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2012年7月

2012年7月 5日 (木)

MIPE2012参加報告(その4)

 国際学会MIPE2012は、日米の機械学会の共催にて3年に一度のみ開催される、情報・知能・精密機器関連では世界最高峰の学会である。
 本学会はHDD(Hard Disk Drive)の研究分野を中心にMEMS、ロボット、センサ等の最新研究が発表される学会として知られている。同学会に参加し、最先端のMEMS及び中性粒子ビームエッチング装置の応用分野について情報収集を行った。
また、3D-BEANS成果である中性粒子ビームエッチングの低損傷効果を明確に示すデータを発表し、我々の技術をアピールした。

研究成果発表
 Micro/Nanomechatronics-1セッションにおいて、“A New experimental approach to evaluate plasma-induced damage in micro-cantilever”というタイトルで、中性粒子ビームエッチング研究における成果の口頭発表を行った。
 具体的にはプラズマダメージにおける問題点(荷電粒子、真空紫外光)を提示し、それを取り除く中性粒子ビームエッチングという新しいエッチング手法の可能性を背景にMEMSデバイスでもエッチング界面の状態を気にする必要が出てきた事を主張した。そして、本発表では特にMEMSデバイスのプラズマダメージによる機械特性劣化を定量的に評価する手法を提示するとともに、中性粒子ビームエッチングの低損傷効果を示す実験データを示した。
 本プロジェクトの成果について国内外の関連研究者に対するアピールを行うことができた。質問者からは、プラズマダメージの問題点のうち、荷電粒子と真空紫外光のどちらが支配的なダメージかと言う質問があり、寒川らの研究成果を元に真空紫外光が支配的であること、荷電粒子はどちらかというと、直接的な形状の変化として影響が出る事を説明した。
中性粒子のエッチング手法を適用する事でデバイス特性の向上がみこめることをアピールできた。

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研究動向調査:
 本学会において、“Micro/Nanomechatronics”、“Micro/Nano system Science&Technology”等のセッションを中心に、研究動向調査を行ったので、以下に列挙する。

“Electromagnetic micro energy harvester for human locomotion” (Pratik Patel, Mir Behrad Khamesee, Canada):
 本発表では、マグネットとコイルを使用した小型(単三電池サイズ)のエナジーハーベスティングデバイスの検証を行っている。15 Hz、振幅14.375 mmで最大5.8 mWの出力を得られる。MEMSデバイスと比較してかなりの発電力であり、周波数も低い。単位体積当たりの発電力で比較する必要がある。また、電池のカタチで規格化するのは賢いやり方だと感じた。筆者は人の移動時に発生する振動を電力に変換する事を想定しているようだ。

“2D Tranjetory estimation during free walk using tiptoe mounted senosor” (Koichi Sagawa, Kensuke Ohkubo, Hirosaki University, Japan):
 足の先に付けた加速度、ジャイロの複合センサ信号を処理し、人の移動情報、場所を把握する技術は介護や、ナビゲーション技術に寄与するとして研究が行われている。
 従来の信号処理手法では信号にあるしきい値を決めて、一歩毎の間隔を把握している。本研究では、足の着地時のピークを中心に、足が進んでいる時の時間(gait time)と着地時のポイントを正確に求め、積分区間の決定を行う。その結果自由歩行時の誤差が従来方と比較し約50%改善された。

“Modeling, Fabrication and Characterization of a micromachined ZnO Unimorph for high-frequency nano-positioning” (Yanhui Yuan, Hejun Du, Kun Shyong Chow, Mingsheng Zhang, Shingapore):
 ZnOベースの圧電素子を用いてカンチレバーを振動させ、シミュレーションと実験結果に良い一致が得られた。感度は、12.09 nm/Vであり、発生力は6Vの起電力で90uNに達する。
 カンチレバーはSOIウェハを用いずに作製したにも関わらず、非常に成功に出来ている。

“Development of Acoustic Resonator with non-uniformthickness and mechanical property for wide frequency range” (Takayuki Kobayasi, Kazuki Zusho, Hirofumi Shintaku, and Satoyuki Kawano, Osaka Univ., Japan):
 耳の特殊なオルガン構造をまねる為に、筆者たちはネガレジストとシャドーマスクを使用した一括プロセスで両端支持梁の作製を行った。シャドーマスクにより透過する光の強度を調整する事で任意厚みのカンチレバー構造が作成可能であるが、紫外光の強度と、レジストの硬化深さの関係はリニアではない。この手法を用いて、3.02-139umの厚さの梁を一括で作製した。
 このようなSU-8レジストを使用した構造体は、電気的な検出部の作り込みが課題であると思う。


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2012年7月 4日 (水)

MIPE2012参加報告(その3)

 MIPEは日米の機械学会の共催により3年に一度のみ開催され、情報・知能・精密機器(マイクロ・ナノシステム、MEMSを含む)に関する研究者が世界中から集まる国際会議である。本会議においてBEANSプロジェクトの成果である、中性粒子ビームエッチングを用いたMEMS側壁の平坦化を実証した結果について、マイクロ・ナノサイエンス&テクノロジーのセッションで発表することで、世界へ向けて研究成果を広報してその評価を得ると共に、マイクロ・ナノシステムやMEMSに関する情報収集を行った。


研究成果発表
 Micro/Nanosystem Science & Technologyのセッションにおいて、“Novel Dry Process for Planarization of MEMS Sidewall using Neutral Beam Etching”と題して、中性粒子ビームエッチングの研究成果に関する口頭発表を行った。発表ではBOSCHプロセス時に生じるMEMS側壁のスキャロップ(凹凸)を中性粒子ビームエッチングを用いて平坦化できることを報告した。この発表に対してはスキャロップ平坦化の限界値や側壁下部のスキャロップが平坦化されるメカニズムについて等の質問があり、それに対して、平坦化の限界値はスキャロップの大きさそのものではなく、ビームのスキャロップ面に対する入射角度に依存していると考えられることから、平坦化の限界値のみを単独で示すことはできない旨を答えた。また、平坦化されるメカニズムについては、未だ明確には理解できていないが、ビームの入射角度分布が小さく、直進性が高いことから側壁上部のみならず下部のスキャロップも平坦化されると考えられることを述べた。これらの質問から、中性粒子ビームという新しい技術を利用したMEMSプロセスを提案した研究成果に対する関心の高いことが窺われた。

関連情報調査
 本学会において下記の発表が興味深く、また、聴講することで新たな知見を得ることができた。

S04_02: DLC COATINGS CHARACTERIZATION ON HDD RECORDING HEADS (A. Daugela et al, Seagate Technology LLC)
 AFM(原子間力顕微鏡)を利用した引っかきテストによってHDDのヘッド(AlTiC)をDLC(Diamond Like Carbon)でコーティングしたものと、していないものとの間で耐摩耗性(Wear Resistance)を比較した結果の報告であった。DLCはプラズマ耐性の高い物質でもあることから、その耐摩耗性とプラズマ耐性との相関関係が存在することが予想される。本研究の耐摩耗性測定方法を用いることで、DLCのプラズマ耐性を予測することができるのではないかというヒントを得ることができた。

S13_04: DEVELOPMENT OF ACOUSTIC RESONATOR WITH NON-UNIFORMTHICKNESS AND MECHANICAL PROPERTY FOR WIDE FREQUENCY RANGE (T. Kobayashi et al, Osaka Univ.)
 グレースケールマスクを用いてネガレジストを露光することで、厚さの異なる64個のレジストアレー(幅1.5mm、ピッチ約0.5mm、アレー全体は長さ30mm)を基板上に形成することができたという報告であった。各アレーの共鳴周波数と音速の測定結果から、レジスト厚さが150から50μmまで減少すると共鳴周波数は減少し、音速は増加した。レジスト厚さが50μmよりも薄くなった場合には共鳴周波数は減少したが、音速には変化が見られなかった。これは、露光量が減少したことで、レジストのクロスリンクが進行しなくなり、レジストの固化が進んでいないことによると推測された。この研究は比較的簡単に膜厚の異なる微小な有機膜アレーを作製できることを示したものであり、大変参考となった。また、本研究は補聴器等の小型な音響デバイスを作製することが将来的な目的であり、バイオ・医療・MEMSの融合を目指した研究の一つであった。

S14_04: Antireflection property of transport thin films deposited onto polyester film substrate by r.f. sputtering with a poly(tetrafluoroethylene) target (S. Iwamori, Tokai Univ.)
 これまでプラスチック基板上の反射防止膜としては無機材料膜が用いられてきたが、有機材料であるポリテトラフロロエチレン(PTFE)膜をスパッタ法で形成できることが報告された。実験方法としては、PTFEターゲットのRFスパッタリングを用いてポリエステル(PET)基板上へPTFE薄膜を形成した。膜構造を調べるため、ガラス基板上にも同様にPTFE薄膜が形成された。形成したPTFE薄膜の透過率は一般的な反射防止膜材料であるMgF2よりも高いことが確認できた。X線回折による構造解析から、PTFE薄膜はアモルファス構造であることがわかり、このアモルファス構造が高い透過率をもたらすと推測された。

S15_01: Dynamic properties of hot embossing polymer cantilever for VOC sensor (N. Shiraishi et al, NMEMS Technology Research Organization)
 揮発性有機化合物:Volatile organic compounds(VOC)センサーへの応用を目指し、共鳴質量センサーをSiではなくポリマー(PMMA:Polymethyl methacrylate)材料からなるカンチレバーで製作する研究に関する発表であった。作製プロセスには熱型押し(Hot Embossing)法を用いており、従来のSi材料のホト・リソ及びエッチングを用いた方法とは全く異なっていた。作製したカンチレバーのQ値は振動モードに応じて20から100まで変化しており、これは体積ロスに対するエネルギー散逸で説明できるという内容であった。Si以外の材料でカンチレバーを作製し、質量センサー等へ応用できる可能性を示した報告であった。

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MIPE2012参加報告(その2)

 Micromechatronics for Information and Precision Equipment (MIPE2012)は、日米の機械学会の共催にて3年に一度のみ開催される、情報・知能・精密機器関連では世界最高峰の学会である。開催期間は、2012年6月18日(月)から20日(水)の3日間。”Micro/Nanosystem Science & Technology”、” Micro/Nanomechatronics”、 “Sensor Networks & Wearable Information”、”Bio-medical Equipments”などBEANSに関連するセッションを含む34のセッションで構成され、3日間で142件のオーラル発表と2件の招待講演が行われた。また、遠方にも関わらず多くの日本人が参加しており関心の高さが伺えた。

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技術動向調査
 発表内容はさまざまであったが、”Intelligent Machines & Brain Science”と“Sensor Networks & Wearable Information”のセッションの中から注目する2件の発表から技術情報収集を行ったので、以下の通り紹介する。

①韓国Sungkyunkwan Universityの研究グループから“DEVELOPMENT OF A FINGER-TIP TACTILE SENSOR FOR SMALL-SIZE OBJECT GRASPING”と題して、ロボットの指先用途を想定したフレキシブル静電圧力センサの研究成果報告が行われた。センサの動作メカニズムは、静電容量の変化を検出する基本的な方式であるが、センサの材料には、ロボットの指先の動きに求められる柔軟性と伸縮性を満たすために、ニトリルゴムをベースに独自に開発した誘電高分子膜を使用している。そして電極には、市販の導電性シリコーンを使用している。作製プロセスは、アルミ製のロボットの指型に誘電高分子膜と導電性シリコーンをディップコーティングによって順に成膜する。内部の導電膜層には12のエリアを形成する銅電極が形成されている。このように作製したセンサは、最後に型から剥離しロボットに装着することで完成する。著者らは、作製したセンサを用いることで、ロボットの指先で小さな球を転がすことに成功している。最後に著者らは12のエリアから得られる圧力および位置情報から物を握るための情報が得られるとしている。ここでは、ディッププロセスおよび圧力センサのアプリに注目したい。ディッププロセスは、BEANSにおいてもナノ粒子配列のテーマで検討が進められているプロセスである。目的は異なるがプロセスの簡便性については同様であり、マイクロ・ナノデバイスの形成プロセスとして今後重要となることが確認できた。また、アプリについては、近年MEMS市場で注目されるロボット関連であった。他の発表テーマでは圧力センサを用いた助産婦教育支援アプリが提案されており、ロボット、介護、健康関連は引き続き重要なトレンド分野であることを確認した。
参考文献:Program and Extended Abstracts (冊子/CD-ROM) p.231

②埼玉大学の研究グループから“PREDICTIVE MODELING OF THERMAL COMFORT BASED ON RELATIONSHIP BETWEEN OCCUPANT'S SATISFACTION AND THERMAL ASPECTS USING SENSOR NETWORK” と題して、ニューラルネットワークを用いた居住者の快適温度予測ができるセンサネットワークの研究成果報告が行われた。著者らは実際に温度センサと湿度センサを居住空間に設置しセンサネットワークを形成し、フィールド試験を行っている。居住者から温度と湿度の快適さを数値化した情報をフィードバックし、これを繰り返すことで快適温度予測が可能なニューラルネットの構築に成功している。ここでは、センサネットワークの最適化へのアプローチについて注目したい。2010年度にGdeviceで実施されたセンサネットワークシステムでは、センサモジュールの開発、搭載センサの省電力化、イベント起動スイッチの検討などハードによる最適化を目指した。このようにハード・ソフトが別々に最適化するのでは無く、連携による新の最適化の必要性を実感した。一方で、著者らのセンサネットワークにおいても多くのセンサモジュールが使用されており、実用化に向けてセンサモジュールの無線化は必須であると感じた。このようなセンサネットワークのトレンド情報は、中性粒子ビーム評価デバイスで検討中であるバンドパスフィルタの仕様に反映することができる。
参考文献:Program and Extended Abstracts (冊子/CD-ROM) p.416

技術成果報告
 最後に成果発表について報告する。今回、中性粒子ビーム検証デバイスの成果として「EVALUATION OF THE RESONANCE FREQUENCY SHIFT OF VB-FET CAUSED BY JOULE HEATING AT THE CHANNEL」のタイトルで、中性粒子ビーム検証デバイスの伝熱解析結果を口頭発表した。質疑応答では、伝熱解析計算における前提条件に関する細かな質問があり、発表内容について一定の理解が得られたと考えられる。

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