APCOT2012参加報告
学会概要
国際会議IEEE APCOT2012 (The Sixth Asia-Pacific Conference on Transducers and Micro/Nano Technologies)が中国、南京のJinlingホテルで2012年07月8日(日)から7月11日(水)の期間で開催されました。IEEE APCOTは隔年で開催される、アジア、太平洋地域での最大規模の国際会議であり、今回6回目になります。
IEEE APCOTでは、MEMS加工技術、各種類トランスデューサ及びセンサーをはじめ、それらを応用したデバイス関連の研究が幅広く紹介され、BEANSの研究活動を世界にアピールする場としても最適であることから、3D-BEANSセンターでのテーマの一つである耐摩耗プローブの研究成果について口頭発表を行いました。
研究件数と分類
IEEE APCOT2012は351件の投稿中、241件が採択されており、採択率は約68.7%となっています。会議では、採択された241件(口頭発表107件、ポスター発表134件)の他、6件の基調講演、9件の招待講演が予定されていました。16カ国からの参加があり、開催国である中国の88件の採択数を筆頭に、日本(44件)、シンガポール(33件)、台湾(30件)、韓国(18件)と続いていました。国別採択数及び採択分野(トピック)別採択数の詳細は下図をご参考ください。
研究成果発表
IEEE APCOT2012のNano Devices and Nano Sensingのセッションにおいて、“A SIMPLE MASS-PRODUCTION-READY ANTI-WEAR PROBE FOR NANO-LITHOGRAPHY”というタイトルで、耐摩耗プローブの研究成果に関する口頭発表をしました。
口頭発表では、大面積加工可能、またプローブ先端の耐久性と加工分解能を両立できる耐摩耗プローブを提案しました。提案した耐摩耗プローブは、その先端がマイクロスケールの機械的な接触部とそれの側壁に形成しているナノスケールの電極接触部、及び接触部から突出している庇部から構成され、プローブ先端に優れた耐久性とナノパターンの加工能力を持たせています。なお、プローブの先端に庇構造を設けることにより、回り込みを抑え、側壁のみへの金属性膜がウェハレベルでの加工を可能としています。更に、プローブ先端は均一な断面形状を有するため、仮に摩耗が生じても安定して特性を維持することができます。
MEMS技術を用いて作製した耐摩耗プローブの耐久性と描画安定性の評価結果について報告しました。評価方法としては、具体的には、まず作製したプローブを用いて、大気中で、400nNの押しつけ力、-10Vのバイアス電圧、 1um/sの走査レートという条件で描画を行いました。その後、プローブ先端に400nNの押しつけ力及び-10Vのバイアス電圧を印加した上で、シリコン基板の表面で2mを走査しました。2m走査前後で、プローブ先端の形状変化を観察し、プローブ先端の機械的な接触でわずかに摩耗されていることが分かりました。更に、 2m走査した後、上記と同様な条件で、耐摩耗プローブによる描画を実施しました。2m走査後の耐摩耗プローブによって描画した線パターンが、走査前のパターンと一致していることを確認し、作製した耐摩耗プローブが2mの耐久性及び描画安定性を持つことを示しました。これは同じ先端電極サイズを有する市販プローブの耐久性の1000倍程度に相当します。
発表の後、耐摩耗プローブリソについてどの程度の分解能まで出せるのか、描画基板のダメージ対策といった性能や課題、今後の展開に関する質問が多く寄せられ、関心が高いことが伺えました。私が発表した耐摩耗プローブに関連性がある研究が複数見受けられ、AFMプローブの信頼性向上に対する研究開発が注目されるようになりつつあるという感触を持ちました。
研究動向調査
プロセス及び材料デバイスの評価等の分野を中心に、MEMS関連分野の最新研究動向の情報収集を行いました。多くのオーラルセッションで、新規プロセス、新規材料の特性評価方法及び新規デバイスの構造及び試作案の報告が目立っており、実用化より、新規性を重視している印象を受けました。
以下に、特に注目した発表とその概要を記します。
1) INVESTIGATION OF HYDROGEN-ANNEALING EFFECT ON TORSIONAL STRENGTH OF SI BEAM OF SCANNING MICROMIRROR DEVICE
水素アニール処理は単結晶シリコンビームのねじり強度に及ぼす影響を調べたものであり、水素アニーリングした後、シリコンビームのねじり強度が低下したという報告でした。本研究結果は中性粒子エッチングの効果のアピールに活用する等、BEANSでの今後の展開に参考なると思われます。
2) SILICON PN JUNCTION INTEGRATED CARBON NANOTUBE FIELD EMITTER ARRAY
電子ビームリソグラフィ(EB)のスループットを向上するため、マルチ尖ったカーボンナノチューブ(CNT)フィールドエミッタアレイが開発されました。また、配線数の低減及びエミッタの高密度化ため、光スイッチングを導入しています。本研究はCNTの形成方法及び耐摩耗プローブリソグラフィの展開方針に大変参考になると思います。今後、プローブリソのアプリがより具体的に絞ることができました。
3) YOUNG’S MODULUS MEASUREMENT OF SUBMICRON-THICK ALUMINUM FILM BY MEMS RESONANCE TEST
MEMS共振子の共振周波数の変化により、ヤング率を算出する方法を提案しています。具体的には、まず、Si製共振子を作製し、その初期共振周波数を測定しています。その次に、MEMS振動子の上に100nmのAl膜を成膜し、成膜後の振動子の共振周波数を再度測定を行っていました。成膜前後、MEMS共振子の共振周波数の変化により、100nmのAl薄膜のヤング率を算出しています。上記のMEMS振動子を用いて、理想値から-8%程度の測定精度で基材のヤング率を測定することができています。また、FEA解析結果の±10%の精度で、100nmアルミ薄膜のヤング率を測定することに成功しています。得られた100nmアルミ薄膜のヤング率は35GPaであり、約バルクアルミのほぼ半分でした。上記振動子はその他の薄膜の測定へ展開することも可能であり、再利用することもできます。
その他
近年、IEEE APCOT会議は、300~500人各分野の研究者を引きつけています。そして、ポスター/オーラルセッションで100以上の選ばれた書類を発表するフォーラムがありました。その一つのセッション構成は、十分な機会を出席者、プレゼンターと出展者との交流に提供することができるので、MEMS分野の最新研究動向の把握及び情報収集の良い機会である。
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