受容体を用いた化学量センサ構築で第26回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムにて五十嵐賞受賞
2009年10月15日と16日の二日間、江戸川区の船堀タワーで開催されました第26回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウムにて五十嵐賞をいただきました。受賞の対象となった研究の発表タイトルは「膜タンパク質を選択的に発現させた細胞による多チャンネル化学量センサ」です。誠に恥ずかしながら、私自身は五十嵐賞が電気学会センサ・マイクロマシン部門にてご尽力された故 五十嵐伊勢美先生のお名前を冠したものであるとは最近まで存じ上げませんでした。受賞後、多くの方々からお祝いの言葉をかけていただく度に賞の重さを実感し、身の引き締まる思いです。
賞状授与風景(柴田研究員撮影)
本研究の目的は化学物質に対する生体の感受機能を利用した化学量センサの構築です。これはBEANSの研究テーマの一つであるバイオを機能素子として利用するというコンセプトに基づいています。細胞膜に膜タンパク質として存在する化学受容体はその構造により、極めて特異性の高い分子認識能力を有します。その化学物質の受容は細胞膜に存在するイオンチャネルを介して細胞膜を横切る大量のイオンの移動を促します。生体内ではこの電荷移動が細胞膜の電位変化を生み、最終的には脳まで伝達されます。我々は増幅器を通してこの変化を電流値の変化として検出することも可能です。この生体のシステムは特異性の高さと感度の良さを“分子レベルで”達成した系と捉えることができます。このように長い進化の過程を経て洗練されてきた微小な系を化学センサ素子として利用しない手はないというアイディアが本研究の出発点でした。
今日、化学受容体を含め、様々なタンパク質が各種の細胞を用いて人工的に作り出すことが可能ですが、我々が採用した細胞はアフリカツメガエルの未受精卵(卵母細胞)です。幸いにも共同研究先の東大先端研神崎研究室では蛾の化学受容体をアフリカツメガエルの卵母細胞で発現させており、すぐに適用可能でしたので、最初の化学センシングのモデルとして蛾由来の二種類の異なる化学受容体を利用しました。本研究の肝はこれまで顕微鏡下でマイクロマニピュレータを用いての一細胞ずつを対象としていた電位計測系を電極と融合した流路で小型化し、多点計測が可能な系にしたという点にあります。
アフリカツメガエルとその卵母細胞
アフリカツメガエルの卵母細胞は上図に示した通り、他の多くの細胞に比べ、直径が約1 mmと一細胞としては非常に大きいため、計測用電極の挿入が簡便に行えます。その上、多くの化学受容体の発現系が構築されていますので、MEMSを適用した本研究の趣旨に非常に良く合致しました。
作製したデバイスは流路とガラス管でガイドされた二電極から構成されています。微小流路に電極を併設することで、細胞が流れに沿ってトラップされると同時に電極が細胞にアクセスする仕組みです。この試作機構で電位計測系の小型化に成功しました。下図の写真が二本の電極が流路内で細胞にアクセスしている様子です。
電極ガイド用の二本のガラス細管先端とそこに卵母細胞がトラップされた状態
試験した結果、分子の構造が非常に似た化学物質を選択性良く識別することができ、複数の細胞でも同時計測が可能でしたので、多チャンネル化学量センサ構築への第一歩が踏み出せたと考えています。本研究はまだまだ途上ですが、これまで多くの方々にご協力頂き、ここまで研究を進めることができました。この場を借りてお礼申し上げます。また、今後とも宜しくお願い致します。(三澤宣雄 Life BEANS研究員)
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