MEMS2013参加報告(BEANS本部)
■第26回IEEE/MEMS2012国際会議(26th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems)が、2013年1月20日(日)~1月24日(木)の日程で、台湾・台北の台北国際コンベンションセンターにて開催されました。マイクロ・ナノテクノロジー分野では、MEMS国際会議は、隔年開催のTransducers(The International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems)と並び、最も重要な国際会議と位置付けられ、アメリカ、ヨーロッパ/アフリカ、及びアジア/オセアニアの3つの地域が持ち回りで毎年開催されています。第26回目にあたる今回の投稿論文数は776件(前回978件)であり、その中から66件のオーラル、240件のポスターが採択され、採択率は合わせて39%と厳選された論文が発表されました。地域別ではアメリカ98件(前回126件)、ヨーロッパ/アフリカ46件(前回54件)、アジア/オセアニアが162件(前回160件)であった。全体の論文数が減る中、アジア/オセアニアは開催地に近いこともあり、前年度と同様を件数を保っていました。
■BEAMSプロジェクトからは、5件のポスター発表が採択されました。3D BEANSセンターの阿波嵜研究員は、分野11(Chemical Sensors and Systems)の中で、MEMSホットプレート上に形成されたナノフラクタル構造を持つ高感度ガスセンサの作製方法と評価について報告を行行いました。近本研究員(3D BEANSセンター)は、分野1(Fabrication Technologies)の中で、原子間力顕微鏡のプローブに用いるカンチレバーの先端への誘電泳動法を用いて単層CNTのバンドルの形成、及びそのように形成されたCNTカンチレバーの性能評価結果に関して報告を行いました。脇岡研究員(3D BEANSセンター)は、分野13(Micro-Fluidic Components and Systems)の中で、フェムト秒レーザによる改質とエッチングにより形成したナノ流路デバイスを用いたナノ液滴の形成、及び液滴中の酵素反応の蛍光観測結果に関する報告を行いました。Life BEANSセンターの高橋研究員は、分野12(Medical Microsystems)の中で、体内埋め込み蛍光ハイドロゲルを用いた携帯型血糖値(グルコース)モニタリングシステムに関する性能評価結果について報告しました。Macro BEANSセンターの張研究員は、分野10(Bio MEMS)の中で、医療・バイオ分野への応用を念頭にした、中空線維状基材内への体内埋め込み可能な温度センサの作製、及びその評価結果に関する報告を行いました。各ポスターとも多くの聴講者が訪れ、熱心な議論がなされていた。このように各分野の専門研究者との生の議論を通して、各研究員は、貴重な情報が収集でき、また、BEANS成果の広報もできたものと思われます。以下に、各研究員の発表の様子を写真で示します。
■以下に、招待講演の概要、及びオーラルセッションとポスターセッションの件数を示します。
【招待講演】
(1) PHOTOSYNTHETIC AND NON-PHOTOSYNTHETIC PRODUCTION OF FUEL AND CHEMICALS
James Liao, University of California, Los Angeles, USA
地球上での化石燃料を初めとするエネルギー資源の枯渇やCO2排出量の増加といった環境問題への解決することを念頭に、CO2を原料として炭素系燃料を生成し、太陽光のエネルギーを化学的エネルギーとして蓄積する技術に関する研究開発についての報告が行われました。まず、光合成バクテリアを用いて太陽光エネルギーから生物の各種活動のエネルギー現として用いられるATP(Adenosine TriPhosphate)やCO2固定のための等価当量の人工的な生成の可能性の検討結果が報告されました。具体的には、シアノバクテリアをモデルバクテリアとして用い、適当な生物化学的な駆動力が導入されたと仮定すると、このバクテリアがATPの原料となる各種化学物質の生成に利用できる可能性があることが示されました。また、従来の太陽光発電の課題として、電気的エネルギーを高密度に蓄積できないという問題が示され、それを解決する方策として、CO2を炭素のソース、太陽光発電等から生成された電力を入力エネルギーとして、電気化学的反応炉で各種化学物質ご合成することが提案され、その具体的検討結果、及び可能性が示されました。
(2) NANOPHOTONICS ENABLED BY PLASMONIC METAMATERIALS, NANOTENNAS, AND NANOLASERS
Shangjr (Felix) Gwo, National Tsing-Hua University, TAIWAN
光学イメージングやリソグラフィ分解能を回折限界より高精細化するための技術として注目されているナノプラズモニクスに関して、3次元プラズモニック結晶やナノアンテナ、ナノレーザーといったデバイスの作製等、最新研究の状況が紹介されました。3次元プラズモニック結晶では、積層過程で各層の表面をプラズマによって酸化処理したAuNP/AgNP超格子フィルムを作製し、この超格子フィルムが近接場光の横波成分と縦波成分と強く結合する3次元プラズモニック結晶として働くことが示されました。また、反射率の減衰がみられる光の波長が超格子の層数に依存してシフトすることが確かめられ、広いスペクトル領域で3次元プラズモン結合の変調が可能であることが示されました。また、直線状に金のキューブを鎖状に配列することで形成したナノアンテナに対して、ある入射光の条件下で、近接場とプラズモン結合が起こり、空間中に光放射が行い(伝播損失がない)プラズモンの伝播モードが鎖中に形成されることが確認されています。ナノレーザーとしては、InGaN/GaNのナノロッドのバンドルやInGaNを核とした単一のInGan/GaNのナノロッドを用いたレーザ発振デバイスが紹介されました。これらのデバイスの特長として、構造的な安定性、熱的安定性、n型/p型双方のドーピングが可能なこと、レーザ発振のためのパンプ光がち小さくて済むこと(パンプ光が小さくても強度が得られること)、単色性に優れること等が強調されました。
(3) LAB ON A CHIP FOR BIOMEDICAL APPLICATION
Albert van den Berg, University of Twente, THE NETHERLANDS
MEMS技術を用いて、これまで実験室で行われてきた生化学検査での酵素や基質の混合,反応,分離,検出の操作を比較的小さなチップ上に集積化し,これまで実験室で行われてきた一連の操作を自動するデバイス・システム(Lab on a Chip)の応用事例―リチウム濃度測定チップ、受精力検査チップ、血液脳関門(血管と脳との間での物質交換を行う機構)チップ―が行われました。リチウムチップは、双極性障害(躁状態と鬱状態を繰り返す疾病)の患者への唯一の症状緩和のために行うリチウム投与のために、日常的な血液中のリチウム濃度を測定することを目的としたものであり、既に市販製品として実用化されているとのことでした。ガラス毛細管によって作製された誘電泳動チップにより伝導度を計測し、リチウム濃度を計測するシステムの動作原理や性能評価等の紹介が行われました。また、受精力検査チップは、男性の精液中の精子の濃度や運動力を検査するものとして紹介されました。このチップについても高分子有機化合物によって作製され、非常に安価に販売されているとのことでした。また、血液脳関門チップは、様々な神経変性疾患に伴って起こる血液脳関門での機能阻害のメカニズム理解のため、実際の生体内に近い状況をチップ上で実現することを目的としたものとの紹介がありました。現状の血液脳関門チップは、マイクロ流路を用いて不死化した人間の脳内皮細胞が直線的に配置されたもので、血液脳関門モデルの機能が機械的、生化学的に変調できるようになっていました。
【オーラルセッション】 66件(20件);()内は日本からの発表件数
セッション1(Bio MEMS): 3件(1件)
セッション2(Bio Inspired MEMS): 4件(3件)
セッション3A(Mechanical Sensors): 6件(1件)
セッション3B1(Bio Sensors): 3件(2件)
セッション3B2(Bio-Mimetic Actuators): 3件(2件)
セッション4(Fabrication): 3件(0件)
セッション5(Cell&Diagnosis): 3件(1件)
セッション6A1(Power MEMS): 3件(0件)
セッション6A2(High-Q Resonators): 3件(0件)
セッション6B1(Bio-Inspired Structures): 3件(1件)
セッション6B2(Cell Tissue Analysis): 3件(2件)
セッション7(MicrofluidicsⅠ): 3件(1件)
セッション8(Resonators): 4件(0件)
セッション9A(Physical MEMS & Others): 6件(1件)
セッション9B1(Microjets): 3件(2件)
セッション9B2(Bio Probes): 3件(2件)
セッション10A(Switches & Probes): 5件(0件)
セッション10B(MicrofluidicsⅡ): 5件(1件)
【ポスターセッション】 240件(71件);()内は日本からの発表件数
分野1(Fabrication Technologies); 27件(12件)
分野2(Packaging Technologies): 3件(2件)
分野3(Materials and Device Characterization) 27件(8件)
分野4(Nano-Electro-Mechanical Devices and Systems): 8件(1件)
分野5(Micro-Actuators): 16件(6件)
分野6(Mechanical Sensors and Systems); 26件(4件)
分野7(Physical MEMS (Optical, Thermal, Magneto)): 10件(3件)
分野8(RF MEMS): 16件(2件)
分野9(Energy Harvesting and Power MEMS): 23件(3件)
分野10(Bio MEMS): 21件(8件)
分野11(Chemical Sensors and Systems): 14件(8件)
分野12(Medical Microsystems): 22件(7件)
分野13(Micro-Fluidic Components and Systems): 27件(7件)
■MEMS2013における技術動向の一つの指標として、オーラルとポスターの発表件数の分析を行った結果を以下に示します。
【分野別動向】
下図は、分野1~分野13で分類した発表件数の割合をグラフで示したものです。(但し、MEMS2013での分野10「Bio MEMS」と分野11「Chemical Sensors and Systems」は、前年度までは「Bio and Chemical Micro Sensors and Systems」(バイオ・化学センサシステム)」と一つの分野であったため、前年度までのデータと比較できるようにグラフではこれらの分野に関しては一つにまとめています。) 全体的な発表件数の傾向は昨年度までと同様です。発表件数が多い分野は、上位から順に、発表⑩バイオ・化学センサシステム、⑫マイクロ流体要素システム、⑥メカニカルセンサシステム、①製造技術、③材料・デバイス特性となっており、多少の順位の入れ替えはあるものの上位5位までは昨年度と同じ分野となっています。また、⑩バイオ・化学センサシステム、⑪医療用マイクロシステム、⑫マイクロ流体要素システムといった、バイオ・化学系の発表が占める割合が増加する傾向にあり、これらの分野の要素技術やデバイス開発がMEMS分野の大きな流れになっている近年の状況は、益々、強まっているものと思われます。また、将来の革新デバイス実現に向けた、新たな製造技術や材料の研究においても、新たな研究成果が継続して発表されており、これは、BEANSの目指すところと一致しています。
【日本の研究機関の発表動向】
また、各分野における日本からの発表件数の割合の推移を下図に示します。日本からの発表件数の割合が特に多い分野は、⑩バイオ・化学センサシステム、⑥メカニカルセンサシステム、①製造技術、⑪医療用マイクロシステム等となっています。また、全体の発表件数に占める日本の研究機関の発表件数の割合(全分野に対する日本の発表割合の平均値)である29.7%よりも低いが、⑫マイクロ流体要素システム、③材料・デバイス特性といったところも、比較的、発表件数の割合が高くなっています。(なお、②の実装技術は、今年の発表割合が高くなっているが、全体の発表件数が3件と少ないため、評価対象外としました。)逆に、発表が少ない分野としては、⑧RF-MEMS、⑨エネルギー・パワーMEMS、④ナノデバイスシステムとなっています。全体的な傾向としては、昨年度と同様であり、日本が苦戦している既存のセンサ・デバイス分野から将来の伸びが期待できるバイオ・化学センサや医療デバイス分野への研究の比重がシフトが固定化した模様です。一方、ナノデバイス分野は、デバイス機能の高度化等のため、今後も開発が必要であり、かつ、将来期待されるところですが、日本の出遅れが懸念されます。また、こエネルギー・パワーMEMS分野は、日本が強みとする省エネルギー技術を用いたナノ・マイクロ技術が展開により世界をリードする分野になると期待されますが、現状では、日本の存在感は比較的低いものとなっています。
また、各分野における日本からの発表件数の割合の推移を下図に示します。日本からの発表件数の割合が特に多い分野は、⑩バイオ・化学センサシステム、⑥メカニカルセンサシステム、①製造技術、⑪医療用マイクロシステム等となっています。また、全体の発表件数に占める日本の研究機関の発表件数の割合(全分野に対する日本の発表割合の平均値)である29.7%よりも低いが、⑫マイクロ流体要素システム、③材料・デバイス特性といったところも、比較的、発表件数の割合が高くなっています。(なお、②の実装技術は、今年の発表割合が高くなっているが、全体の発表件数が3件と少ないため、評価対象外としました。)逆に、発表が少ない分野としては、⑧RF-MEMS、⑨エネルギー・パワーMEMS、④ナノデバイスシステムとなっています。全体的な傾向としては、昨年度と同様であり、日本が苦戦している既存のセンサ・デバイス分野から将来の伸びが期待できるバイオ・化学センサや医療デバイス分野への研究の比重がシフトが固定化した模様です。一方、ナノデバイス分野は、デバイス機能の高度化等のため、今後も開発が必要であり、かつ、将来期待されるところですが、日本の出遅れが懸念されます。また、こエネルギー・パワーMEMS分野は、日本が強みとする省エネルギー技術を用いたナノ・マイクロ技術が展開により世界をリードする分野になると期待されますが、現状では、日本の存在感は比較的低いものとなっています。
■次回は、2014年1月26日(日)~1月30日(木)の日程で、米国・サンフランシスコのハイアット・リージェンシーにて開催されます。アブストラクト締切りが2013年9月10日、採択通知が2013年10月25日となっています。
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