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2012年9月

2012年9月28日 (金)

NANO2012参加報告(その3)

1.概要

 国際学会NANO2012は、International Committee on Nanostructured Materials (ICNM)により1992年から隔年に開催されているナノ材料およびその構造化に関する国際会議である。参加者はほとんどがユーロ圏又はトルコからの参加者であったため、今までの国際会議では出会えなかった研究者にBEANS成果をアピールする事ができたと思われる。また、ノベール賞を受賞した著名な研究者(Dr. Daniel Shechtman)のkeynote発表が聞ける等、充実したinvitedスピーチが多数存在した。

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2.内容・所感

研究成果発表:

同学会のポスタープレゼンテーションにて “Quantitatively comparison in several silicon surface conditions” というタイトルで、中性粒子ビームエッチング効果検証研究成果に関するポスター発表を実施。具体的には、プラズマエッチング後や、表面処理後またはその前の表面と、中性粒子ビームエッチング後の表面について、カンチレバーの振動特性とAFM計測での荒さ測定結果から中性粒子ビームエッチングの低損傷効果を定義づけた。
 発表は朝一番であったが、多くの参加者が訪れ、ポスター会場は人で溢れていた。従って、国外の関連研究者に対するアピールが行えたと思う。会場の雰囲気として、理論に基づいた発表や質問が多かったように思うため、理論的に突っ込んだ話にした方がより面白い議論が出来たかもしれない。これは各学会によって異なるのだろう。

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研究動向調査:

 同学会において、“Nano materials for electronics, magnetics and photonics”、“Nano materials for energy application”等のセッションを中心に、主にナノの電気電子物性、エネルギー関係を中心とした、最新研究動向の情報収集を行った。注目した研究発表とその概要を以下に列挙する。

“Schottky contacts on the nanoscale: charge transport in “All-Inorganic” Metal-semiconductor nanorod networks” (T. Lavieville, Y. Zhang, A. Genovese, A. Casu, L. Manna, E. D. Fabrizio and R. Krahne, Italy)

ナノスケールの半導体において、その電気的な接合状況はマクロスケールの現象と大きな乖離が見られる。これらの解析は大変興味深い研究課題として多く研究者が知恵を絞っている。発表者らはCdSeと金粒子を接合したダンベルのような構像(dumbbell structure, 自己組織的に作製可能)がある一つの理想的なモデルとしてこの問題を検討できると考え研究を行っているようである。
 本報告では、CdSeと金粒子のナノネットワーク構造の電流−バイアス特性がV^2/3に比例する事について理論的な議論がなされた。(通常バルク材料の場合はV^1/2に比例)この不可解な現象はどうやらある一部のネットワークで、Au—CdSe接続を電荷がトンネルしたと考えると良く理論式に一致するようだ。


“Periodical nano structuregrown on trace of CW laser scanning at high speed of 300 m/min” (S. Kaneko et.al., Kanagawa Ind. Tech. Center, Japan):

  日本からの発表もあった。高速レーザアニーリング技術の開発途中に見つかったと思われる周期的なナノストラクチャー作製手法に関する発表。P-ionがインプラント (dose量1x10^13 個/cm^2, 200 keV) されたアモルファスシリコンに波長532 nmのCW laserと近赤外レーザを同時に照射し速度300 m/minのスピードでレーザアニールを行うとそのスキャン方向から垂直にナノストラクチャー(高さ数十 nm ピッチ500 nm[ピッチは波長に依存?]) が一様に作成可能なようだ。

“Conversion of concentrated sunlight by nanostructured photovoltaics” (E. A. Katz, Israel) :

  2012/5/31シャープが集光型化合物3接合太陽電池で世界最高効率43.5%が達成された事をプレス発表した。Katzらはこの集光型の太陽電池(CPV)の方式を実現する為に、様々な現実の課題について検討している。まず発表者らは、アメリカPETALでの実地試験による結果等からCPVが十分実現可能である事を主張した。大面積を安価・抵抗率な太陽電池でカバーするよりも大面積の集光レンズ+高価だが高効率で小面積な太陽電池でまかなった方がコスト的に有利であるし、太陽光1000個分(1sun = 1mW/mm2換算)以上の集光でも効率的に電力を発生させることが可能なようだ。 気になるのは太陽電池の特性劣化だが、これは[通常の太陽電池の経過年数×集めた太陽の数]の経年変化特性と似た特性を示すようである。従ってまた、CPVを使えば、長い年月のかかる太陽電池の経年劣化実験を短縮する事も可能だと言っていた。更なる実用化に向けた調査が期待される。

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2012年9月11日 (火)

NANO2012参加報告(その2)

 国際会議NANO2012のNANOELECTRONICS, NANODEVICES, NANOCSEMICONDUCTORS, AND DEVICESのセッションにおいて、李が “MULTIPLE PROBES FOR PARALLEL SPM LAO NANO-LITHOGRAPHY” と題してオーラル発表を行いました。また、新規ナノ材料の形成及び応用などの分野を中心に、マイクロナノテクに関する最新研究動向の情報収集についても行いました。

以下にその内容について報告します。

研究成果発表

 大面積加工可能、またプローブ先端の耐久性と加工分解能を両立できるマルチ耐摩耗プローブ及びそれを用いたナノパターンの並列描画に関する研究発表を行いました。

 提案したマルチ耐摩耗プローブ先端は、マイクロスケールの機械的な接触部とその側壁に形成しているナノスケールの電極接触部、及び接触部から突出している庇部から構成され、プローブ先端に優れた耐久性とナノパターンの加工能力を持たせています。プローブの先端に庇構造を設けることで、回り込みを抑え、側壁のみへの金属性膜がウェハレベルでの加工が可能となっています。また、プローブ先端には、仮に摩耗が生じても安定して特性を維持できるように、均一な断面形状を持たせています。更に、本プローブ構造は複数本のプローブを持つため、SPMリソグラフィのスループットを向上させることもできます。

 発表では、MEMS技術を用いて作製した描画電極サイズが30nmのマルチ耐摩耗プローブに対して、(株)住友精密製のScanning Probe Nano Lithography(SPNL)システム((株)住友精密製)による描画実験により、マルチプローブによるナノパターンの並列描画に成功し、マルチ耐摩耗プローブ構造の有効性の検証ができたことを中心に報告しました。

 発表後、耐摩耗プローブリソグラフィの最高分解能や長距離描画後のプローブ形状変化の描画安定性に対する影響といった本質的な質問が寄せられ、本研究に対する聴講者の高い関心を感じました。

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研究動向調査

 新規ナノ材料の形成及び応用などの分野を中心に、マイクロナノテクに関する最新研究動向の情報収集を行いました。多くのオーラルセッションでは新規ナノ材料の開発、作製及び応用に関する発表が目立っていました。

 特に注目した発表とその概要を以下に記します。

1)THE SYNTHESIS OF DIFFERENT ZINC OXIDE NANOSTRUCTURES: TETRAPOD-LIKE WHISKERS, NANOCOMBS, NANOAEROPLANES, NANOBELTS, BEAD-LIKE NANOFORMS.(S.A. Al Rifai, A.E.Popov, M.S. Smirnov, S.V. Ryabzev, E.P. Domashevskaya.
Russian Federation)

 化学蒸着法(CVD法)を用いて、テトラポッドのようなウィスカー(T-ZnO)、ナノ航空機状、ナノ櫛状、ナノベルト及びビーズ状の酸化亜鉛の合成に成功したとの報告でした。原料ガス混合比と酸化の速度は酸化亜鉛のこれらの形態の成長に大きな影響を与え、これらの条件を制御することにより、酸化亜鉛の形態を制御することを可能としています。テトラポッド状のウィスカー(T-ZnO)を石英管の壁上の触媒なしで成長させ、T-ZnOの構造や形態を調べることで、T-ZnOの4つの足がすべて針のような形になり、[001]方向に成長していることを明らかにしています。

2) STABILISATION OF ENZYMES USING NANOPARTICLES.(T. D. Clemons, M. Fitzgerald, S. A. Dunlop, A. R. Harvey, B. Zdyrko, I.Luzinov, K. S. Iyer and K. A. Stubbs)

 酵素は高い特異性と触媒特性を有するため、工業と医療分野で大きな関心を集めていますが、酵素関連技術では、その固有の熱的不安定性が主要な課題となっています。更に、酵素の安定化技術及び固定技術は、酵素活性化と持続可能性及びリサイクル性向上のキー技術となっています。
 本研究では、カチオン性磁気や蛍光高分子ナノ粒子の存在下で酵素の多様性(β-グルコシダーゼ、β-ガラクトシダーゼおよび酸性ホスファターゼ)の安定化について調べ、ナノ粒子の存在下で酵素はナノ粒子を含まない酵素と比較して、一定な温度範囲内で、熱活性化と永続性(安定性)が高くなることを明らかにしている。これらの酵素の安定化には、ラクトースフリー、乳製品の生産から菓子製造まで酵素関連業界の特定のアプリケーションへの展開可能性が考えられている。更に、磁気や蛍光機能のナノ粒子を導入することにより、生体内イメージングと追跡をすることも可能になる。

所感

 今回で10回目を迎えるNANO2012は、ギリシャ、ロドースのRodos Palace Convention Centerで2012年08月26日(日)から8月31日(金)の期間で開催されました。主催は、ICNM (INTERNATIONAL COMMITTEE ON ANOSTRUCTURED MATERIALS)で、ナノ材料及びナノデバイスなどが特徴としたナノテク分野のあらゆる方面に関して研究結果が報告されていました。なお、国際会議NANOは、欧州及び米国を中心に隔年開催されるナノ材料関係の最大規模の国際会議で、近年、800~1000人各分野の研究者を引きつけています。各セッションは、十分な発表者と聴講者の十分な交流を与える構成となっているため、成果の発表だけでなく、MEMS分野でのナノ材料やその応用に関する最新研究動向の情報収集という点でも絶好の機会が得られました。

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2012年9月 6日 (木)

NANO2012参加報告(その1)

 中性粒子ビーム検証デバイスの成果として「VERTICAL VIBRATING-BODY FIELD-EFFECT TRANSISTOR FOR IMPROVED DYNAMIC PROPERTIES」のタイトルで、中性粒子ビーム検証デバイスの新型構造の提案とその効果に関する発表を実施した。また、MEMS関連のセッションでの最新の技術動向調査を行った。

研究件数と分類

 Ⅺ International Committee on Nanostructured Materials (NANO2012)は、2年に一度開催されるナノ材料およびナノ構造の世界有数の学会である。開催期間は、2012年8月26日(日)から31日(金)の6日間。” NANOELECTRONICS, NANODEVICES, NANOCSEMICONDUCTORS, AND DEVICES”、”NANOMATERIALS FOR ENERGY APPLICATIONS & GREEN NANO”、 “NANOMEDICINE, NANOBIOTECHNOLOGY ENVIRONMENT AND NANOTOXICOLOGY”、” MECHANICAL BEHAVIOR OF NANOSTRUCTURED MATERIALS”などBEANSに関連する21のテーマからなる8のセッションで構成され、6日間で6件のplenary talk、189件のinvited talk、246件のcontributed talkおよび300件のポスター発表が行われた。また、世界74カ国からの参加があり関心の高さが伺えた。

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技術動向調査

 著者は主に、“Environmental, Safety and Health (ESH) Issues of Engineered Nanomaterials”、“Nanoelectronics, Nanodevices, Nanostructured Semiconductors and Sensors (MEMS, NEMS.)”、“Nanostructured Solar Cells”の分野について技術調査を行った。発表内容はさまざまであったが、BEANSに関連するセッションの中から注目する2件の発表から技術情報収集を行ったので、以下の通り紹介する。


①Plenary Talk:アメリカのアルゴンヌ国立研究所O.Auciello氏から“SCIENCE AND TECHNOLOGY OF MULTIFUNCTIONAL ULTRANANOCRYSTALLINE DIAMOND (UNCD) FILMS AND APPLICATIONS TO A NEW GENERATION OF INDUSTRIAL, MICRO/NANOELECTRONIC, MEMS/NEMS, AND BIOMEDICAL DEVICES/SYSTEMS”と題して、超ナノ結晶ダイヤモンド(UNCD)膜を使った様々な研究成果報告が行われた。発表では、UNCD膜の作製方法およびMEMS/NEMSおよびバイオメディカル等での利用実績について紹介された。UNCD膜は、アルゴンヌ国立研究所がマイクロ・ナノデバイスへの応用を目的に開発し、特許を有する多機能薄膜である。そして、350-400℃下でAr(99%)とCH4(1%)を使用したマイクロ波プラズマCVD(MPCVD)法によって成膜され、2-5μmサイズの粒子によって構成される。現在、成膜レートは0.2-0.4μm/hourで4インチシリコンウエハ上への均一成膜が可能だが、6-8インチについては更なる開発が必要であるとしている。MEMS分野への応用例としては、ピエゾ抵抗カンチレバーによる基礎特性評価結果が示された[1]。ここでは、PZT/Pt/UNCD構造により高感度、低ノイズ、低電力駆動が可能であることが述べられ、これらを利用した振動発電とRFキャパシティブスイッチ[2]の紹介があった。RFキャパシティブスイッチでは、充放電時間がSiO2膜の場合と比較して5-6桁速くなる実験結果が示された。BEANSにおいては、MEMS表面を中性粒子ビームでトリートメントすることで特性や信頼性向上を目指している。中性粒子ビームや本研究に見られるように、奇抜な構造によるMEMS機能の発現や向上を目指すのでは無く、シンプルなMEMS構造を実用的な追加プロセスにより改善・向上するアプローチが実用化には最重要であると感じた。
〈参考文献〉
[1] S. Srinivasan et al: “Piezoelectric/ultrananocrystalline diamond heterostructures for high-performance multifunctional micro/nanoelectromechanical systems”, Appl. Phys. Lett. 90, 134101 (2007)
[2] C. Goldsmith et al: “Charging characteristics of ultra-nano-crystalline diamond in RF MEMS capacitive switches”, Microwave Symposium Digest (MTT), 2010 IEEE MTT-S International , pp.1, 23-28 May 2010

②Invited Talk:スペインのRovira i Virgili大学R. Ionescu氏から“APPLICATION OF NANOTECHNOLOGY AND CHEMICAL SENSORS FOR THE DETECTION OF MULTIPLE SCLEROSIS DISEASE BY RESPIRATORY SAMPLES”と題して、ケミカルセンサを使った呼気による多発性硬化症診断の研究成果報告が行われた。ケミカルセンサは、金ナノ粒子とカーボンナノチューブがベースとなる12種(7種類の金ナノ粒子センサと5種類のカーボンナノチューブセンサ)の交差反応性化学センサをアレイ化したものを使用した。センサは、シリコンウエハ上にフォトリソ、リフトオフ、ドロップキャスティング(AuNPセンサ:1回、PAH/SWCNTセンサ:2回)の順に行うことで作製した。実験では、20-40歳の34人の患者と17人の健康者から呼気サンプルを採取した。また、診断を複雑化させる喫煙の有無や性別も考慮した。そして、採取した呼気と真空を交互に5分サイクルでセンサアレイに曝露させた。その結果、8種類のナノセンサから得られたデータから84.3%の高い確率で、多発性硬化症を診断することに成功した。この結果から多発性硬化症診断の迅速かつ低価格な非侵襲方式が期待できるとしている。今後は、病気のフェーズによる違いや他の病気(パーキンソン病等)について検討するとしている。BEANSにおいては、ナノ粒子やカーボンナノチューブによるCO2センサの検討がなされているが、このような医療関連への展開の可能性を感じた。

成果発表

 最後に成果発表について報告する。今回、中性粒子ビーム検証デバイスの成果として「E VERTICAL VIBRATING-BODY FIELD-EFFECT TRANSISTOR FOR IMPROVED DYNAMIC PROPERTIES」のタイトルで、中性粒子ビーム検証デバイスの新型構造の提案とその効果に関するポスター発表を行った。質疑応答では、デバイスの構造、動作メカニズムおよび特性に関する細かな質問があり、発表内容について一定の理解が得られたと考えられる。また、2人の質問者とは名刺交換を行い、関連論文の送付依頼を受けた。


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