリペロー分光器の開発~”

≫藤本祐士@立命館大学,

“圧力駆動バルーンアクチュエータの内視鏡的粘膜下層剥離手術用レトラクタシステムへの応用”

■最優秀ポスター賞

≫伊藤正敏@立命館大学,

“導電性液体を介した低拘束力配線手法のポテンショメータへの応用”

■最優秀論文賞

≫諫本圭史@サンテック,

“高速MEMSスキャナを用いたSS-OCT用高速波長走査型光源”

■優秀論文賞

≫Tetsuo Ohashi@島津製作所,

“Droplet-based PCR with Sample Preparation Using Magnetic Beads under the Control of Sol-gel Transition of Silicon Oil”

≫Kyungduck Park@東京大学,

“Novel Fabrication of Nanofluidic Channel and Behavior of Single DNA Molecules Induced by Nanoconfining Environment”

≫松崎 栄@東北大学,

“電気的接続をともなうLTCC基板とSi基板との陽極接合”

■技術展示賞≫ソニー(株)


 また,シンポジウムに併設して,技術展示が行われ,BEANSプロジェクトも技術展示,技術展示講演を行いました.

 

Beans          BEANS研究所技術展示


 尚,来年度は昨年度と同様に東京都江東区のタワーホール船堀において立命館大学の木股教授が実行委員長として開催されます.


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2009年11月11日 (水)

受容体を用いた化学量センサ構築で第26回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムにて五十嵐賞受賞

2009年10月15日と16日の二日間、江戸川区の船堀タワーで開催されました第26回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムにて五十嵐賞をいただきました。受賞の対象となった研究の発表タイトルは「膜タンパク質を選択的に発現させた細胞による多チャンネル化学量センサ」です。誠に恥ずかしながら、私自身は五十嵐賞が電気学会センサ・マイクロマシン部門にてご尽力された故 五十嵐伊勢美先生のお名前を冠したものであるとは最近まで存じ上げませんでした。受賞後、多くの方々からお祝いの言葉をかけていただく度に賞の重さを実感し、身の引き締まる思いです。


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賞状授与風景(柴田研究員撮影)


 本研究の目的は化学物質に対する生体の感受機能を利用した化学量センサの構築です。これはBEANSの研究テーマの一つであるバイオを機能素子として利用するというコンセプトに基づいています。細胞膜に膜タンパク質として存在する化学受容体はその構造により、極めて特異性の高い分子認識能力を有します。その化学物質の受容は細胞膜に存在するイオンチャネルを介して細胞膜を横切る大量のイオンの移動を促します。生体内ではこの電荷移動が細胞膜の電位変化を生み、最終的には脳まで伝達されます。我々は増幅器を通してこの変化を電流値の変化として検出することも可能です。この生体のシステムは特異性の高さと感度の良さを“分子レベルで”達成した系と捉えることができます。このように長い進化の過程を経て洗練されてきた微小な系を化学センサ素子として利用しない手はないというアイディアが本研究の出発点でした。

今日、化学受容体を含め、様々なタンパク質が各種の細胞を用いて人工的に作り出すことが可能ですが、我々が採用した細胞はアフリカツメガエルの未受精卵(卵母細胞)です。幸いにも共同研究先の東大先端研神崎研究室では蛾の化学受容体をアフリカツメガエルの卵母細胞で発現させており、すぐに適用可能でしたので、最初の化学センシングのモデルとして蛾由来の二種類の異なる化学受容体を利用しました。本研究の肝はこれまで顕微鏡下でマイクロマニピュレータを用いての一細胞ずつを対象としていた電位計測系を電極と融合した流路で小型化し、多点計測が可能な系にしたという点にあります。


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アフリカツメガエルとその卵母細胞


 アフリカツメガエルの卵母細胞は上図に示した通り、他の多くの細胞に比べ、直径が約1 mmと一細胞としては非常に大きいため、計測用電極の挿入が簡便に行えます。その上、多くの化学受容体の発現系が構築されていますので、MEMSを適用した本研究の趣旨に非常に良く合致しました。

作製したデバイスは流路とガラス管でガイドされた二電極から構成されています。微小流路に電極を併設することで、細胞が流れに沿ってトラップされると同時に電極が細胞にアクセスする仕組みです。この試作機構で電位計測系の小型化に成功しました。下図の写真が二本の電極が流路内で細胞にアクセスしている様子です。


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電極ガイド用の二本のガラス細管先端とそこに卵母細胞がトラップされた状態


 試験した結果、分子の構造が非常に似た化学物質を選択性良く識別することができ、複数の細胞でも同時計測が可能でしたので、多チャンネル化学量センサ構築への第一歩が踏み出せたと考えています。本研究はまだまだ途上ですが、これまで多くの方々にご協力頂き、ここまで研究を進めることができました。この場を借りてお礼申し上げます。また、今後とも宜しくお願い致します。(三澤宣雄 Life BEANS研究員)


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2009年6月19日 (金)

記者会見:「光る耳!? ~体内で光る血糖値センサーの開発」

 本日200/6/19 BEANSプロジェクトLife BEANSセンター から記者発表が行われ、マスコミ12社が参加しました。NHKとフジテレビジョンではTV取材も同時に行い、本日夜のニュースやインターネットで配信される予定です。(発表者:東京大学生産技術研究所 竹内昌治准教授(Life BEANSセンター長))。
 
「光る耳!? ~体内で光る血糖値センサーの開発~」というタイトルで記者発表

 血糖値に応じて光の強度を変化させるハイドロゲルを微細加工し、直径100ミクロン程度に揃ったビーズを作成することに成功し、さらに、これらのビーズをマウスの耳に埋め込み、写真(下)のように蛍光を観察することにが可能になりました。また、周辺のブドウ糖の濃度に応じて変化するビーズの輝度を体外から計測することもでき、将来の体内埋め込み型血糖値センサーにつながる技術といえます。
 
右耳に血糖値に応じて蛍光強度を変化させるマイクロビーズが埋め込まれたマウス(後頭部からの撮影)普段は光らないが、ブラックライトなど特殊な光を当てると光る様子が観察できる。

 糖尿病において合併症を防ぐためには、厳格な血糖値制御が必要である。現在、多くの糖尿病患者は一日数回、指などに針を刺し、血糖値を計測しています。しかし血糖値は、食事や運動によって、大きく変動するため、一日数回の計測では、十分な経時的変化をとらえることは難しかった。このため、24時間連続して血糖値計測が行なえる方法が切望されています。 ここで開発された技術を利用すれば、患者の負担なく体内にビーズを埋め込むことが可能で、皮下を通して連続して血糖値を計測できる可能性があります。睡眠中など、自らが計測することができない場合でも、自動的に(無意識のうちに)血糖値が計測できるシステムの実現が期待できます。

 この成果は、来週22日(火)米国デンバーで開催されるTransducers2009において、Life BEANSセンター研究員の柴田秀彬さんが口頭発表する予定です。

(安達淳治)

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2009年6月16日 (火)

BEANS欧州調査-1:Leti - MMC Joint Workshop

EANSプロジェクトでは、関連技術の最新動向を調査し、研究開発推進へ反映することを目的に調査活動を推進していますが、今回6月8日~12日の5日間で欧州の主要研究機関4カ所、VTT:フィンランド、Fraunhofer ISC:ドイツ、IMEC:ベルギー、Leti:フランスを訪問し、調査してきました。
その第一弾としてLeti - MMC Joint Workshopについて報告します。

マイクロマシンセンターとフランスの研究機関CEA/Letiは昨秋、Micro-Nano領域の技術開発において連携して推進する旨の協定を結びました。今回その第1回目の活動として6月11~12日フランス・グルノーブルのMinatecにおいて、Leti - MMC Joint Workshopが開催され参加してきましたので報告します。

・参加者30名
(日本:9名、フィンランドVTT:2名、ドイツFraunhofer:1名、イタリアSTマイ
クロ:2名、スイス:1名、残りはLeti関係者)
・日本からの参加者(敬称略)
 藤田博之(東京大学生産技術研究所)
 安達千波矢(九州大学未来化学創造センター)
 岡野克哉(NEDO技術開発機構)
 浅野由香(経済産業省)
 八尋正幸(九州先端科学技術研究所)
 中田安一(リンテック(株))
 田中雅彦(住友精密工業(株)、STS(英国出向))
 片白雅浩((財)マイクロマシンセンター)
 安達淳治(BEANS研究所)
・プログラム
June 11, 2009
 ・Components / specific applications.
  Philippe Robert : Overview of MEMS activities/products at Léti
  中田安一: Micro-Nano Solutions at Lintec
  片白雅浩: Optical Applications at OLYMPUS
 ・Integration, Packaging & Reliability.
  Gilles Poupon : The strategy of MEMS packaging and 3D integration at
Léti
  Didier Bloch: MEMS Reliability studies
  安達淳治: Unique Packaging Solutions at Panasonic
  田中雅彦: Development Activities for MEMS & IC Packaging SPP and STS

 ・Standardization in the MEMS processes.
  François Perruchot : Towards  generic process flows for MEMS
  安達淳治: Current Status and Strategy of Standardization in MEMS
 ・Advanced components and NEMS.
  Philippe Andreucci : Development of NEMS  and the nanoVLSI Alliance
  安達淳治: Novel Fabrication Technology for 3D Nano-structures
  安達千波矢: Advancement in OLED application: Display and Lighting
  八尋正幸: Nanostructured Organic Semiconductors

June, 12, 2009
 ・Federating projects / collaborations.
  Leti CEO:Outlines of Leti in MicroNano Technology
  浅野由香:METI's INNOVATION POLICY
  藤田博之: BEANS Project: Hetero-functional Integrated Device
Technologies
  André Rouzaud: Projects of More than Moore Devices in FP7
 ・Dicussion Roundtable
 ・ST Microelectronics  Crolles のCMOSライン見学
 ・Letiの200mmMEMSラインの見学(4,000㎡)

・日本からは企業の技術とアプリケーション紹介、標準化への取り組み、BEANSプロジェクトの紹介と研究内容について10のプレゼンテーションを行いました。

・Letiは高いSiプロセス技術を有しており、その強みを生かし、More Mooreを推進するとともに、More than Mooreでは、他の研究機関とアライアンスを組み進めています。
・Heterogeneous  Technology Alliance
 Leti、Fraunhofer研究所、VTT、CSEMによる異分野融合技術開発
・NanoVLSI Alliance
 Leti、Caltech
 バイオ、センシング分野のNEMS開発

この活動の中で、日本とのアライアンス構築を標榜しており、その対象がMMC、BEANS研究所です。
今回は最後のディスカッションの結果、以下の3項目について協力関係を構築するための活動を開始することとしました。
1.Surface Functionalization
  (Bio, Chemical Sensingに向けた表面改質、修飾)
2.有機デバイス用バリア層、封止技術
  (水分、酸素のバリアー技術とその性能評価)
  有機デバイスとMEMSの融合デバイスの可能性を探る
  (例えばフォトクロミック材料の展開など)
  バイオデバイスへの有機半導体の適用
3.MEMS分野の国際標準化
  (材料評価、デバイス、プロセスの標準化)

        写真 参加者とMinatec

Letimmcworkshop03_3

(安達淳治)

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2009年6月 1日 (月)

身長5ミリ!?~階層化された細胞組織の立体形成に成功~


 さる2009/1/22 BEANSプロジェクトでLife BEANSセンターから第1号の記者発表が行われ、NHKニュースや新聞各紙でも取り上げられました(発表者:東京大学生産技術研究所 竹内昌治准教授(Life BEANSセンター長))。
 
 「身長5ミリ!?~階層化された細胞組織の立体形成に成功~」というタイトルで発表。異なる種類の細胞を階層的に配置した均一直径のカプセルを作製することに成功し、さらにこのカプセルを3 次元の鋳型に入れ、培養することでカプセル同士をつなぎ、生きたまま立体構造を形成することにも成功したというもの。
 
デモ用の身長5 ミリメートルの人型の組織 この技術によって、生体のように、様々な種類の細胞が階層的に配置されている組織を形成できることになり、その結果、動物実験を行なわなくても薬物に対する反応などを正確に調べることができるようになる。というわけで、再生医療への応用も大いに期待されます。 
 
 今後このブログからも、BEANSプロジェクトの成果を逐次PRしていきたいと思っています。(BEANS研究所 青柳)
(この記事は、BEANS成長ものがたりの記事をインポートしたものです。)

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