18th North American Regional ISSX meeting報告
標記会議が4日間にわたって開催され,薬物動態研究に従事する約500名の世界中のアカデミア・企業研究者が参加した。会議では、3つの基調講演セッション、3件のkeynote lecture、ならびに10個のシンポジウムテーマで計50件の口頭発表が行われた。また、同時に28の小テーマに別れて258件のポスター発表が行われた。
基調講演では、(1) MSを用いた画期的な薬物代謝解析方法に関する報告、(2)動物モデルとメタボロミクスを用いた薬物毒性のメカニズム解析に関する報告、(3)抗体医薬の先の生物医薬品開発の紹介、といった内容であった。医薬品開発において、肝臓での薬物動態・毒性の解明が重要な位置を占めているにも関わらず、代謝物やその反応に関わる分子の多様性、定量的解析の必要性、ヒトと動物との種差、といった難しい要素を抱えている。基調講演では最新の創薬トレンドの紹介とともに、これらの要素を乗り越えるためのそれぞれ独自のアプローチを紹介していたので、非常に有意義なものであった。
ISSX meetingは、アカデミアが少なく、企業の発表が多くの部分を占めているところも大きな特徴であった。発表者の所属が企業系の口演は50件中22件とさすがに過半数を下回るが、ポスター発表件数258件中では207件と約80%を占めていた。
本報告では、小生の専門であるin vitro解析のための肝細胞培養技術について主に記述する。今回のISSX meetingでは、サンドイッチ培養もしくは肝細胞とクッパー細胞をパターン化した共培養に関する発表が相次いだ。肝細胞とクッパー細胞の共培養は、肝炎などで肝臓が炎症反応を起こしている際の薬物の作用や、薬物等により生じる免疫反応の影響を調べるためのもの。もともとはHepregen社単独の技術のようだが、複数の企業がこの技術を用いた解析を行っており、最近では最もホットな共培養系だと感じた。スフェロイド培養の情報に注意して全体を見ていたが、これを用いた解析例はまったく見られなかったのが意外であった。
一方、活性の高い肝細胞の材料としては、生体の肝臓から得られた初代肝細胞を使用したもののみで、今話題のES/iPS細胞といった幹細胞由来の肝細胞を使用した解析はまったくなかった。幹細胞由来の肝細胞が、ドラッグスクリーニングや薬物動態研究の用途のレベルにはまだまだ到達していないのが現状と言っていいだろう。一方、新たに樹立されたHep-TRU1という肝細胞様細胞株(ヒト肝細胞をSV40で不死化,Corning社)が紹介されており、成熟肝レベルの代謝能発現はともかくとして,酵素誘導プロファイルなどが比較的均一かつ把握可能な不死化肝細胞株には一定のニーズがあることが窺われた。
小生は,胆管から直接胆管代謝物を抽出し測定するという試みに関するポスター発表を行った.会場からは非常に好意的な意見が多く,担当者として嬉しく思った。一方、再現性よく同じ微細胆管構造を作らせ、分析に足る量の代謝物を抽出するプロセスの必要性を問われた。また。ビリルビンの代謝異常は肝毒性の大きな要因の一つとなっているが、本培養系では正常なビリルビン代謝が見えるので、ビリルビン代謝異常の原因解明やモデル作製に用いることも考えられるとの意見もあった。さらに、ヒト肝細胞に見られるロット差は大きな問題となっており、本技術でロット差を改善できるかどうかを問われた。今後は、さらなる製造プロセスの確実化とヒト肝細胞を用いた解析を進める必要があると考えている。
なお,プログラム・アブストラクト等の情報は,http://www.issx.org/?page=Dallasから入手可能である.
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