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2012年11月13日 (火)

MicroTAS2012参加報告

概要

 MEMS関連の最新研究動向の情報収集を行うことを目的に、2012年10月28日(日)から11月1日(木)の5日間の日程で、沖縄コンベンションセンター(沖縄県・宜野湾市)で開催されたμTAS2012(The 16th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences、チェアマン 東京大学生産技術研究所藤井 輝夫教授)に参加しました。

 本会議は、細胞やDNAをはじめとする様々な生化学分析に必要な機能を、微細加工技術を用いて微小なチップ上に集約したデバイスであるμTAS(Micro-Total Analysis Systems)に関連する技術を中心として、材料・プロセス制御、分析等といった要素技術からデバイス・システム設計といった応用までの幅広いフェーズに渡り、最新の研究状況の報告が行われ、議論が行われる場となっています。
 講演は、Plenaryセッション6件、Oralセッション89件、Posterセッション575件(筆者がプログラムのタイトルからカウントしたものです。μTAS2012事務局からは600件のポスターの採択がされたとの発表がされています。)なお、開催前の事務局の発表によると、本会議には昨年と同程度900名以上の研究者の参加が見込まれていた模様です。(900名以上という数字は、恐らく、事前登録の人数の状況から割り出したものと思われます。)なお、今年の会議では、2日目(11月30日(火))の午後には、”Microfluidics for Ocean Application”と題するSpecial Sessionが開催され、サンゴ礁の生態調査や独立行政法人海洋研究開発機構の科学掘削船「ちきゅう」による海底掘削調査への生化学分析の最新状況が報告されました。海洋国家としての独自性を出した企画で、μTAS会議に新たな風が吹きこまれたように思います。
 なお、沖縄コンベンションセンターは、沖縄県宜野湾市の海岸近くに位置し、周辺にはマリーナ、海浜公園、野球場、リゾートホテル等が並ぶ、非常に落ち着いた環境の中の施設でした。宿泊施設が多い那覇市内の中心地からもバスで30分~40分程度と比較的アクセスも良く、この辺りからバスで通った参加者も大勢いらしたように思われます。なお、本会議は、沖縄コンベンションセンターの施設(会議棟、展示棟、劇場棟)を全て利用して行われていました。3つの会場に挟まれた場所には比較的広い屋外スペースがあり、各セッションの合間にそこで休憩し、次のセッションに向けて気分をリフレッシュすることもできました。

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セッションの様子

 Oral Sessionは、3つのセッションがパラレルに開催される形式で、会期を通して多くの研究者が会場に詰めかけ、発表者の報告内容に対して、応用を見据えた技術性能等の技術の有用性に関する質疑応答等、熱い議論が交わされていました。筆者が選択・聴講したSessionのためか、今年の口頭発表の報告内容は、昨年度と比較して、要素技術的な課題解決に取り組むものが多く、デバイス化やシステム化に取り組むものが少なかった印象を受けました。
 また、報告中で実際に作製したデバイスのデモンストレーション・ビデオを紹介する発表も少なくなったように感じました。この分野の流れがより個々のデバイス実現に向けた基盤技術の開発に向かっているのか、日本での開催(日本人の発表が多くなっていること)が影響しているのかは不明ですが、来年以降の動向をみていく必要がありそうです。 また、ポスター発表でも、発表者と訪問者との間で熱心な議論が交わされていました。ここでも、全体的な方向として、生化学分析を用いた診断デバイスの集積化という大きな流れの中で、分析方法や分析対象である微粒子などの操作方法、流路の制御等、基盤的な要素技術の研究に関する発表が目立っていました。各要素技術については、昨年同様、まだまだ最適なものを探索しているという段階であるという印象を受けました。このことから、BEANSプロジェクトで行っている異分野融合というキーワードでのプロセス技術開発も、本会議で議論されている応用分野に十分に展開できるものであると考えられます。


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採択論文の動向

<採択論文の分野>
 本会議の分野全体の動向をみるため、ポスターに採択された論文のカテゴリ別の件数を下図にまとめます。ここで、論文のカテゴリ分けは、μTAS2012のプログラムに掲載されている情報に従っております。論文数が最も多いカテゴリは、細胞や組織の培養、分析といった応用に関する研究である”Cell & Tissue Application”が最も多く、医療・ヘルスケア分野の検査・診断といった応用に関する”Life Science Application”、マイクロ・ナノ流路技術による粒子の操作やデバイスの作製に関する”Microfluidics and Nanofluidics”が続いています。昨年の会議とは、カテゴリが異なっているため、一概には比較できませんが、マイクロ流路技術や医療・ヘルスケアへの応用という切り分けでの研究が多い傾向は変わっていないように思います。



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<国別の採択論文数>
 以下に、OralとPoster Session(Plenary/Special Sessionは除く)の採択論文について、第一筆者の所属機関の国籍別に整理したグラフを示します。第一位は、開催国である日本で194件、米国(155件)、韓国(64件)、台湾(43件)、カナダ(26件)となっており、5位までをアジア勢と北米が占めています。昨年と比較して、全体的な傾向は大きく変わりませんが、昨年の開催国の米国が大きく数を減らし、代わりに今年の開催国である日本が件数を伸ばし順位が入れ替わった他、台湾からの論文数の増加も目立っています。  なお、グラフは示していませんが、Oral Sessionの採択論文だけに注目すると、1位は米国で全体の約4割を占める34件となっており、日本(22件)、韓国(5件)、カナダ(5件)、フランス(5件)と続いています。


Microtas2012g02

<採択論文数上位の研究機関>
 以下に、Oral SessionとPoster Sessionの採択論文について、第一筆者の所属機関の上位10位までを示します。

Microtas2012g03_3

BEANSプロジェクト・テーマの報告
 BEANSプロジェクトからは、以下の3件の論文がPoster Sessionに採択されました。

M.2.37 CONTINUOUS EXCHANGE OF BUFFERS OVER A LIPID BILAYER MEMBRANE FORMED IN A GLASS MICROFLUIDIC DEVICE Y. Watanabe1,3, and S. Takeuchi1,2, 1 BEANS Project, JAPAN, 2The University of Tokyo, JAPAN, and 3Olympus Co, JAPAN

W.2.57 A TRANSDERMAL CONTINUOUS GLUCOSE MONITORING SYSTEM WITH AN IMPLANTABLE FLUORESCENT HYDROGEL FIBER AND A WEARABLE PHOTO-DETECTORM. Takahashi1,3, Y. J. Heo2, T. Kawanishi1,3, T. Okitsu2, and S. Takeuchi1,2, 1 BEANS Project, JAPAN, 2The University of Tokyo, JAPAN, and 3TERUMO Co., JAPAN

W.3.95 FABRICATION OF MICROCHANNEL NETWORK IN LIVER TISSUE SPHEROIDS,N. Kojima1,2, S. Takeuchi1,2, and Y. Sakai1,2, 1 University of Tokyo, JAPAN, and 2BEANS Project, JAPAN

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各賞受賞者

Art in Science Award
 Stretching the Rainbow, Yi Zhang, Johns Hopkins University

Lab on a Chip Widmer Award

 T.2.43 Single Cell ELISA, Klaus Eyer, Swiss Federal Institute of Technolog(ETH) Zurich

■Young Researcher Poster Award

MONDAY
 M.8.182 Microfluidic Sample Preparation of Pleural Effusions for Cytodiagnostics, Albert J. MachUniversity of California, Los Angeles

TUESDAY
 T.7.159 Rapid Quantitation of C-Reactive Protein Agglutination with Acoustic-Enabled Microvortices. Arlene Doria, University of California, Irvine

WEDNESDAY
 W.4.120 Microfluidic Fabrication of Polymerized Ionic Liquid Microgels, Zahra Barikbin, National University of Singapore

Lab on a Chip / Corning Inc. Pioneers of Miniaturization Prize
 Prof. Andrew deMello, Swiss Federal Institute of Technolog(ETH) Zurich

Analyrical Chemical Young Innovator Award
 Prof. Amy Elizabeth Herr, University of California, Berkeley

次回開催
 次回のμTAS2013は、University of FreiburgのRoland Zengerle教授をチェアマンとして、2013年10月27日(日)から31日(木)の5日間の日程で、Messe Freiburg(Freiburg, Germany)で開催されます。
 なお、本会議の最後に、今年のチェアマンの藤井輝夫教授(東京大学生産技術研究所)から、来年の会議が無事に成功するよう沖縄の守り神(魔除け)であるシーサーがRoland Zengerle教授に贈られましたので、来年の会議も今年同様、盛況となることは間違いないかと思います。

その他
 本会議では、4日目の31日(水)の夕方には、会場から離れた首里城公園(沖縄県那覇市)内にある首里社館で、Social Event(懇親会)が行われました。筆者は、参加しませんでしたが、開催前の会場の様子を写真におさめましたので、掲載します。当日は、あいにくの雨でしたが、沖縄の美味しい食事とお酒、民族舞踊等を満喫されたことかと思います。

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