3D BEANS

2013年3月 1日 (金)

MEMS2013参加報告

概要

 MEMS2013MEMS(微小電子機械システム:Micro Electro Mechanical Systems)をキーワードに、様々な分野の研究者が1年に一度集う世界的な会議である。本学会は2013121日から24日の4日間にわたり台湾/台北でおこなわれた。今回は776件のアブストラクトの投稿があり、66件のオーラルセッションと240件のポスターセッションの合わせて306件が採択された。ちなみに去年のパリ開催では採択論文は343件である。776件あった投稿のうち、日本からは181件あり国別では1位であった。2位は175件のアメリカ、3位には97件の中国であり、採択数では日本は92件とアメリカの94件に次いで2位である。分野別で見るとFabricationやμFluidicSystemが多く、バイオ・医療分野に関する発表が多かった。

所感および内容
 本会議においてBEANSプロジェクトの成果であるカーボンナノチューブ(CNT)の修飾技術の結果について、「INTEGRATION OF SINGLE-WALLED CARBON NANOTUBE BUNDLE ON CANTILEVER BY DIELECTROPHORESISという題目でポスター発表をおこなった。ポスターセッションは、2日目の午後13時から2時間かけておこなわれた。参加者も多く私の発表に対して数多くの質問が寄せられ、フランクな雰囲気で議論をおこなうことができた。ポスター発表の際に聞かれた質問としては主に、カンチレバー先端に形成されたCNTのバンドルの直径は100nmよりもっと細くすることができないのか?、架橋したCNTバンドルを引き剥がす際には、CNTよりも電極表面で剥がれることはないのか?ということに集中していた。CNTに興味をもつ研究者が多く、特にCNTの機械的性質を利用した歪みセンサーの研究をおこなっている方が、3次元の構造をもつ電極上にCNTを修飾させる方法について関心をもっており、上手く研究内容を説明することができて良かった。また本学会でカーボンナノチューブやグラフェンを対象とする研究があり、実際デバイスとしての性能、動作を評価した発表など最先端の研究成果に触れることができた。
 私は主にCNTやグラフェンなどの新規材料を用いたセンサーデバイスの情報収集をおこなった。ここではCNTやグラフェンを用いたガスセンシングの発表について以下の2点を報告する。これら2つの研究は、私が現在おこなっているCNTを用いたセンサー開発にとても参考になる内容であり、デバイスの性能を比較する上でも有益な情報であった。

①「A NOVEL GAS SENSOR USING POLYMER DSPERSED LIQUID CRYSTAL DOPED  WITH CARBON NANOTUBES
Yu Tse Lai et al, National Taiwan Univ, Taiwan

 本発表は、液晶にMW-CNTを混合させたものを電極上にパターニングすることで、アセトンを例にVOCガスのセンサー感度が向上したことを紹介していた。一般的に液晶分子はある方向に配向しており、その配向がガス吸着などにより転移することが知られている。そこで筆者らは液晶分子を電極間に配列させ、さらに単位体積当たりの表面積が大きいMW-CNTを液晶分子に混合させることで、センサー感度の向上を試みていた。初期の段階では液晶分子やMW-CNTは基板に対して平行に配向しており、アセトンのガスがこれらの表面に吸着することで配向が転移し、電極間の抵抗値が上昇するというものである。実験はアセトンの濃度(6008600ppm)に対する電極間の抵抗値の変化を液晶のみの場合、あるいはMW-CNTを混合させた場合のセンサー感度の比較をおこなっていた。実験結果から液晶にMW-CNTを混ぜることでセンサー感度が35%向上しかつセンサーの応答時間が短くなることが明らかになった。

②「TRANSPARENT AND FLEXIBLE TOLUENE SENSOR WITH ENHANCED SENSITIVITY ADSORPTION CATALYST-FUNCTIONALIZED GRAPHENE
Jungwook Choi et al, Yonsei Univ, Korea

 
本発表は、電極間に形成したグラフェンにコバルトの金属ポルフィリンを蒸着することでトルエンに対するセンサー感度が向上したことを紹介していた。グラフェンはCNTと同様炭素の六員環構造が2次元に規則正しく配列しており、電気特性や光学特性など様々な点で従来の材料に比べて優れており、今後デバイス応用に期待されている材料の1つである。筆者らは、CVDを用いてシリコン酸化膜の基板上に形成したグラフェン上に電極をパターニングし、さらにコバルト金属ポルフィリンを蒸着した。トルエン10ppmに対するセンサ感度について、グラフェンのみの場合とコバルト金属ポルフィリンを蒸着した場合の比較をおこなった結果、コバルト金属ポルフィリンを導入することで、センサー感度が3.8%から8.3%に上昇することがわかった

Mems2013

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2012年12月21日 (金)

AVS2012参加報告

【概要】

 American Vacuum Society (AVS, アメリカ真空協会) International Symposiumは毎年米国で開催され、真空関連技術や半導体、表面科学、マイクロ・ナノテクノロジー等に関した幅広い研究者が世界中から集まる世界レベルの伝統的な国際学会である。本学会においてBEANSプロジェクトの成果である中性粒子ビームを用いたMEMSデバイスのシリコンエッチングを実現した結果について発表することで、世界へ向けて研究成果を公表してその評価を得ると共に、マイクロ・ナノシステムやMEMS、プラズマエッチング技術に関する情報収集を行った。

 本学会では26の部門からトータルで約1300件の講演があり、米国を中心として、ヨーロッパ、日本の他、アジア等の世界各国の研究者が参加していた。
 セッションはApplied Surface Science, Biomaterial, Electronic Material and Processing, Magnetic Interfaces, Graphene and Related Materials, MEMS and NEMS、Nanometer-Scale Science, Plasma Science, Thin Film, Vacuum Technology, 等に分かれており、各セッションでは各分野の著名な研究者らによる招待講演が多数行われると共に一般の研究者・技術者らから最新成果を含む多数の発表が相次いだ。

 筆者は主にMEMS and NEMSとPlasma Scienceのセッションに参加した。MEMS and NEMSのセッションではナノクリスタルダイヤモンドワイヤーを用いたメカニカルスイッチ、カーボンナノチューブを用いた3次元MEMS構造の作製やCMOS-MEMSセンサー、光MEMS、等に関する発表が行われた。Plasma Scienceのセッションでは、大気圧、マイクロプラズマ、FEOL/BEOLエッチング、プラズマモデリング、プラズマ成膜、低ダメージエッチング、等に関する発表があり、Fin型FETやスピントロニクス材料のエッチングに関する講演時には300名程度が収容できる会場が満員となる時がしばしば見られた。

Avs2012miwa01_2

【研究成果発表】
 MEMS and NEMS Poster Session (MN-TuP4)において、筆者は “Low Damage Etching Process for Fabricating Micro Electro Mechanical Systems (MEMS) Devices using Neutral Beam”と題して、中性粒子ビームによるSiエッチングの研究成果に関するポスター発表を行った。発表ではアパーチャー表面のDLC(Diamond Like Carbon)コート、アパーチャーバイアス及びアパーチャーアスペクト比を最適化することで、線幅約200nm, アスペクト比約20のSiトレンチやカンチレバー等のMEMSパターンを塩素の中性粒子ビームによるエッチングを実現したことを示した。また、Si振動子パターンのエッチングにおいて、中性粒子ビームとDRIEでそれぞれエッチングした場合を比較した結果、中性粒子ビームでエッチングした場合には振動子の側壁面が平滑であり、振動のアドミッタンスがDRIEでエッチングしたものの約50倍高いことを報告した。

この発表に対して、中性粒子ビーム発生の原理や低ダメージである理由(カナダ、DALSA)、どの程度のアスペクト比までエッチング可能であるのか、エッチングレートはどの程度であるのか(東芝)、等の質問があった他、本発表に対して精華大(台湾)やSAMSUNGの研究者らが大いに興味を示し、ナノデバイスの作製には低ダメージエッチングが重要であることや中性粒子ビームエッチングの優位性を議論した。

これらの質疑応答から、中性粒子ビームを利用したMEMSデバイスを提案した研究成果に対する人々の関心の高いことが窺われると共に、中性粒子ビームという革新的技術を今後さらに世界中の研究者・技術者へ広く知らしめることが必要であると感じた。

【関連情報調査】

本学会においては下記のような発表が興味深く、また、聴講することで新たな知見を得ることができた。

<MEMS and NEMS session>

Fabrication of Nanomechanical Switch Based on Ultrananocrystalline Diamond Nanowire(A. V. SUMANT et.al, Argonne National Laboratory)

マイクロ波プラズマCVD法で成膜したグレインサイズが3-5nmのナノクリスタルダイヤモンド膜を、HSQ膜をマスクとしたEBリソグラフィーでパターンニングした後、RIEICPによってエッチングすることで線幅50-100nmのナノワイヤー及びナノメカニカルスイッチを形成した。ナノクリスタルダイヤモンドを用いることで100nsのスイッチング速度を得ることができたという内容の発表。[コメント] 最近、その耐高電圧性等からダイヤモンドパワーデバイス等の開発が発表されており、ダイヤモンドのナノスケール加工は今後重要な技術になると考えられる。本発表によりダイヤモンドのナノスケール加工が従来技術の応用によって可能であることがわかった

Carbon Nanotube Templated MEMS: Three Dimensional Microstructures in Semiconductors, Ceramics, and Metals(R. C. DAVIS et.al, Brigham Young University)

はじめに基板上にFeの触媒層からなるパターンを形成し、そのパターン上の垂直方向に長さ600μm程度のカーボンナノチューブを成長させることで、カンチレバー等の3次元MEMSや半導体、セラッミクスデバイスを形成するというユニークな発想に基づく研究。

[コメント] エッチング等のトップダウン手法によって高アスペクト比の3次元構造を形成することは困難な場合が多いが、本研究のようなボトムアップ手法を用いることでデバイス製造プロセスが容易になることが予想される。しかしながら、本研究の方法を用いることができる材料はカーボンナノチューブ等の垂直成長可能な材料に限られるという制約がある。そのため本研究の方法により、材料は限定されるが3次元構造を比較的容易に形成できる可能性が非常に高いと考えられる。

Plasma Science and Technology session>

[全体の印象] プラズマサイエンス・テクノロジーセッションにおけるデバイス製造プロセスに関係した講演では、FinFETの製造プロセスやプロセスプラズマから発生するVUV/UV起因のダメージに関する発表が目立つという印象を持った。特に、FinFETのチャネルとなる側壁部分への製造プロセス時に発生するプラズマダメージや、最先端の半導体デバイスにおいてSiリセスを引き起こすようなプラズマダメージに注目した発表が複数件見られた。BEANSプロジェクトにおいて筆者らが研究している中性粒子ビームはまさに超低ダメージデバイス製造を目指した研究であり、非常に時宜にかなったテーマであることを痛感した。以下に個別な発表から紹介する。

Molecular Dynamic Simulation of Possible Damage Formation at Vertical Walls of finFET Devices during Plasma Etching Processes(K. Mizotani et.al, Osaka University)

FinFETではSi側壁をゲートチャネルとして用いるため、プラズマエッチング時のイオン衝撃による側壁のダメージ発生が懸念される。そこで、HBrプラズマ中のH+Br+イオンによるSiエッチング時のダメージを分子動力学(MD)法でシミュレーションした。その結果、

H+では基板表面へ到達する程の深いダメージが生じる一方、より重いBr+イオンではH+よりも少ないダメージが生じることがわかったという内容の発表。[コメント] 本研究ではプラズマからのUV/VUV照射の影響は考慮されていないが、イオンとUV/VUV照射の相乗効果によって、より多くのダメージが発生することが予想される。

Controlling Correlations Between Ion and UV/VUV Photon Fluxes in Low Pressure Plasma Material Processing(M. J. Kushner et.al, University of Michigan)

プロセスプラズマ中のUV/VUVはダメージやシナジー効果などの様々な影響を引き起こすことから、プラズマ中のイオンとUV/VUV光子フラックスを個別に制御することが望まれる。そのためにはパルス制御放電が有効であると考えられることから、モンテカルロ(MC)シミュレーションにより、最適な放電条件を予測した。その結果、Ar/Cl2の混合ガスプラズマでは、Duty比に依存してイオンとUV/VUV光子フラックスの比が大きく異なることがわかり、パルスON時に発生する高エネルギー電子がイオンフラックスに比較してより多くのUV/VUV光子フラックスを発生させることがわかった。[コメント] 発表者であるKushner氏はプラズマエッチングにおけるシミュレーション研究の第一人者のひとりであり、彼らのグループを含めたプラズマエッチング関係の研究者らがプラズマ中のイオンとUV/VUVによるプラズマダメージに対して、以前に増して関心を持ち始めたことが窺われた。

New Method of damaged Layer Removal by Atomic Layer Etching for Interconnection in Semiconductor(J. K. Kim et.al, SAMSUNG Electronics)

最先端の微細半導体デバイスにおいては、コンタクトホール底部等にプラズマエッチングによる深さ数十nmのイオン衝撃ダメージが発生し、その影響が顕著になってきている。そこで、Arの中性粒子を用いた基板シリコンの原子層エッチング技術を開発し、基板シリコンのダメージ層を除去した。その方法は塩素ガス分子を基板へ吸着させた後、その吸着層へ低エネルギーのAr中性粒子を照射することで、付加的なダメージを発生させることなく、原子層でのシリコンエッチング反応を生じさせるという発表。[コメント] この発表に対してエッチングレートはどれ位なのか筆者が質問したところ、現在は原子層エッチングプロセスの1サイクルで2分間程度必要なのでエッチングレートとしては0.1nm/min程度ということになるが、サイクル時間の短縮を検討中とのことであった。原子層エッチング技術はエッチング反応を引き起こすための必要最小限のエネルギーを加えるという制限があることから、原理的にエッチングレートを増加させることは困難であると推測できるが、本発表のように数nmのダメージ層のエッチングに用途を限ればエッチングレートが低いことの悪影響は小さくなると考えられる。

Interface trap Generation by VUV/UV Radiation from Fluorocarbon Plasma(M. Fukasawa et.al, Sony Corporation)

プロセスプラズマ中のイオンとUV/VUVによるSiNx:H膜とSi基板との界面に対するダメージをMgF2(>115nm透過), Quartz(>170nm透過), BK7(>300nm透過)の各窓材料を用いたプラズマ照射実験とCV測定による界面トラップ密度測定から評価した。その結果、波長170nm以下のVUV照射では影響が見られず、170nm以上のUV照射により界面トラップ密度が増加することがわかった。また300nm以上の光照射にも影響は見られなかった。これらの結果は、VUV光がSiNx:H膜で吸収されるのに対して、170-300nmUV光はSiNx:H膜を透過してSi基板との界面に到達する為に生じたと考えられる。また、300nm以上の光はSiNx:H膜で反射されることから界面には影響がなかったと考えられる。 [コメント] 本発表は、単にプラズマから照射されるVUVのみならず、被照射膜による吸収、透過、反射も考慮した結果であり、実用的な知見が得られていると思われた。

Analysis of Run-to-Run Variability in the Bosch Process using rf Probe and Emission Spectroscopy Measurements(M. Fradet et al, Universite de Montreal)

BoshプロセスはMEMSデバイス製造に広く用いられているが、量産プロセスにおけるエッチングレート変動等のプロセスバラツキをモニタリングし、制御する必要がある。そこで、RFプローブとプラズマ発光分光により、量産装置におけるBoshプロセス時のプラズマをモニタリングした。その結果、エッチングレート低下とプラズマインピーダンスのリアクタンス成分の低下が連動していることがわかり、エッチングレート低下時にはチャンバーウオールのデポジションが増加していることが推測された。また、エッチング中のFラジカルの発光強度は減少し、デポジションプロセス時のFラジカルは増加していたことから、ウオールのデポジション量がレート変動に関与していることが裏付けられた。[コメント] 本発表は、半導体製造プロセスにおいて盛んに研究されているプロセス均一性もしくはプロセス変動対策に関する報告であるが、MEMS製造プロセスにおいてはあまり注目されていない。今後はMEMSプロセスにおいてもクローズアップされる重要な分野であると思われる。

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2012年9月28日 (金)

NANO2012参加報告(その3)

1.概要

 国際学会NANO2012は、International Committee on Nanostructured Materials (ICNM)により1992年から隔年に開催されているナノ材料およびその構造化に関する国際会議である。参加者はほとんどがユーロ圏又はトルコからの参加者であったため、今までの国際会議では出会えなかった研究者にBEANS成果をアピールする事ができたと思われる。また、ノベール賞を受賞した著名な研究者(Dr. Daniel Shechtman)のkeynote発表が聞ける等、充実したinvitedスピーチが多数存在した。

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2.内容・所感

研究成果発表:

同学会のポスタープレゼンテーションにて “Quantitatively comparison in several silicon surface conditions” というタイトルで、中性粒子ビームエッチング効果検証研究成果に関するポスター発表を実施。具体的には、プラズマエッチング後や、表面処理後またはその前の表面と、中性粒子ビームエッチング後の表面について、カンチレバーの振動特性とAFM計測での荒さ測定結果から中性粒子ビームエッチングの低損傷効果を定義づけた。
 発表は朝一番であったが、多くの参加者が訪れ、ポスター会場は人で溢れていた。従って、国外の関連研究者に対するアピールが行えたと思う。会場の雰囲気として、理論に基づいた発表や質問が多かったように思うため、理論的に突っ込んだ話にした方がより面白い議論が出来たかもしれない。これは各学会によって異なるのだろう。

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研究動向調査:

 同学会において、“Nano materials for electronics, magnetics and photonics”、“Nano materials for energy application”等のセッションを中心に、主にナノの電気電子物性、エネルギー関係を中心とした、最新研究動向の情報収集を行った。注目した研究発表とその概要を以下に列挙する。

“Schottky contacts on the nanoscale: charge transport in “All-Inorganic” Metal-semiconductor nanorod networks” (T. Lavieville, Y. Zhang, A. Genovese, A. Casu, L. Manna, E. D. Fabrizio and R. Krahne, Italy)

ナノスケールの半導体において、その電気的な接合状況はマクロスケールの現象と大きな乖離が見られる。これらの解析は大変興味深い研究課題として多く研究者が知恵を絞っている。発表者らはCdSeと金粒子を接合したダンベルのような構像(dumbbell structure, 自己組織的に作製可能)がある一つの理想的なモデルとしてこの問題を検討できると考え研究を行っているようである。
 本報告では、CdSeと金粒子のナノネットワーク構造の電流−バイアス特性がV^2/3に比例する事について理論的な議論がなされた。(通常バルク材料の場合はV^1/2に比例)この不可解な現象はどうやらある一部のネットワークで、Au—CdSe接続を電荷がトンネルしたと考えると良く理論式に一致するようだ。


“Periodical nano structuregrown on trace of CW laser scanning at high speed of 300 m/min” (S. Kaneko et.al., Kanagawa Ind. Tech. Center, Japan):

  日本からの発表もあった。高速レーザアニーリング技術の開発途中に見つかったと思われる周期的なナノストラクチャー作製手法に関する発表。P-ionがインプラント (dose量1x10^13 個/cm^2, 200 keV) されたアモルファスシリコンに波長532 nmのCW laserと近赤外レーザを同時に照射し速度300 m/minのスピードでレーザアニールを行うとそのスキャン方向から垂直にナノストラクチャー(高さ数十 nm ピッチ500 nm[ピッチは波長に依存?]) が一様に作成可能なようだ。

“Conversion of concentrated sunlight by nanostructured photovoltaics” (E. A. Katz, Israel) :

  2012/5/31シャープが集光型化合物3接合太陽電池で世界最高効率43.5%が達成された事をプレス発表した。Katzらはこの集光型の太陽電池(CPV)の方式を実現する為に、様々な現実の課題について検討している。まず発表者らは、アメリカPETALでの実地試験による結果等からCPVが十分実現可能である事を主張した。大面積を安価・抵抗率な太陽電池でカバーするよりも大面積の集光レンズ+高価だが高効率で小面積な太陽電池でまかなった方がコスト的に有利であるし、太陽光1000個分(1sun = 1mW/mm2換算)以上の集光でも効率的に電力を発生させることが可能なようだ。 気になるのは太陽電池の特性劣化だが、これは[通常の太陽電池の経過年数×集めた太陽の数]の経年変化特性と似た特性を示すようである。従ってまた、CPVを使えば、長い年月のかかる太陽電池の経年劣化実験を短縮する事も可能だと言っていた。更なる実用化に向けた調査が期待される。

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2012年9月11日 (火)

NANO2012参加報告(その2)

 国際会議NANO2012のNANOELECTRONICS, NANODEVICES, NANOCSEMICONDUCTORS, AND DEVICESのセッションにおいて、李が “MULTIPLE PROBES FOR PARALLEL SPM LAO NANO-LITHOGRAPHY” と題してオーラル発表を行いました。また、新規ナノ材料の形成及び応用などの分野を中心に、マイクロナノテクに関する最新研究動向の情報収集についても行いました。

以下にその内容について報告します。

研究成果発表

 大面積加工可能、またプローブ先端の耐久性と加工分解能を両立できるマルチ耐摩耗プローブ及びそれを用いたナノパターンの並列描画に関する研究発表を行いました。

 提案したマルチ耐摩耗プローブ先端は、マイクロスケールの機械的な接触部とその側壁に形成しているナノスケールの電極接触部、及び接触部から突出している庇部から構成され、プローブ先端に優れた耐久性とナノパターンの加工能力を持たせています。プローブの先端に庇構造を設けることで、回り込みを抑え、側壁のみへの金属性膜がウェハレベルでの加工が可能となっています。また、プローブ先端には、仮に摩耗が生じても安定して特性を維持できるように、均一な断面形状を持たせています。更に、本プローブ構造は複数本のプローブを持つため、SPMリソグラフィのスループットを向上させることもできます。

 発表では、MEMS技術を用いて作製した描画電極サイズが30nmのマルチ耐摩耗プローブに対して、(株)住友精密製のScanning Probe Nano Lithography(SPNL)システム((株)住友精密製)による描画実験により、マルチプローブによるナノパターンの並列描画に成功し、マルチ耐摩耗プローブ構造の有効性の検証ができたことを中心に報告しました。

 発表後、耐摩耗プローブリソグラフィの最高分解能や長距離描画後のプローブ形状変化の描画安定性に対する影響といった本質的な質問が寄せられ、本研究に対する聴講者の高い関心を感じました。

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研究動向調査

 新規ナノ材料の形成及び応用などの分野を中心に、マイクロナノテクに関する最新研究動向の情報収集を行いました。多くのオーラルセッションでは新規ナノ材料の開発、作製及び応用に関する発表が目立っていました。

 特に注目した発表とその概要を以下に記します。

1)THE SYNTHESIS OF DIFFERENT ZINC OXIDE NANOSTRUCTURES: TETRAPOD-LIKE WHISKERS, NANOCOMBS, NANOAEROPLANES, NANOBELTS, BEAD-LIKE NANOFORMS.(S.A. Al Rifai, A.E.Popov, M.S. Smirnov, S.V. Ryabzev, E.P. Domashevskaya.
Russian Federation)

 化学蒸着法(CVD法)を用いて、テトラポッドのようなウィスカー(T-ZnO)、ナノ航空機状、ナノ櫛状、ナノベルト及びビーズ状の酸化亜鉛の合成に成功したとの報告でした。原料ガス混合比と酸化の速度は酸化亜鉛のこれらの形態の成長に大きな影響を与え、これらの条件を制御することにより、酸化亜鉛の形態を制御することを可能としています。テトラポッド状のウィスカー(T-ZnO)を石英管の壁上の触媒なしで成長させ、T-ZnOの構造や形態を調べることで、T-ZnOの4つの足がすべて針のような形になり、[001]方向に成長していることを明らかにしています。

2) STABILISATION OF ENZYMES USING NANOPARTICLES.(T. D. Clemons, M. Fitzgerald, S. A. Dunlop, A. R. Harvey, B. Zdyrko, I.Luzinov, K. S. Iyer and K. A. Stubbs)

 酵素は高い特異性と触媒特性を有するため、工業と医療分野で大きな関心を集めていますが、酵素関連技術では、その固有の熱的不安定性が主要な課題となっています。更に、酵素の安定化技術及び固定技術は、酵素活性化と持続可能性及びリサイクル性向上のキー技術となっています。
 本研究では、カチオン性磁気や蛍光高分子ナノ粒子の存在下で酵素の多様性(β-グルコシダーゼ、β-ガラクトシダーゼおよび酸性ホスファターゼ)の安定化について調べ、ナノ粒子の存在下で酵素はナノ粒子を含まない酵素と比較して、一定な温度範囲内で、熱活性化と永続性(安定性)が高くなることを明らかにしている。これらの酵素の安定化には、ラクトースフリー、乳製品の生産から菓子製造まで酵素関連業界の特定のアプリケーションへの展開可能性が考えられている。更に、磁気や蛍光機能のナノ粒子を導入することにより、生体内イメージングと追跡をすることも可能になる。

所感

 今回で10回目を迎えるNANO2012は、ギリシャ、ロドースのRodos Palace Convention Centerで2012年08月26日(日)から8月31日(金)の期間で開催されました。主催は、ICNM (INTERNATIONAL COMMITTEE ON ANOSTRUCTURED MATERIALS)で、ナノ材料及びナノデバイスなどが特徴としたナノテク分野のあらゆる方面に関して研究結果が報告されていました。なお、国際会議NANOは、欧州及び米国を中心に隔年開催されるナノ材料関係の最大規模の国際会議で、近年、800~1000人各分野の研究者を引きつけています。各セッションは、十分な発表者と聴講者の十分な交流を与える構成となっているため、成果の発表だけでなく、MEMS分野でのナノ材料やその応用に関する最新研究動向の情報収集という点でも絶好の機会が得られました。

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2012年9月 6日 (木)

NANO2012参加報告(その1)

 中性粒子ビーム検証デバイスの成果として「VERTICAL VIBRATING-BODY FIELD-EFFECT TRANSISTOR FOR IMPROVED DYNAMIC PROPERTIES」のタイトルで、中性粒子ビーム検証デバイスの新型構造の提案とその効果に関する発表を実施した。また、MEMS関連のセッションでの最新の技術動向調査を行った。

研究件数と分類

 Ⅺ International Committee on Nanostructured Materials (NANO2012)は、2年に一度開催されるナノ材料およびナノ構造の世界有数の学会である。開催期間は、2012年8月26日(日)から31日(金)の6日間。” NANOELECTRONICS, NANODEVICES, NANOCSEMICONDUCTORS, AND DEVICES”、”NANOMATERIALS FOR ENERGY APPLICATIONS & GREEN NANO”、 “NANOMEDICINE, NANOBIOTECHNOLOGY ENVIRONMENT AND NANOTOXICOLOGY”、” MECHANICAL BEHAVIOR OF NANOSTRUCTURED MATERIALS”などBEANSに関連する21のテーマからなる8のセッションで構成され、6日間で6件のplenary talk、189件のinvited talk、246件のcontributed talkおよび300件のポスター発表が行われた。また、世界74カ国からの参加があり関心の高さが伺えた。

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技術動向調査

 著者は主に、“Environmental, Safety and Health (ESH) Issues of Engineered Nanomaterials”、“Nanoelectronics, Nanodevices, Nanostructured Semiconductors and Sensors (MEMS, NEMS.)”、“Nanostructured Solar Cells”の分野について技術調査を行った。発表内容はさまざまであったが、BEANSに関連するセッションの中から注目する2件の発表から技術情報収集を行ったので、以下の通り紹介する。


①Plenary Talk:アメリカのアルゴンヌ国立研究所O.Auciello氏から“SCIENCE AND TECHNOLOGY OF MULTIFUNCTIONAL ULTRANANOCRYSTALLINE DIAMOND (UNCD) FILMS AND APPLICATIONS TO A NEW GENERATION OF INDUSTRIAL, MICRO/NANOELECTRONIC, MEMS/NEMS, AND BIOMEDICAL DEVICES/SYSTEMS”と題して、超ナノ結晶ダイヤモンド(UNCD)膜を使った様々な研究成果報告が行われた。発表では、UNCD膜の作製方法およびMEMS/NEMSおよびバイオメディカル等での利用実績について紹介された。UNCD膜は、アルゴンヌ国立研究所がマイクロ・ナノデバイスへの応用を目的に開発し、特許を有する多機能薄膜である。そして、350-400℃下でAr(99%)とCH4(1%)を使用したマイクロ波プラズマCVD(MPCVD)法によって成膜され、2-5μmサイズの粒子によって構成される。現在、成膜レートは0.2-0.4μm/hourで4インチシリコンウエハ上への均一成膜が可能だが、6-8インチについては更なる開発が必要であるとしている。MEMS分野への応用例としては、ピエゾ抵抗カンチレバーによる基礎特性評価結果が示された[1]。ここでは、PZT/Pt/UNCD構造により高感度、低ノイズ、低電力駆動が可能であることが述べられ、これらを利用した振動発電とRFキャパシティブスイッチ[2]の紹介があった。RFキャパシティブスイッチでは、充放電時間がSiO2膜の場合と比較して5-6桁速くなる実験結果が示された。BEANSにおいては、MEMS表面を中性粒子ビームでトリートメントすることで特性や信頼性向上を目指している。中性粒子ビームや本研究に見られるように、奇抜な構造によるMEMS機能の発現や向上を目指すのでは無く、シンプルなMEMS構造を実用的な追加プロセスにより改善・向上するアプローチが実用化には最重要であると感じた。
〈参考文献〉
[1] S. Srinivasan et al: “Piezoelectric/ultrananocrystalline diamond heterostructures for high-performance multifunctional micro/nanoelectromechanical systems”, Appl. Phys. Lett. 90, 134101 (2007)
[2] C. Goldsmith et al: “Charging characteristics of ultra-nano-crystalline diamond in RF MEMS capacitive switches”, Microwave Symposium Digest (MTT), 2010 IEEE MTT-S International , pp.1, 23-28 May 2010

②Invited Talk:スペインのRovira i Virgili大学R. Ionescu氏から“APPLICATION OF NANOTECHNOLOGY AND CHEMICAL SENSORS FOR THE DETECTION OF MULTIPLE SCLEROSIS DISEASE BY RESPIRATORY SAMPLES”と題して、ケミカルセンサを使った呼気による多発性硬化症診断の研究成果報告が行われた。ケミカルセンサは、金ナノ粒子とカーボンナノチューブがベースとなる12種(7種類の金ナノ粒子センサと5種類のカーボンナノチューブセンサ)の交差反応性化学センサをアレイ化したものを使用した。センサは、シリコンウエハ上にフォトリソ、リフトオフ、ドロップキャスティング(AuNPセンサ:1回、PAH/SWCNTセンサ:2回)の順に行うことで作製した。実験では、20-40歳の34人の患者と17人の健康者から呼気サンプルを採取した。また、診断を複雑化させる喫煙の有無や性別も考慮した。そして、採取した呼気と真空を交互に5分サイクルでセンサアレイに曝露させた。その結果、8種類のナノセンサから得られたデータから84.3%の高い確率で、多発性硬化症を診断することに成功した。この結果から多発性硬化症診断の迅速かつ低価格な非侵襲方式が期待できるとしている。今後は、病気のフェーズによる違いや他の病気(パーキンソン病等)について検討するとしている。BEANSにおいては、ナノ粒子やカーボンナノチューブによるCO2センサの検討がなされているが、このような医療関連への展開の可能性を感じた。

成果発表

 最後に成果発表について報告する。今回、中性粒子ビーム検証デバイスの成果として「E VERTICAL VIBRATING-BODY FIELD-EFFECT TRANSISTOR FOR IMPROVED DYNAMIC PROPERTIES」のタイトルで、中性粒子ビーム検証デバイスの新型構造の提案とその効果に関するポスター発表を行った。質疑応答では、デバイスの構造、動作メカニズムおよび特性に関する細かな質問があり、発表内容について一定の理解が得られたと考えられる。また、2人の質問者とは名刺交換を行い、関連論文の送付依頼を受けた。


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2012年8月22日 (水)

APCOT2012参加報告

学会概要

 国際会議IEEE APCOT2012 (The Sixth Asia-Pacific Conference on Transducers and Micro/Nano Technologies)が中国、南京のJinlingホテルで2012年07月8日(日)から7月11日(水)の期間で開催されました。IEEE APCOTは隔年で開催される、アジア、太平洋地域での最大規模の国際会議であり、今回6回目になります。

 IEEE APCOTでは、MEMS加工技術、各種類トランスデューサ及びセンサーをはじめ、それらを応用したデバイス関連の研究が幅広く紹介され、BEANSの研究活動を世界にアピールする場としても最適であることから、3D-BEANSセンターでのテーマの一つである耐摩耗プローブの研究成果について口頭発表を行いました。

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研究件数と分類

 IEEE APCOT2012は351件の投稿中、241件が採択されており、採択率は約68.7%となっています。会議では、採択された241件(口頭発表107件、ポスター発表134件)の他、6件の基調講演、9件の招待講演が予定されていました。16カ国からの参加があり、開催国である中国の88件の採択数を筆頭に、日本(44件)、シンガポール(33件)、台湾(30件)、韓国(18件)と続いていました。国別採択数及び採択分野(トピック)別採択数の詳細は下図をご参考ください。

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研究成果発表

 IEEE APCOT2012のNano Devices and Nano Sensingのセッションにおいて、“A SIMPLE MASS-PRODUCTION-READY ANTI-WEAR PROBE FOR NANO-LITHOGRAPHY”というタイトルで、耐摩耗プローブの研究成果に関する口頭発表をしました。

 口頭発表では、大面積加工可能、またプローブ先端の耐久性と加工分解能を両立できる耐摩耗プローブを提案しました。提案した耐摩耗プローブは、その先端がマイクロスケールの機械的な接触部とそれの側壁に形成しているナノスケールの電極接触部、及び接触部から突出している庇部から構成され、プローブ先端に優れた耐久性とナノパターンの加工能力を持たせています。なお、プローブの先端に庇構造を設けることにより、回り込みを抑え、側壁のみへの金属性膜がウェハレベルでの加工を可能としています。更に、プローブ先端は均一な断面形状を有するため、仮に摩耗が生じても安定して特性を維持することができます。

  MEMS技術を用いて作製した耐摩耗プローブの耐久性と描画安定性の評価結果について報告しました。評価方法としては、具体的には、まず作製したプローブを用いて、大気中で、400nNの押しつけ力、-10Vのバイアス電圧、 1um/sの走査レートという条件で描画を行いました。その後、プローブ先端に400nNの押しつけ力及び-10Vのバイアス電圧を印加した上で、シリコン基板の表面で2mを走査しました。2m走査前後で、プローブ先端の形状変化を観察し、プローブ先端の機械的な接触でわずかに摩耗されていることが分かりました。更に、 2m走査した後、上記と同様な条件で、耐摩耗プローブによる描画を実施しました。2m走査後の耐摩耗プローブによって描画した線パターンが、走査前のパターンと一致していることを確認し、作製した耐摩耗プローブが2mの耐久性及び描画安定性を持つことを示しました。これは同じ先端電極サイズを有する市販プローブの耐久性の1000倍程度に相当します。

 発表の後、耐摩耗プローブリソについてどの程度の分解能まで出せるのか、描画基板のダメージ対策といった性能や課題、今後の展開に関する質問が多く寄せられ、関心が高いことが伺えました。私が発表した耐摩耗プローブに関連性がある研究が複数見受けられ、AFMプローブの信頼性向上に対する研究開発が注目されるようになりつつあるという感触を持ちました。

研究動向調査

 プロセス及び材料デバイスの評価等の分野を中心に、MEMS関連分野の最新研究動向の情報収集を行いました。多くのオーラルセッションで、新規プロセス、新規材料の特性評価方法及び新規デバイスの構造及び試作案の報告が目立っており、実用化より、新規性を重視している印象を受けました。

 以下に、特に注目した発表とその概要を記します。

1) INVESTIGATION OF HYDROGEN-ANNEALING EFFECT ON TORSIONAL STRENGTH OF SI BEAM OF SCANNING MICROMIRROR DEVICE

 水素アニール処理は単結晶シリコンビームのねじり強度に及ぼす影響を調べたものであり、水素アニーリングした後、シリコンビームのねじり強度が低下したという報告でした。本研究結果は中性粒子エッチングの効果のアピールに活用する等、BEANSでの今後の展開に参考なると思われます。

2) SILICON PN JUNCTION INTEGRATED CARBON NANOTUBE FIELD EMITTER ARRAY

 電子ビームリソグラフィ(EB)のスループットを向上するため、マルチ尖ったカーボンナノチューブ(CNT)フィールドエミッタアレイが開発されました。また、配線数の低減及びエミッタの高密度化ため、光スイッチングを導入しています。本研究はCNTの形成方法及び耐摩耗プローブリソグラフィの展開方針に大変参考になると思います。今後、プローブリソのアプリがより具体的に絞ることができました。

3) YOUNG’S MODULUS MEASUREMENT OF SUBMICRON-THICK ALUMINUM FILM BY MEMS RESONANCE TEST

 MEMS共振子の共振周波数の変化により、ヤング率を算出する方法を提案しています。具体的には、まず、Si製共振子を作製し、その初期共振周波数を測定しています。その次に、MEMS振動子の上に100nmのAl膜を成膜し、成膜後の振動子の共振周波数を再度測定を行っていました。成膜前後、MEMS共振子の共振周波数の変化により、100nmのAl薄膜のヤング率を算出しています。上記のMEMS振動子を用いて、理想値から-8%程度の測定精度で基材のヤング率を測定することができています。また、FEA解析結果の±10%の精度で、100nmアルミ薄膜のヤング率を測定することに成功しています。得られた100nmアルミ薄膜のヤング率は35GPaであり、約バルクアルミのほぼ半分でした。上記振動子はその他の薄膜の測定へ展開することも可能であり、再利用することもできます。

その他

 近年、IEEE APCOT会議は、300~500人各分野の研究者を引きつけています。そして、ポスター/オーラルセッションで100以上の選ばれた書類を発表するフォーラムがありました。その一つのセッション構成は、十分な機会を出席者、プレゼンターと出展者との交流に提供することができるので、MEMS分野の最新研究動向の把握及び情報収集の良い機会である。


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2012年7月 5日 (木)

MIPE2012参加報告(その4)

 国際学会MIPE2012は、日米の機械学会の共催にて3年に一度のみ開催される、情報・知能・精密機器関連では世界最高峰の学会である。
 本学会はHDD(Hard Disk Drive)の研究分野を中心にMEMS、ロボット、センサ等の最新研究が発表される学会として知られている。同学会に参加し、最先端のMEMS及び中性粒子ビームエッチング装置の応用分野について情報収集を行った。
また、3D-BEANS成果である中性粒子ビームエッチングの低損傷効果を明確に示すデータを発表し、我々の技術をアピールした。

研究成果発表
 Micro/Nanomechatronics-1セッションにおいて、“A New experimental approach to evaluate plasma-induced damage in micro-cantilever”というタイトルで、中性粒子ビームエッチング研究における成果の口頭発表を行った。
 具体的にはプラズマダメージにおける問題点(荷電粒子、真空紫外光)を提示し、それを取り除く中性粒子ビームエッチングという新しいエッチング手法の可能性を背景にMEMSデバイスでもエッチング界面の状態を気にする必要が出てきた事を主張した。そして、本発表では特にMEMSデバイスのプラズマダメージによる機械特性劣化を定量的に評価する手法を提示するとともに、中性粒子ビームエッチングの低損傷効果を示す実験データを示した。
 本プロジェクトの成果について国内外の関連研究者に対するアピールを行うことができた。質問者からは、プラズマダメージの問題点のうち、荷電粒子と真空紫外光のどちらが支配的なダメージかと言う質問があり、寒川らの研究成果を元に真空紫外光が支配的であること、荷電粒子はどちらかというと、直接的な形状の変化として影響が出る事を説明した。
中性粒子のエッチング手法を適用する事でデバイス特性の向上がみこめることをアピールできた。

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研究動向調査:
 本学会において、“Micro/Nanomechatronics”、“Micro/Nano system Science&Technology”等のセッションを中心に、研究動向調査を行ったので、以下に列挙する。

“Electromagnetic micro energy harvester for human locomotion” (Pratik Patel, Mir Behrad Khamesee, Canada):
 本発表では、マグネットとコイルを使用した小型(単三電池サイズ)のエナジーハーベスティングデバイスの検証を行っている。15 Hz、振幅14.375 mmで最大5.8 mWの出力を得られる。MEMSデバイスと比較してかなりの発電力であり、周波数も低い。単位体積当たりの発電力で比較する必要がある。また、電池のカタチで規格化するのは賢いやり方だと感じた。筆者は人の移動時に発生する振動を電力に変換する事を想定しているようだ。

“2D Tranjetory estimation during free walk using tiptoe mounted senosor” (Koichi Sagawa, Kensuke Ohkubo, Hirosaki University, Japan):
 足の先に付けた加速度、ジャイロの複合センサ信号を処理し、人の移動情報、場所を把握する技術は介護や、ナビゲーション技術に寄与するとして研究が行われている。
 従来の信号処理手法では信号にあるしきい値を決めて、一歩毎の間隔を把握している。本研究では、足の着地時のピークを中心に、足が進んでいる時の時間(gait time)と着地時のポイントを正確に求め、積分区間の決定を行う。その結果自由歩行時の誤差が従来方と比較し約50%改善された。

“Modeling, Fabrication and Characterization of a micromachined ZnO Unimorph for high-frequency nano-positioning” (Yanhui Yuan, Hejun Du, Kun Shyong Chow, Mingsheng Zhang, Shingapore):
 ZnOベースの圧電素子を用いてカンチレバーを振動させ、シミュレーションと実験結果に良い一致が得られた。感度は、12.09 nm/Vであり、発生力は6Vの起電力で90uNに達する。
 カンチレバーはSOIウェハを用いずに作製したにも関わらず、非常に成功に出来ている。

“Development of Acoustic Resonator with non-uniformthickness and mechanical property for wide frequency range” (Takayuki Kobayasi, Kazuki Zusho, Hirofumi Shintaku, and Satoyuki Kawano, Osaka Univ., Japan):
 耳の特殊なオルガン構造をまねる為に、筆者たちはネガレジストとシャドーマスクを使用した一括プロセスで両端支持梁の作製を行った。シャドーマスクにより透過する光の強度を調整する事で任意厚みのカンチレバー構造が作成可能であるが、紫外光の強度と、レジストの硬化深さの関係はリニアではない。この手法を用いて、3.02-139umの厚さの梁を一括で作製した。
 このようなSU-8レジストを使用した構造体は、電気的な検出部の作り込みが課題であると思う。


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2012年7月 4日 (水)

MIPE2012参加報告(その3)

 MIPEは日米の機械学会の共催により3年に一度のみ開催され、情報・知能・精密機器(マイクロ・ナノシステム、MEMSを含む)に関する研究者が世界中から集まる国際会議である。本会議においてBEANSプロジェクトの成果である、中性粒子ビームエッチングを用いたMEMS側壁の平坦化を実証した結果について、マイクロ・ナノサイエンス&テクノロジーのセッションで発表することで、世界へ向けて研究成果を広報してその評価を得ると共に、マイクロ・ナノシステムやMEMSに関する情報収集を行った。


研究成果発表
 Micro/Nanosystem Science & Technologyのセッションにおいて、“Novel Dry Process for Planarization of MEMS Sidewall using Neutral Beam Etching”と題して、中性粒子ビームエッチングの研究成果に関する口頭発表を行った。発表ではBOSCHプロセス時に生じるMEMS側壁のスキャロップ(凹凸)を中性粒子ビームエッチングを用いて平坦化できることを報告した。この発表に対してはスキャロップ平坦化の限界値や側壁下部のスキャロップが平坦化されるメカニズムについて等の質問があり、それに対して、平坦化の限界値はスキャロップの大きさそのものではなく、ビームのスキャロップ面に対する入射角度に依存していると考えられることから、平坦化の限界値のみを単独で示すことはできない旨を答えた。また、平坦化されるメカニズムについては、未だ明確には理解できていないが、ビームの入射角度分布が小さく、直進性が高いことから側壁上部のみならず下部のスキャロップも平坦化されると考えられることを述べた。これらの質問から、中性粒子ビームという新しい技術を利用したMEMSプロセスを提案した研究成果に対する関心の高いことが窺われた。

関連情報調査
 本学会において下記の発表が興味深く、また、聴講することで新たな知見を得ることができた。

S04_02: DLC COATINGS CHARACTERIZATION ON HDD RECORDING HEADS (A. Daugela et al, Seagate Technology LLC)
 AFM(原子間力顕微鏡)を利用した引っかきテストによってHDDのヘッド(AlTiC)をDLC(Diamond Like Carbon)でコーティングしたものと、していないものとの間で耐摩耗性(Wear Resistance)を比較した結果の報告であった。DLCはプラズマ耐性の高い物質でもあることから、その耐摩耗性とプラズマ耐性との相関関係が存在することが予想される。本研究の耐摩耗性測定方法を用いることで、DLCのプラズマ耐性を予測することができるのではないかというヒントを得ることができた。

S13_04: DEVELOPMENT OF ACOUSTIC RESONATOR WITH NON-UNIFORMTHICKNESS AND MECHANICAL PROPERTY FOR WIDE FREQUENCY RANGE (T. Kobayashi et al, Osaka Univ.)
 グレースケールマスクを用いてネガレジストを露光することで、厚さの異なる64個のレジストアレー(幅1.5mm、ピッチ約0.5mm、アレー全体は長さ30mm)を基板上に形成することができたという報告であった。各アレーの共鳴周波数と音速の測定結果から、レジスト厚さが150から50μmまで減少すると共鳴周波数は減少し、音速は増加した。レジスト厚さが50μmよりも薄くなった場合には共鳴周波数は減少したが、音速には変化が見られなかった。これは、露光量が減少したことで、レジストのクロスリンクが進行しなくなり、レジストの固化が進んでいないことによると推測された。この研究は比較的簡単に膜厚の異なる微小な有機膜アレーを作製できることを示したものであり、大変参考となった。また、本研究は補聴器等の小型な音響デバイスを作製することが将来的な目的であり、バイオ・医療・MEMSの融合を目指した研究の一つであった。

S14_04: Antireflection property of transport thin films deposited onto polyester film substrate by r.f. sputtering with a poly(tetrafluoroethylene) target (S. Iwamori, Tokai Univ.)
 これまでプラスチック基板上の反射防止膜としては無機材料膜が用いられてきたが、有機材料であるポリテトラフロロエチレン(PTFE)膜をスパッタ法で形成できることが報告された。実験方法としては、PTFEターゲットのRFスパッタリングを用いてポリエステル(PET)基板上へPTFE薄膜を形成した。膜構造を調べるため、ガラス基板上にも同様にPTFE薄膜が形成された。形成したPTFE薄膜の透過率は一般的な反射防止膜材料であるMgF2よりも高いことが確認できた。X線回折による構造解析から、PTFE薄膜はアモルファス構造であることがわかり、このアモルファス構造が高い透過率をもたらすと推測された。

S15_01: Dynamic properties of hot embossing polymer cantilever for VOC sensor (N. Shiraishi et al, NMEMS Technology Research Organization)
 揮発性有機化合物:Volatile organic compounds(VOC)センサーへの応用を目指し、共鳴質量センサーをSiではなくポリマー(PMMA:Polymethyl methacrylate)材料からなるカンチレバーで製作する研究に関する発表であった。作製プロセスには熱型押し(Hot Embossing)法を用いており、従来のSi材料のホト・リソ及びエッチングを用いた方法とは全く異なっていた。作製したカンチレバーのQ値は振動モードに応じて20から100まで変化しており、これは体積ロスに対するエネルギー散逸で説明できるという内容であった。Si以外の材料でカンチレバーを作製し、質量センサー等へ応用できる可能性を示した報告であった。

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MIPE2012参加報告(その2)

 Micromechatronics for Information and Precision Equipment (MIPE2012)は、日米の機械学会の共催にて3年に一度のみ開催される、情報・知能・精密機器関連では世界最高峰の学会である。開催期間は、2012年6月18日(月)から20日(水)の3日間。”Micro/Nanosystem Science & Technology”、” Micro/Nanomechatronics”、 “Sensor Networks & Wearable Information”、”Bio-medical Equipments”などBEANSに関連するセッションを含む34のセッションで構成され、3日間で142件のオーラル発表と2件の招待講演が行われた。また、遠方にも関わらず多くの日本人が参加しており関心の高さが伺えた。

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技術動向調査
 発表内容はさまざまであったが、”Intelligent Machines & Brain Science”と“Sensor Networks & Wearable Information”のセッションの中から注目する2件の発表から技術情報収集を行ったので、以下の通り紹介する。

①韓国Sungkyunkwan Universityの研究グループから“DEVELOPMENT OF A FINGER-TIP TACTILE SENSOR FOR SMALL-SIZE OBJECT GRASPING”と題して、ロボットの指先用途を想定したフレキシブル静電圧力センサの研究成果報告が行われた。センサの動作メカニズムは、静電容量の変化を検出する基本的な方式であるが、センサの材料には、ロボットの指先の動きに求められる柔軟性と伸縮性を満たすために、ニトリルゴムをベースに独自に開発した誘電高分子膜を使用している。そして電極には、市販の導電性シリコーンを使用している。作製プロセスは、アルミ製のロボットの指型に誘電高分子膜と導電性シリコーンをディップコーティングによって順に成膜する。内部の導電膜層には12のエリアを形成する銅電極が形成されている。このように作製したセンサは、最後に型から剥離しロボットに装着することで完成する。著者らは、作製したセンサを用いることで、ロボットの指先で小さな球を転がすことに成功している。最後に著者らは12のエリアから得られる圧力および位置情報から物を握るための情報が得られるとしている。ここでは、ディッププロセスおよび圧力センサのアプリに注目したい。ディッププロセスは、BEANSにおいてもナノ粒子配列のテーマで検討が進められているプロセスである。目的は異なるがプロセスの簡便性については同様であり、マイクロ・ナノデバイスの形成プロセスとして今後重要となることが確認できた。また、アプリについては、近年MEMS市場で注目されるロボット関連であった。他の発表テーマでは圧力センサを用いた助産婦教育支援アプリが提案されており、ロボット、介護、健康関連は引き続き重要なトレンド分野であることを確認した。
参考文献:Program and Extended Abstracts (冊子/CD-ROM) p.231

②埼玉大学の研究グループから“PREDICTIVE MODELING OF THERMAL COMFORT BASED ON RELATIONSHIP BETWEEN OCCUPANT'S SATISFACTION AND THERMAL ASPECTS USING SENSOR NETWORK” と題して、ニューラルネットワークを用いた居住者の快適温度予測ができるセンサネットワークの研究成果報告が行われた。著者らは実際に温度センサと湿度センサを居住空間に設置しセンサネットワークを形成し、フィールド試験を行っている。居住者から温度と湿度の快適さを数値化した情報をフィードバックし、これを繰り返すことで快適温度予測が可能なニューラルネットの構築に成功している。ここでは、センサネットワークの最適化へのアプローチについて注目したい。2010年度にGdeviceで実施されたセンサネットワークシステムでは、センサモジュールの開発、搭載センサの省電力化、イベント起動スイッチの検討などハードによる最適化を目指した。このようにハード・ソフトが別々に最適化するのでは無く、連携による新の最適化の必要性を実感した。一方で、著者らのセンサネットワークにおいても多くのセンサモジュールが使用されており、実用化に向けてセンサモジュールの無線化は必須であると感じた。このようなセンサネットワークのトレンド情報は、中性粒子ビーム評価デバイスで検討中であるバンドパスフィルタの仕様に反映することができる。
参考文献:Program and Extended Abstracts (冊子/CD-ROM) p.416

技術成果報告
 最後に成果発表について報告する。今回、中性粒子ビーム検証デバイスの成果として「EVALUATION OF THE RESONANCE FREQUENCY SHIFT OF VB-FET CAUSED BY JOULE HEATING AT THE CHANNEL」のタイトルで、中性粒子ビーム検証デバイスの伝熱解析結果を口頭発表した。質疑応答では、伝熱解析計算における前提条件に関する細かな質問があり、発表内容について一定の理解が得られたと考えられる。

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2012年6月29日 (金)

MIPE2012参加報告(その1)

 国際学会MIPE2012は、日米の機械学会の共催にて3年に一度のみ開催される、情報・知能・精密機器のメカトロニクス関連では世界最高峰の学会である。発表件数は150件程度と中規模ではあるものの、特にHDD (Hard Disk Drive) を初めとする情報機器のナノトライボロジーに関する研究分野では、学術界のみならず産業界からも、実用化に即した世界最先端の研究成果が多数発表される場として知られている。同学会に参加し、最先端のMEMS及びナノトライボロジー研究に関する情報収集を行った。
 また、産学各界における世界最高峰の技術者が集結する同学会は、BEANSの研究活動を世界にアピールする場としても最適であることから、3D-BEANSセンターにおけるナノトライボロジー研究成果についての口頭発表を行った。

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研究件数と分類
 キーノート、ゲストスピーチを含めた本学会の全講演144件における、セッションごとの発表件数を以下に示す。情報・知能・精密機器メカトロニクスの学会という成り立ちから、HDDの潤滑・機構・制御技術に関するセッションの発表件数だけで全体の1/3強を占めている。中でも潤滑に関する発表件数は群を抜いている。

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 次に、国別発表件数の割合を以下に示す。日米の機械学会の共催ということで、日本からの発表が約半数を占めているが、対する米国機械学会(ASME)側の発表者は世界各国に亘っており、実質的に『世界機械学会』の様相を呈している。また、発表国は実際に情報・精密機器(HDD、光ディスク等)のビジネスを行っている国(日、米、韓など)に集中しているが、特に国を挙げて情報ストレージ関連産業育成に取り組んでいるシンガポールの健闘が目を引く。


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研究成果発表
 Micro/Nanosystem Science & Technologyのセッションにおいて、“Investigation on the three tribological factors (electric contact resistance, wear and friction) at a nano-scale contact area of probe devices”というタイトルで、ナノトライボロジー研究成果に関する口頭発表を実施。具体的には、ナノスケール摺動接触面を有するMEMSプローブデバイスを実用化する際のトライボロジー関連3大機能要求(接触電気抵抗低減、摩擦力安定化、耐摩耗性向上)に対して、系の構成材料が備える諸々の材料物性がそれぞれどのように寄与しているのか、という課題に対する調査と考察を行った結果を報告した。
 発表は学会のメイン会場にて行われ、多くの聴衆が参加する中、本プロジェクトの成果について国内外の関連研究者に対するアピールを行うことができた。チェアマンからは、ともすれば専門的すぎて難解になりがちな、非常に実践的で堅実なトピックスを、大変分かり易く説明しているとの好意的な講評を頂いた。また、『最終的に実用化を目指す場合、ナノスケール摺動接触面における最適な組み合わせは何になるのか』といった質問も受け(→貴金属の表面を極薄の導電性酸化膜で被服した系が最適、と回答)、ナノプローブデバイスの実用化に対する関係者の関心の高さを伺い知ることが出来た。


研究動向調査
 同学会において、“Head/Media Interface and Tribology”、“Drive Mechanisms”等のセッションを中心に、主としてナノトライボロジー及び情報機器向けMEMS関連分野を中心とした、最新研究動向の情報収集を行った。注目した研究発表とその概要を以下に列挙する。

“Design principle of micromechanical probe with an electrostatic actuator for friction force microscopy” (K.Fukuzawa et.al., Nagoya University, Japan):
 摩擦力顕微鏡においては、検出プローブの曲げ(荷重方向変形)と捩れ(摺動方向変形)のモードが相互作用を及ぼし、両者の切り分けを阻害することが課題となっている。これを防ぐため、発表者らはMEMS技術を用いて荷重方向変位と摺動方向変形を完全に切り分けられる、特殊な構造のプローブを構築した。更に発表者らは、カンチレバーの側壁に静電型の駆動アクチュエータを追加構築することで、摺動速度が速い領域での摩擦力計測にも成功している。
 摩擦力の精確な定量化や、摺動速度の高速化に関しては国内外多くのトライボロジー関係者が頭を悩ませている点であり、独自構造のMEMSプローブを用いてこうした課題を解決している点は大いに参考になる。更に着目すべきは、これらのMEMSプローブの作製を、高価なBoschプロセス(深掘りエッチング)を用いずに安価な水酸化カリウム(KOH)水溶液によるSi異方性Wetエッチングプロセスのみで実施している点。設計制約が非常に大きいWetプロセスでここまで複雑な形状のプローブ作製を実現する手腕は賞賛に値する。

“Robust optimum design of hydrodynamic bearings for small size hard disk drive spindle motors” (Y.Sunami et.al., Tokai University, Japan):
 HDDのスピンドルモータ向け流体軸受の設計において、実際の量産時に発生する部品寸法公差ばらつきの影響を加味した上で、最もロバストかつ性能が最大となるような最適設計を導出するトライボロジーシミュレータを構築している。
 部品寸法交差の影響を総当り的に考慮するシミュレーションの技術的難しさもあり、えてして大学等研究機関からの報告は、量産性や製造性を無視した理想状態での設計最適化に関するものに偏りがちである。そうした中、量産時の部品交差を考慮した実用的な研究を行っている発表者らのグループは注目に値する。同グループは他にも本学会で、流体軸受の衝撃試験に関する報告を行っていたが、そちらで提案されている衝撃試験装置の構造も独創的で興味深いものであった。

“Behavior analysis of air bubble in oil lubricant of FDBs at low speed operating condition” (K.M.Jung et.al., Hanyang University, Korea):
 HDDのスピンドルモータ向け流体軸受において、特に低速回転時における軸受内混入気泡の排出メカニズムに関して、シミュレーション検討及び実機確認を行っている。流体軸受における気泡混入問題は、同軸受の製品信頼性を決定付ける重要項目であり、そうした実践的な検討を大学の研究機関が行っていることに注目したい。
 上記の発表以外にも、Hanyang大からはHDDスピンドルモータ用流体軸受に関する発表が3件あり、いずれもが設計最適化、耐衝撃性など強く産業応用を意識した発表であるとともに、その殆どが韓国Samsung Electro-Mechanics社の支援を受けた研究である。同社はつい先ごろ、日本のアルファナテクノロジー社を買収して本格的にHDDスピンドルモータ事業に参入した経緯があり、その技術力向上に向けて韓国内の研究機関を巧みに使いこなしている様子が見て取れる。日本企業としても産学連携の面で大いに参考にすべき点である。

“Silicon-polymer composite electro-thermal microactuator for high track density HDDs” (J.Yang et.al., Data Storage Institute, Singapore):
 HDDの高トラックピッチ化を目的とした、高精度位置決めMEMSマイクロアクチュエータ付きHDDヘッドスライダに関する報告。こうした用途のMEMSアクチュエータには従来、櫛歯型構造の静電駆動やPZT素子の圧電駆動を用いたものが多かったが、発表者らはSi構造体と樹脂材(SU-8)を積層した熱アクチュエータを用いて同様の機能を実現している。熱アクチュエータは、HDDでは既にヘッドの浮上量制御に使用されており、構造が単純で大きな変位が得られるというメリットを有するが、動作応答速度が遅いという弱点があった。しかし発表者らは構造最適化により、msecオーダでの数10nmストロークのヘッド駆動に成功している。
 シンガポールの国立研究機関であるData Storage Instituteは、HDDを初めとする情報記録デバイスに関するユニークな研究を多数実施している機関として知られ、本学会でも多くの発表を行っている。本研究に関しても、一見HDD位置決め用途には適さない熱アクチュエータをきちんとHDDヘッドスライダ内に作りこみ、実機評価を行うインテグレーション力は大したものである。但し、Si構造体の狭い隙間にSU-8をスピンコートで塗布するという製造プロセスの量産性には疑問が残り(出張者も質疑応答でその旨を質問したが、納得のいく回答は得られなかった)、実機適用に向けてはまだ課題があるものと考える。

“Design of carriage with two-layer coils for hard disk drive actuator” (K.Suzuki et.al., HGST, USA):
 厳密にはMEMSアクチュエータの研究ではないが、興味深い発表なのでここに紹介する。HDDのヘッド位置決めに用いるボイスコイルアクチュエータにおいては、マグネットの磁気中心とコイルの物理的中心がオフセットした際に生じるコイル共振モードの励振が、高精度位置決めの課題となっていた。発表者らは、コイルを上下2層に分割し、中心のズレに応じてそれぞれのコイルにかけるパワー配分を変化させることで、この共振モードの抑圧に成功している。
 追加の部品等を導入することなくコイルの上下分割のみで機能を実現していることから、本技術を実機適応する際に装置コストや製造性に与えるインパクトは限りなく低いと考えられ、その点では非常に実用化に近い。トータルでコイルが発生し得る最大パワーの低下、ひいては装置パフォーマンスの低下が懸念されるが、それを差し置いても注目すべき研究。
 嘗て日立グループに所属していたHGST社は、HDDビジネスで高いシェアを誇る傍ら、非常に外部への研究発表に熱心な会社として知られており、本学会でも多数の発表を行っているが、こちらも近年、米国Western Digital社の資本下に入った。こうした旺盛な研究意欲や外部指向性を持つ会社が外資の手に渡ってしまうことは残念である。

“Hard particles induced physical damage and demagnetization in the head-disk interface” (J.Zhao et.al., Xi’an Jiaotong University, China):
 HDDヘッドスライダの信頼性に関する発表。HDDヘッドスライダの浮上中に、衝撃等によって発生したumスケールの微小パーティクルが接近すると、スライダ表面のエアベアリングパターンがパーティクルを巻き込んでしまい、記録媒体表面に塑性変形、熱減磁等のダメージを発生させることが装置信頼性上の問題となっている。発表者らは、実際のヘッドスライダ及びドライブを用いた実験により、パーティクルのサイズごとに異なってくる発生現象を、AFM(Atomic Force Microscope)、MFM(Magnetic Force Microscope)等のプローブ顕微鏡システムを駆使して解明している。
 HDDトライボロジー関連研究の大家であるカリフォルニア大バークレー校のBogy教授らのグループとのコラボレーションによる発表であるが、1st Authorは中国研究機関の所属である。現在、HDDの装置ビジネスの開発主体にはなっていない中国の研究機関からこうした実践的な発表が出始めていることには注視する必要がある。

その他
 本学会のBanquetteにおいて、米Seagate社のHDD機構系開発部門のVPであるHarlan Kragt氏のゲスト講演が行われた。技術的な話題はあまり含まれていないものの、HDD業界のビジネス戦略に関して極めて示唆に富んだ内容であったため、参考までに(質疑応答内容を含めた)講演内容の要旨を以下に示す。

・ HDD業界の状況や将来については様々な意見があるが、発表者は現在が過去最良の状況だと認識している。事実、業界関係各社の収益も非常に良好である。これは、なによりプレイヤーの数の減少(現在はSeagate社、Western Digital社、東芝の3社)に伴う売価安定化の寄与するところが大きい。
・ 今後も、情報記録ニーズの伸びは年率40%程度と予測され、大容量低コストストレージの需要が減ることは無い。一方、これに対し今後の面記録密度の伸びは年率25%以下と見積もられる。この乖離をどう埋めるかが技術的チャレンジとなる。一つの解決策は、ドライブ1台あたりのディスク枚数、及びヘッド個数を増やすこと。従来のようにディスク1枚あたりの容量ばかりに着目するのではなく、今後はあくまでビット単価で議論することが重要。
・ SSD(Solid State Drive)等の半導体ストレージによってHDDビジネスが死ぬ、という議論は終わりを迎えた。現存する両者間のビット単価の乖離は、今後も埋まることはないと予想している。フラッシュメモリは、単位収益を上げるために必要な投資額が今後拡大していくばかりであり、継続的に収益を上げられる体質のビジネスではないと考えている。
・ 記録密度向上のための次世代技術として、まずShingled Recording技術が導入されるのは規定路線。2自由度アクチュエータも実用化段階に入っている。その後はHAMR(Heat Assisted Magnetic Recording)が来ると予想している。HAMRにおいて必須である発光素子を搭載したヘッド&ドライブ構造は確かにメカ的には大きなチャレンジだが、実現できないことはないと考えている。それに対し、BPM(Bit Patterned Media)等加工媒体の実現に向けたハードルは極めて高く、出来たとしてもHAMRより後になるだろう。HGST社の技術者達が現在でもBPMに強く固執していることには違和感を覚える。
・ 繰り返しになるが、HDD業界は現在が過去最良の状況である。以前と比べて技術課題が極端に高難度化しているという認識は無い。将来予想されるニーズを満たすために、実現可能な技術課題をクリアしていく、という点では昔も今も技術者がやるべきことに違いは無い。プレイヤー企業の数が減った分、業界トータルでの技術者雇用数は減っているかもしれないが、この業界に技術者の活躍の場があることは今後も変わらない。本学会で研究発表を行った若い有望な学生達には、是非この活発な業界で働くことを志向してほしい。

以上

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