参加概要
マイクロマシン・ナノ分野の研究動向に関する情報収集を目的として、2012年10月22日(月)から10月24日(水)の3日間の日程で、北九州国際会議場および西日本総合展示場(福岡県北九州市)にて開催された電気学会センサ・マイクロマシン部門主催 第29回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムに参加しました。
本シンポジウムは、第4回「マイクロ・ナノ工学シンポジウム」(日本機械学会マイクロ・ナノ工学部門主催)、第4回「集積化MEMSシンポジウム」(応用物理学会集積化MEMS技術研究会主催)、第2回マイクロ・ナノ産業化シンポジウム(電気学会・日本機械学会・応用物理学会共催、日本学術会議講演)と同時開催され、学・協会を超えたグループ間の情報の交換、アイデアの討議の場としてセンサ・マイクロマシン技術のさらなる発展を目標に開催される日本最大のシンポジウムで、国内におけるマイクロマシン・ナノ分野の研究の最新動向が幅広く収集できる絶好と機会となっています。今回は参加者約600名(事務局発表)の参加者の間で連日活発な議論が交わされました、
筆者は、シンポジウムの4つの招待講演の他、「ケミカルセンサ」(22日 15:40-16:40),
「フィジカルセンサⅡ」(22日 17:00-18:00、17:00-18:00)、「企画セッション ヘルスケアとバイタルサインモニタリング1・2」(23日 10:20-12:00、13:00-15:00)、「Bio MEMSⅠ」(24日 10:20-12:00)、「企画セッション グリーンセンサ」(24日 13:00-15:00)の4つのセッション、およびポスターセッション(23日 15:20-17:00)を聴講し、センシングに関する要素技術の他、環境・エネルギー、医療・ヘルスケアといった社会的要請が高い分野へのセンサの応用展開に関する最新動向の収集を行いました。また、本シンポジウムでは、新たな試みとして「センサ・マイクロ・ナノ領域への貢献」と題したランプセッション(23日 17:30-19:00)が催され、電気学会、日本機会学会、日本材料学会、電子情報通信学会、エレクトロニクス実装学会といった学会を代表するパネリストによって、各学会の活動の紹介や学会を超えた取り組みに関する現状、課題についての熱い議論が交わされました。夕方の開催で、軽食と軽いアルコールが供されたことも手伝い、学会活動の在り方、研究・ビジネスの枠組み等について、アカデミックと産業界の枠を超えた意見交換がざっくばらんに行われたかと思います。
各セッションの模様
以下に、筆者が聴講した各セッションの模様を報告します。
■招待講演
以下の4件の招待講演が行われました。
Printed Intelligence – Embedding in and Showing on Future Electronics Product
(Harri Kopola氏、VTT Technical Research Center for Finland)
プリンテッドインテリジェンス(印刷技術を利用したとしたコンポーネントの集積化)に関するVTTの取り組みについての講演が行われました。 医療分野、エレクトロニクス分野、エネルギー・ハーベスティング分野における未来のアプリケーションを想定し、材料からプロセス、デバイスまでをシームレスに取り組んでいる様子が紹介されました。
次世代燃料電池における現象解明と理論材料設計(小山通久 教授 九州大学)
固体酸化物燃料電池(SOFC)の電極における三相界面反応機構の解明に対する理論的なアプローチに関する取り組みに関する講演が行われました。講演の中では、原子・分子スケールでの化学反応とμメートルスケールでの輸送現象の連携の必要性が強調され、第一原理計算を活用した反応シミュレーション、大規模分子動力学計算による分子モデリング、格子ボルツマンシミュレーションによる電流-電圧特性の導出等、ミクロからマクロスケールにわたるシミュレーションの取り組みについての紹介が行われました。
わが国の医療機器産業の現状と将来展望(三澤裕 氏、テルモ株式会社)
医療機器分野の市場や製品開発における現状が述べられた上で、今後の医療機器産業の展望について講演が行われました。講演においては、様々な情報を提供して頂きましたが、その中でも特に、世界的に拡大傾向にある医療機器の現状や日本の高効率・高品質な医療という強みを好機として捉え、海外進出を含めた積極的な展開が重要であること、そのために医療現場のニーズを新しい技術を商品にする力、市場を創る力という視点が重要であるといったメッセージが強く印象に残りました。
生き物としての細菌のすがた(吉田真一 教授、九州大学)
細菌学の視点から、生物浄化、発酵食品への利用、感染症といった微生物と人間の関わり、環境センシングの仕組み、走行性・環境に対するストレス応答といった生き物として細菌のすがた、細菌の培養・検知に関する講演を頂きました。一見、マイクロマシンと無関係に見える細菌の世界からも、「予測のできない環境の変化を認識し、それに応じて自らを適切に行動させる操作情報を自己創出する」といった点で共通点が見いだされ、今後のセンサの研究開発にも何らかのヒントが与えられたかと思います。また、細菌学の研究から、微生物を構造や機能だけでなく、生き物としての相(すがた、対象全体を感覚的に把握する)と捉えるというニーズが提供され、センシングに関する大きな課題が与えられたのではないかと思います。
■ケミカルセンサⅠ(22日 15:40-16:40)
細孔形成逆オパール構造を用いた高比表面積化による高感度ガスセンサの開発(BEANS研究所他)、分子ふるい吸着・分離により選択的に匂いを検知するセンサの開発(九州大学)、蛍光消光を用いて匂いを可視化するフィルムの開発(九州大学)といった化学物質(エタノール等のガスやにおい分子)の検出に関する研究テーマについて、報告が行われました。なお、匂いセンサの講演では、食品の安全や環境といった視点から匂い検知へのニーズについて言及されていましたが、数多くの匂い分子の種類への対応等の乗り越えるべき多くの技術的な課題があるとの所感を持ちました。
■フィジカルセンサⅡ(22日 17:00-18:00)
曲率を変えることで焦点距離を合わせる距離センサの開発(東京大学)、MEMS共振器を用いたリングレーザの開発(兵庫県立大学他)、振動型MEMSジャイロスコープで動作レンジの限界をもたらす非線形現象の原因究明(立命館大学)に関する報告が行われました。距離センサでは、内視鏡等の検査機器への応用を想定していましたが、聴講者から最終デバイスに適用するためのコンポーネントの要求性能(サイズや精度、信頼性、駆動電圧等)に関する質問が寄せられており、いくつかの性能は今後も検討が必要であるとの印象を持ちました。また、振動型MEMSジャイロスコープでは、効率的にレーザー光の強度を得るため、エッチング加工を最適化し、ミラー反射面の平滑化を行ったという内容の報告でした。また、振動型MEMSジャイロスコープでは、非線形現象をもたらす原因の候補として、内部構造とばね構造等について調査が行われており、漸硬ばね硬化によって非線形現象が引き起こされている可能性が示唆する結果が報告されていました。
■ヘルスケアとバイタルサインモニタリング1/ 2(23日 10:20-12:00 / 13:00-15:00)
本セッションは、今後、ますます社会的なニーズが大きくなると考えられる医療・ヘルスケア分野に対するセンシング技術の展開についての企画セッションとなっていました。セッションの構成は、センサのユーザであるアプリケーション企業からの講演が3件、バイタルサインモニタリングの技術開発に関する報告が5件となっていました。アプリ側からは、心不全患者の見守り、住宅内でのヘルスケアモニタリング、がんの早期発見といった事例を挙げて、バイタルサインモニタリングの活用の現状が議論されました。主な課題としては、どのようなバイタルサインを取得し、ユーザに生活改善や健康促進等のメリットを提供していくのか、医療現場のニーズとのギャップをどのように埋めていくのかといったことが挙げられていました。
■Bio MEMS(24日 10:20-12:00)
人工系脂質二重膜を用いたタンパク質機能解析デバイスの開発(神奈川県科学技術アカデミー他)、MEMS技術を利用した高速DNAファイバ解析デバイスの開発(香川大学他)、MEMSファブリペロー干渉計を用いた非標識タンパク質センサの開発(豊橋技術科学大学)、水晶振動子微小天秤センサを用いた細胞由来のリボソームの膜たんぱく質―リガンド相互作用の測定(九州工業大学)、細胞を用いた多チャンネル化学量センサのための電極一体型細胞アレイ化流路の作製(豊橋技術科学大学)といった生体材料や生体反応の検出、生体材料を用いたセンサ開発に関する報告が行われました。
■グリーンセンサ(24日 13:00-15:00)
本セッションは、NEDO「グリーンセンサ・ネットワークシステム技術開発プロジェクト」(2011年~2014年、http://nmems.or.jp/gsnpj/)に関連した企画セッションであり、MEMSセンサを利用した省エネルギー・CO2削減のための取り組み事例、プロジェクトの概要の紹介、センサ用低消費電力回路の開発状況の報告が行われた。MEMSセンサの活用としては、クリーンルームの省エネソリューション、業務用車両の低燃費化に向けたセンシング、コンビニエンスストアによるグリーンセンサネットワークの実証、空調機器の省エネ運転へのソリューション提供といった事例が紹介され、低消費電力化、高速動作、集積回路とのマッチングといったセンサ性能に対する課題の他、処理負荷の低減や費用対効果のアピールといった省エネソリューションを提供するシステムの課題についても触れられていました。なお、セッションには、シンポジウムの最終日最後にもかかわらず、100名近くの聴衆者が集まっており、関心の高さが伺えました。
BEANSプロジェクト・テーマの報告及び展示
BEANSプロジェクトからも以下の口頭発表9件、ポスター発表6件の発表がありました。また展示会場には、今回も恒例の展示ブースが設営され、BEANSプロジェクトも参加して来場者にアピールしました。
■口頭発表
1C4-1 ディップコーティング法により作製した細孔形成逆オパール構造ガスセンサ(阿波嵜 実1、相馬伸一2、諸貫信行3、杉山正和4、1BEANSプロジェクト 3D BEANSセンター、2富士電機(株)、3首都大学東京、4東京大学)
2B2-2 プラズマダメージを抑制した中性粒子ビームエッチングのMEMSにおける効果検証と各種シリコン表面との比較(西森勇貴、植木真治、三輪和弘、杉山正和、寒川誠二、橋口 原、BEANS研究所)
2B2-4 ペプチドアプタマーを利用したカーボンナノチューブデバイス構築プロセスの検討(嶋田友一郎1,2、梅津光央2,3、近本拓馬2、杉山正和1,2、藤田博之1,2、1東京大学、2BEANS プロジェクト 3D BEANS センター、3東北大学)
2D2-3 ガラスマイクロ流路による脂質膜の形成(渡辺吉彦1,3、竹内昌治1,2、1BEANSプロジェクト Life BEANSセンター、2東京大学、3オリンパス(株))
2D3-5 完全埋め込み型血糖センサの血糖測定精度評価(高橋正幸1,3、許 允禎2、川西徹朗1,3、興津 輝2、竹内昌治1,2、1BEANSプロジェクト Life BEANSセンター、2東京大学、3テルモ(株))
3E3-1 大面積デバイスのための繊維状基材への連続微細パターン高速成形(高木秀樹1,2、大友明宏1,3、銘苅春隆1,2、小久保光典1,3、後藤博史1,3。1BEANSプロジェクト Macro BEANSセンター、2(独)産業技術総合研究所、3東芝機械(株))
3E3-6 環境発電アプリケーションのための低共振周波数圧電ポリマーシートの開発(山下崇博1、高松誠一1,2、小林 健1,2、伊藤寿浩1,2、1BEANS研究所 Macro BEANS センター、2(独)産業技術総合研究所)
3F3-5 マルチ耐摩耗プローブによるナノパターンの並列描画(李 永芳1、冨澤 泰1、古賀章浩2、杉山正和3、藤田博之3、1BEANS研究所、2(株)東芝、3東京大学)
3F3-6 ナノスケール摺動電気接点における接触抵抗安定性と耐摩耗性の二律背反(冨澤 泰1,2,3、李 永芳1,2、古賀章浩1,2、年吉 洋3、安藤泰久1,4、藤田博之1,3、1BEANS研究所 3D-BEANS センター、2(株)東芝、3東京大学、4東京農工大学)
■ポスター発表
SP1-5 中性粒子ビームエッチングモデルと加工形状解析(大塚晋吾1、渡辺尚貴1、岩崎拓也1、小野耕平1、入江康郎1、望月俊輔2、杉山正和3、久保田智広4、寒川誠二4、1みずほ情報総研(株)、2(株)数理システム BEANS 研究所、3東京大学、4東北大学)
SP1-6 形状シミュレーションによる塩素中性粒子ビームエッチングの加工形状の検討(望月俊輔1、大塚晋吾2、渡辺尚貴2、岩崎拓也2、小野耕平2、入江康郎2、三輪和弘3、久保田智弘3,4、杉山正和5、寒川誠二4、1(株)数理システム、2みずほ情報総研(株)、3BEANS研究所 3D BEANS センター、4東北大学、5東京大学)
SP1-7 開放系でのプラズマプロセス実現に向けた雰囲気制御技術開発(内藤皓貴1、紺野伸顕1、徳永隆志1、伊藤寿浩1,2、1技術研究組合BEANS研究所 Macro BEANS センター、2(独)産業技術総合研究所)
SP1-14 シミュレーションによる熱電薄膜へのハーマン法適用の検討(谷村直樹1,2、入江康郎1、宮崎康次2,3、1みずほ情報総研(株)、2BEANS研究所 Life BEANS センター九州、3九州工業大学)
SPB2-14 高い電流利得を有するVibrating-Body Field-Effect Transistorの提案(植木真治1,2、西森勇貴1,3、三輪和弘1、今本浩史2、久保田智広1,4、杉山正和1,5、寒川誠二1,4、橋口 原1,3、1BEANSプロジェクト3D BEANSセンター、2オムロン(株)、3静岡大学、4東北大学、5東京大学)
SPB6-6 ガス透過性膜と3次元パターンコラーゲンゲルを利用した薬物代謝分析細胞チップ(松井 等1、竹内昌治2、長田智治2、藤井輝夫2、酒井康行2、1BEANS研究所、2東京大学)
各賞受賞者
なお今回、BEANSプロジェクトからは残念ながら受賞を逃しましたが、各賞受賞者は以下のとおりです.
■五十嵐賞:
魚の鮮度測定のためのプラグ型マイクロデバイス(小谷内絵梨1、伊藤大輔1、村田裕子2、村田昌一2、鈴木博章1、1筑波大学、2水産総合研究センター)
■奨励賞:
細胞由来リポソームを用いた膜タンパク質-リガンド相互作用のQCM計測(鈴木孝明1、寺尾京平1、鈴木博之1、新田祐幹1、高尾英邦1、下川房男1、大平文和1、平丸大介2、小寺秀俊2、1香川大学、2京都大学)
■最優秀技術論文賞:
MEMS技術を利用した高速DNAファイバ解析デバイスの開発(鈴木孝明1、寺尾京平1、鈴木博之1、新田祐幹1、高尾英邦1、下川房男1、大平文和1、平丸大介2、小寺秀俊2
1香川大学、2京都大学)
■優秀技術論文賞:
細胞を用いた多チャンネル化学量センサのための電極一体型細胞アレイ化流路の作製(三澤宣雄1、李 賢宰1、澤田和明1,2、1豊橋技術科学大学、2科学技術振興機構)
■最優秀ポスター賞:
Dynamic Measurement of Surface Texture of Paper Using the Multi-Axial Tactile Sensors with Micro-Cantilever(K. Watanabe, M. Sohgawa, T. Kanashima, M. Okuyama, H. Noma、Osaka Univ., Advanced Telecommunication Research Institute International)
■最優秀技術展示賞:
NTTアドバンストテクノロジー株式会社
次回開催
第30回の開催となる来年度の「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムは、仙台国際センター(宮城県仙台市)にて、2013年11月5日~7日の3日間の日程で開催される予定となっています。