« The 1st Japan-China-Korea Joint seminar on MEMS/NEMS for Green & Life Innovation | トップページ | MNE 2010報告 »

2010年9月21日 (火)

COMS2010(Commercialization of Micro and Nano Systems)報告

 マイクロ・ナノシステムの実用化に焦点を絞って議論する国際学会です。今回は米国のニューメキシコ州のアルバカーキ郊外での開催で第15回目にあたります。昨年はコペンハーゲン、その前はメキシコというように、開催場所からしてかなりグローバルな学会です。今回の会場となったのはアルバカーキから更に30マイルも離れた荒野にポツンと建つHyatt Regency Tamayaというリゾートホテルでした。ホテル名はインディアンのTamayame族に由来するようで、たしかに周辺の景色は西部劇のようでした。


Image324


 コンファレンス参加者は世界中から約300人。参加者のほとんどは現地アメリカ人、とくに会場の近くにあるサンディア国立研究所やロスアラモス国立研究所関係者が目を引きました。ドイツ、フランス,スウェーデン、デンマーク、UK,オランダ、ノルウェー、オーストラリア、スイス、オーストリア、カナダ、メキシコ、イタリア、ベルギー、フィンランドなど全部で20カ国以上からでした。なお、日本からの参加は2名、阪大の先生と小生だけでした。


 参加者の三分の一は大学関係者、のこりは企業や公的機関の研究者などで構成されており、この国際学会は基本的に研究成果の発表の場というよりは、Commercializationの名前のように、「実用化、商業化」段階に発展させるための諸問題に取り組もうとしている人々の国境を越えた情報交換、ネットワーキングの場であるような感じでした。事実、主催者MANCEFはアカデミックではなく業界団体ですので、アカデミック界からのプリゼンは話題提供という感じで、大学関係者はあまり目立ちません。

 初日は日曜日でしたが展示会のセットアップや参加登録作業やらで午後から夕方にかけて会場は活気に満ちていました。ほぼホテルはCOMS2010が借り切ったようで、そこここにCOMS2010の看板が溢れていました。


 二日目のオープニングではニューメキシコ州選出の上院議員が二人も登壇し、ナノテク産業に賭ける期待の大きさと国家戦略についての取組みについて述べました。技術の専門家ではないのに自分の言葉で力強く意気込みを語る姿には感心しました。2000年のクリントン大統領の問題提起以来国を挙げてナノテクに賭ける意気込みが伝わりました。

 毎日朝8時から夕方6時まで、午前と午後の初めのPlenaryでは全員が大ホールで聴講し、その後数か所に分かれてじっくり議論するという形式です。また展示会と大学院生中心のポスターセッションはコーヒーブレイクやランチにも使用するホールにて同時進行でなされました。

 同時進行のセッションのうち必ず一つか二つのセッションは実用化近い開発研究の話で、「エネルギー、環境、メディカル、ドラッグデリバリー、診断、プロセス技術」など、残りのセッションは「実用化戦略、投資戦略、ベンチャーキャピタル、ビジネスモデル、ロードマップ、人材育成、知財戦略」といった具合で、先端技術に目配りしながらもしっかりとビジネスにも力点が置かれた構成でした。

 同時に8つものセッションがあることが何度かありました。たとえば二日目午前を例にとると、①Nanomedicine:Science,Policy,and investment Panel、②Sensors and Sensor Systems, ③Industry, Government, and Academic Collaboration Models Ⅱ、④Micro and Nanotechnology in Mexico, ⑤MNT Alternative Energy-Biofuels, ⑥Business Intelligence Ⅱ、⑦Testing, ⑧-1 MNT Educational Products and Services, ⑧-2 MNT Workforce Development で、各会場には60人以上から10人未満しかいないのもあるといった具合です。少人数のセッションでは発表側の人数が聴衆の人数を上回ることがたびたびありました。その結果、ただ黙っているわけにもいかず度々にコメントか質問をせねばなりません。日本からの参加者が殆どいないのはその辺にも原因があるのではとさえ感じました。開催地ということでしょうか或いはナノテクのメッカのような存在だからでしょうか、Sandia National Laboratoriesの関係者が参加者数でも運営面でも目立ちました。

Image340



印象的なパネルディスカスの紹介

ⅰ)Monday  F   【IP Strategies for MNT】:

8/30/2010 13:30~ (Chair : J.DeMont /DeMont & Breyer)

知財の専門家が経営層に対して特許保有の意義や負の側面、注意点についてまとめた。特許は企業のもつ最も貴重な財産であること。ただし基本特許は長期間価値があるが、問題解決型の特許は3年で殆ど価値がなくなること。元来特許は他社からプロテクトするためのものであるが、保有コストが大きいし、他社を訴えても訴訟コストが大きい。サザビーズ(Sotheby’s) が最近は特許の売買仲介を始めたが、15%以上もの手数料をとる。特許にしておくべきかどうかの判断基準等々。


ⅱ)Monday  M   【Industry,Government,and Academic Collaboration ModelsⅠ】 

8/30/2010  16:00~  (Chair : D.Tolfree/Technopreneur)

米国における産官学の連携モデルについてUniv. of Utah, Air Force Research Laboratory, Sandia National Laboratory, US Dept of Agricultureからのメンバーが話し合った。戦闘機に搭載するレーザー兵器の開発をしているという米国空軍研究所の人によれば、MW級レーザーは化学レーザーではなく電子レーザーでいくようだ。特定企業と共同でプロトタイプを造る場合には、成功すれば他の企業にとってもメリットがあるように配慮するとか。SandiaNational Laboratoryの人は共同連携作業の目的はGlobal  Innovation Leaderを育成することにあると言っていた。米国農務省(USDA)の人は新技術の連携作業の例として、Pennsylvania Initiative について述べた。


ⅲ)Tuesday  C【Industry, Government, and Academic Collaboration Models Ⅱ】

               8/31/2010  10:00~  (Chair : D.Tolfree/Technopreneur)

同時並行8セッションがあった日で昨日に続く産官学連携についてのセッション。聴衆も含め全員で10名以下の超オタク的セッションであった。大学と企業の連携を「蛙(王子)とお姫様」の童話にたとえて述べたオーストラリアのMiniFabの人の話は「大学が無くなっても地域企業は困らない」ことや、蛙(企業)とお姫様(大学)のマッチングの難しさなどわかりやすい説明だった。 オランダのNanoNedの人は連携のインフラ作りに自国では経産省が50%以上補助していると言っていた。ノルウェーのMicrotech Innovationの人は企業間連携の例として互いのCEOの交換について述べていた。 ほかに「LocalとGlobalの矛盾」といったテーマが論じられた。これは学生は好きなところで仕事をすればいいからGlobalizationの方向。大企業もどこで事業を展開してもいいのでGlobalな存在である。それ以外がLocalな存在となる。それを考慮した産官学連携の姿についても議論があった。


ⅳ)Wednesday Plenary  9/1/2010  8:00~ (Chair : R.Warrington/MANCEF?MTU)

ナノテクの商業化への障壁となることは①IP ②その分野の専門家不足 ③「死の谷」問題であると米国国立衛生研究所(NIH)の人が述べた。米国国立標準技術研究所(NIST)の人は当然ながら、測れないものは製造できないと計測の重要性を述べた。また、ROIがどうなっているのか、投資が十分に価値があったことをきちんと示して見せる(demonstrate)ことの重要性を述べた。


ⅴ)Wednesday F  【MNT & Emerging Applications】

                 9/1/2010  13:30~  (Chair : R.Warrington /MANCEF/MTU)

このセッションではナノテクやMEMSの変わったアプリが紹介された。G.Verbeck (Univ. of North Texas)からはMEMSで造ったMass Spectrometerが紹介され、それを用いた研究でカーボンの硬度はSP2とSP3結合のある最適比率の時に最も硬くなったとか。他にRF MEMS for Mainstream ATE Switching, High Volume Print Forming, 圧電式Siマイクのガスセンサー応用、 Capacitive Electrical SensorsによるDNA, バクテリアセンサー、カーボンナノチューブの音響分野と放熱分野の応用等々が紹介された。


ⅵ)Wednesday L  【Business Intelligence Ⅲ】

              9/1/2010  16:00~ (Chair : V.Mangematin/Gren.Ec.de Mgmt)

Sul Kassicieh(Univ. of New Mexico)によれば、研究予算は大学$50B, 国立研究所$50B,民間企業$250Bというように圧倒的に企業R&Dの予算規模が肥大化している。民間企業の開発費レベルには程遠いことを考慮して、大学では専門家を育てることを、米国の国立研究所では国家の安全保障に関わることや新たな発見などに注力すべきであると述べた。Ariane von Raesfeld (Univ. of Twente) はナノテクでの公的機関と企業とのコラボはあくまでもベーシックサイエンスにするべきであること、公的機関からの技術移転が中心になることなどを述べた。またナノテクは既存の技術やプロジェクトを支援している技術であり、ナノテクのみを切り出してデータ化しにくいことなどを述べた。


ⅶ)Thursday Plenary  9/2/2010 08:30~  (Chair : R.Giasolli/MANCEF)

Seamus Curran (Univ. of Houston) は太陽電池でなぜ結晶Siから薄膜Siタイプのほうがエネルギー変換効率が良いのかについて朝と夕方のうす暗いところでの感度も考慮して総合的に薄膜タイプの優位性をまとめていた。また繊維状にしたものはいろいろな角度からの光を利用できるため、とりこぼしなく全部の太陽光を利用する点で可能性が高いことに触れていた。Jon Rambeau (Lockheed Martin) は現在の様々な技術に対して人々が単にINTERESTINGと思うかINNOVATIVEと捉えるかは微妙な違いだけであって、殆どINNOVATIVEと思われていうことは技術的には既存技術の組み合わせであることを指摘した。そのうえでナノテクの事業化に当たっては様々な要因が合わさって市場に浸透していくことがカーボンナノチューブを例に紹介された。


Image325


 以上、COMS2010はナノテクとMEMSの事業化に絞り込んだ国際会議でしたが、日本と同様にどこも苦労しているようです。産官学の連携はどこも似たり寄ったりのやり方で、特にお手本にするべきところは見つかりませんでした。もっとも外部環境や国内の諸事情が全部異なるのですからどこかでの成功例が直ちに役立つことはありません。しかし各国のやりかたのいいとこどりをするのも賢明な選択ではないでしょうか。いろいろ事業化のアプローチはありましたが、すべての議論を通して各国で共通して最重要だとされたのはIP関連だったと思います。  

(竹井 裕)

|

« The 1st Japan-China-Korea Joint seminar on MEMS/NEMS for Green & Life Innovation | トップページ | MNE 2010報告 »

産業・経済・技術」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: COMS2010(Commercialization of Micro and Nano Systems)報告:

« The 1st Japan-China-Korea Joint seminar on MEMS/NEMS for Green & Life Innovation | トップページ | MNE 2010報告 »