【概要】
American Vacuum Society (AVS, アメリカ真空協会) International Symposiumは毎年米国で開催され、真空関連技術や半導体、表面科学、マイクロ・ナノテクノロジー等に関した幅広い研究者が世界中から集まる世界レベルの伝統的な国際学会である。本学会においてBEANSプロジェクトの成果である中性粒子ビームを用いたMEMSデバイスのシリコンエッチングを実現した結果について発表することで、世界へ向けて研究成果を公表してその評価を得ると共に、マイクロ・ナノシステムやMEMS、プラズマエッチング技術に関する情報収集を行った。
本学会では26の部門からトータルで約1300件の講演があり、米国を中心として、ヨーロッパ、日本の他、アジア等の世界各国の研究者が参加していた。
セッションはApplied Surface Science, Biomaterial, Electronic Material and Processing,
Magnetic Interfaces, Graphene and Related Materials, MEMS and NEMS、Nanometer-Scale
Science, Plasma Science, Thin Film, Vacuum Technology, 等に分かれており、各セッションでは各分野の著名な研究者らによる招待講演が多数行われると共に一般の研究者・技術者らから最新成果を含む多数の発表が相次いだ。
筆者は主にMEMS and NEMSとPlasma Scienceのセッションに参加した。MEMS and NEMSのセッションではナノクリスタルダイヤモンドワイヤーを用いたメカニカルスイッチ、カーボンナノチューブを用いた3次元MEMS構造の作製やCMOS-MEMSセンサー、光MEMS、等に関する発表が行われた。Plasma
Scienceのセッションでは、大気圧、マイクロプラズマ、FEOL/BEOLエッチング、プラズマモデリング、プラズマ成膜、低ダメージエッチング、等に関する発表があり、Fin型FETやスピントロニクス材料のエッチングに関する講演時には300名程度が収容できる会場が満員となる時がしばしば見られた。
【研究成果発表】
MEMS and NEMS Poster Session (MN-TuP4)において、筆者は “Low Damage Etching
Process for Fabricating Micro Electro Mechanical Systems (MEMS) Devices
using Neutral Beam”と題して、中性粒子ビームによるSiエッチングの研究成果に関するポスター発表を行った。発表ではアパーチャー表面のDLC(Diamond
Like Carbon)コート、アパーチャーバイアス及びアパーチャーアスペクト比を最適化することで、線幅約200nm, アスペクト比約20のSiトレンチやカンチレバー等のMEMSパターンを塩素の中性粒子ビームによるエッチングを実現したことを示した。また、Si振動子パターンのエッチングにおいて、中性粒子ビームとDRIEでそれぞれエッチングした場合を比較した結果、中性粒子ビームでエッチングした場合には振動子の側壁面が平滑であり、振動のアドミッタンスがDRIEでエッチングしたものの約50倍高いことを報告した。
この発表に対して、中性粒子ビーム発生の原理や低ダメージである理由(カナダ、DALSA)、どの程度のアスペクト比までエッチング可能であるのか、エッチングレートはどの程度であるのか(東芝)、等の質問があった他、本発表に対して精華大(台湾)やSAMSUNGの研究者らが大いに興味を示し、ナノデバイスの作製には低ダメージエッチングが重要であることや中性粒子ビームエッチングの優位性を議論した。
これらの質疑応答から、中性粒子ビームを利用したMEMSデバイスを提案した研究成果に対する人々の関心の高いことが窺われると共に、中性粒子ビームという革新的技術を今後さらに世界中の研究者・技術者へ広く知らしめることが必要であると感じた。
【関連情報調査】
本学会においては下記のような発表が興味深く、また、聴講することで新たな知見を得ることができた。
<MEMS and NEMS session>
Fabrication of Nanomechanical Switch Based on
Ultrananocrystalline Diamond Nanowire(A. V. SUMANT et.al, Argonne National
Laboratory)
マイクロ波プラズマCVD法で成膜したグレインサイズが3-5nmのナノクリスタルダイヤモンド膜を、HSQ膜をマスクとしたEBリソグラフィーでパターンニングした後、RIEとICPによってエッチングすることで線幅50-100nmのナノワイヤー及びナノメカニカルスイッチを形成した。ナノクリスタルダイヤモンドを用いることで100nsのスイッチング速度を得ることができたという内容の発表。[コメント] 最近、その耐高電圧性等からダイヤモンドパワーデバイス等の開発が発表されており、ダイヤモンドのナノスケール加工は今後重要な技術になると考えられる。本発表によりダイヤモンドのナノスケール加工が従来技術の応用によって可能であることがわかった。
Carbon Nanotube Templated MEMS: Three Dimensional
Microstructures in Semiconductors, Ceramics, and Metals(R. C. DAVIS et.al, Brigham Young
University)
はじめに基板上にFeの触媒層からなるパターンを形成し、そのパターン上の垂直方向に長さ600μm程度のカーボンナノチューブを成長させることで、カンチレバー等の3次元MEMSや半導体、セラッミクスデバイスを形成するというユニークな発想に基づく研究。
[コメント] エッチング等のトップダウン手法によって高アスペクト比の3次元構造を形成することは困難な場合が多いが、本研究のようなボトムアップ手法を用いることでデバイス製造プロセスが容易になることが予想される。しかしながら、本研究の方法を用いることができる材料はカーボンナノチューブ等の垂直成長可能な材料に限られるという制約がある。そのため本研究の方法により、材料は限定されるが3次元構造を比較的容易に形成できる可能性が非常に高いと考えられる。
<Plasma Science and Technology session>
[全体の印象] プラズマサイエンス・テクノロジーセッションにおけるデバイス製造プロセスに関係した講演では、Fin型FETの製造プロセスやプロセスプラズマから発生するVUV/UV起因のダメージに関する発表が目立つという印象を持った。特に、Fin型FETのチャネルとなる側壁部分への製造プロセス時に発生するプラズマダメージや、最先端の半導体デバイスにおいてSiリセスを引き起こすようなプラズマダメージに注目した発表が複数件見られた。BEANSプロジェクトにおいて筆者らが研究している中性粒子ビームはまさに超低ダメージデバイス製造を目指した研究であり、非常に時宜にかなったテーマであることを痛感した。以下に個別な発表から紹介する。
Molecular Dynamic Simulation of Possible Damage Formation at
Vertical Walls of finFET Devices during Plasma Etching Processes(K. Mizotani et.al, Osaka University)
Fin型FETではSi側壁をゲートチャネルとして用いるため、プラズマエッチング時のイオン衝撃による側壁のダメージ発生が懸念される。そこで、HBrプラズマ中のH+とBr+イオンによるSiエッチング時のダメージを分子動力学(MD)法でシミュレーションした。その結果、
H+では基板表面へ到達する程の深いダメージが生じる一方、より重いBr+イオンではH+よりも少ないダメージが生じることがわかったという内容の発表。[コメント] 本研究ではプラズマからのUV/VUV照射の影響は考慮されていないが、イオンとUV/VUV照射の相乗効果によって、より多くのダメージが発生することが予想される。
Controlling Correlations Between Ion and UV/VUV Photon Fluxes
in Low Pressure Plasma Material Processing(M. J. Kushner et.al, University of
Michigan)
プロセスプラズマ中のUV/VUVはダメージやシナジー効果などの様々な影響を引き起こすことから、プラズマ中のイオンとUV/VUV光子フラックスを個別に制御することが望まれる。そのためにはパルス制御放電が有効であると考えられることから、モンテカルロ(MC)シミュレーションにより、最適な放電条件を予測した。その結果、Ar/Cl2の混合ガスプラズマでは、Duty比に依存してイオンとUV/VUV光子フラックスの比が大きく異なることがわかり、パルスON時に発生する高エネルギー電子がイオンフラックスに比較してより多くのUV/VUV光子フラックスを発生させることがわかった。[コメント] 発表者であるKushner氏はプラズマエッチングにおけるシミュレーション研究の第一人者のひとりであり、彼らのグループを含めたプラズマエッチング関係の研究者らがプラズマ中のイオンとUV/VUVによるプラズマダメージに対して、以前に増して関心を持ち始めたことが窺われた。
New Method of damaged Layer Removal by Atomic Layer Etching
for Interconnection in Semiconductor(J. K. Kim et.al, SAMSUNG Electronics)
最先端の微細半導体デバイスにおいては、コンタクトホール底部等にプラズマエッチングによる深さ数十nmのイオン衝撃ダメージが発生し、その影響が顕著になってきている。そこで、Arの中性粒子を用いた基板シリコンの原子層エッチング技術を開発し、基板シリコンのダメージ層を除去した。その方法は塩素ガス分子を基板へ吸着させた後、その吸着層へ低エネルギーのAr中性粒子を照射することで、付加的なダメージを発生させることなく、原子層でのシリコンエッチング反応を生じさせるという発表。[コメント] この発表に対してエッチングレートはどれ位なのか筆者が質問したところ、現在は原子層エッチングプロセスの1サイクルで2分間程度必要なのでエッチングレートとしては0.1nm/min程度ということになるが、サイクル時間の短縮を検討中とのことであった。原子層エッチング技術はエッチング反応を引き起こすための必要最小限のエネルギーを加えるという制限があることから、原理的にエッチングレートを増加させることは困難であると推測できるが、本発表のように数nmのダメージ層のエッチングに用途を限ればエッチングレートが低いことの悪影響は小さくなると考えられる。
Interface trap Generation by VUV/UV Radiation from
Fluorocarbon Plasma(M. Fukasawa et.al, Sony Corporation)
プロセスプラズマ中のイオンとUV/VUVによるSiNx:H膜とSi基板との界面に対するダメージをMgF2(>115nm透過), Quartz(>170nm透過),
BK7(>300nm透過)の各窓材料を用いたプラズマ照射実験とCV測定による界面トラップ密度測定から評価した。その結果、波長170nm以下のVUV照射では影響が見られず、170nm以上のUV照射により界面トラップ密度が増加することがわかった。また300nm以上の光照射にも影響は見られなかった。これらの結果は、VUV光がSiNx:H膜で吸収されるのに対して、170-300nmのUV光はSiNx:H膜を透過してSi基板との界面に到達する為に生じたと考えられる。また、300nm以上の光はSiNx:H膜で反射されることから界面には影響がなかったと考えられる。 [コメント] 本発表は、単にプラズマから照射されるVUVのみならず、被照射膜による吸収、透過、反射も考慮した結果であり、実用的な知見が得られていると思われた。
Analysis of Run-to-Run Variability in the Bosch Process using
rf Probe and Emission Spectroscopy Measurements(M. Fradet et al, Universite de Montreal)
BoshプロセスはMEMSデバイス製造に広く用いられているが、量産プロセスにおけるエッチングレート変動等のプロセスバラツキをモニタリングし、制御する必要がある。そこで、RFプローブとプラズマ発光分光により、量産装置におけるBoshプロセス時のプラズマをモニタリングした。その結果、エッチングレート低下とプラズマインピーダンスのリアクタンス成分の低下が連動していることがわかり、エッチングレート低下時にはチャンバーウオールのデポジションが増加していることが推測された。また、エッチング中のFラジカルの発光強度は減少し、デポジションプロセス時のFラジカルは増加していたことから、ウオールのデポジション量がレート変動に関与していることが裏付けられた。[コメント] 本発表は、半導体製造プロセスにおいて盛んに研究されているプロセス均一性もしくはプロセス変動対策に関する報告であるが、MEMS製造プロセスにおいてはあまり注目されていない。今後はMEMSプロセスにおいてもクローズアップされる重要な分野であると思われる。