MSEC 2024 (MEMS & SENSORS EXECUTIVE CONGRESS) 参加報告
SEMIのテクノロジーコミュニティーMSIG (MEMS & SENSORS INDUSTRY GROUP) が主催するMSEC 2024が10月7日から9日までカナダ・ケベック州ブロモンのChâteau-Bromont Hotelにて開催されました(写真1)。
NEDOからの受託調査の一環で、MEMS業界をリードする経営層や開発責任者ら一堂に会する本会議に参加し、北米を中心とした世界のMEMS関連産業の最新の投資状況や市場・技術動向を調査しました。
写真1 MSEC 2024が開催された会場ホテル
本会議は、2016年より毎年米国各地で開催されてきましたが、今回初めてカナダでの開催となりました。開催地のケベック州ブロモンは、古く(1972年)からIBMカナダの拠点であり、また、世界2位のMEMSファウンドリであるTeledyne MEMSが立地するなどマイクロエレクトロニクス関連の企業や研究機関の集積地域となっています。
今回の会議では、会場近くに立地するカナダ最大のマイクロエレクトロニクス研究開発拠点であるC2MI (Centre de Collaboration MiQro Innovation) のテクニカルツアーから始まり、”SENSORIZATION: Enabling a New Intelligence”をテーマに、以下の7セッション計24件の講演が行われました(写真2)。
・Session 1 - MSEC 2024 Keynotes (4件)
・Session 2 - MSEC 2024 Product Showdown: AR/VR Technology (3件)
・Session 3 – Emerging MEMS & Sensors Market Trend & Ecosystem Challenge (4件)
・Session 4 – MEMS & Sensors Industry Trends & Sustainable Future (4件)
・Session 5 – Canadian Start-up Pitches (4件)
・Session 6 – Advancements in Positioning, Navigation and Timing (3件)
・Session 7 – MSEC 2024 Closing Keynotes (2件)
参加者は80機関より集まり、北米中心に全体で約95名、内、欧州から十数名、日本から2名でした(写真3)。プログラムの詳細は以下のURLからご覧いただけます。
https://www.semi.org/en/connect/events/mems-sensors-executive-congress-msec
セッションに先立って、SEMI America Presidentによる開会の挨拶の中で、世界各地域の先端半導体ファウンドリの動向について言及されました。2030年までに、AI、モビリティー、ファクトリー及び医療の各分野の進展により半導体市場は1兆ドルに達すると予測されており、その経済安全保障を確保するため、米国、ヨーロッパ、日本は、先端半導体製造産業の再興に向けて多額の投資を継続している。
しかしながら2027年時点で期待される半導体ファウンドリ生産量の世界シェアは米国で10%、欧州で8%、日本で13%に留まり、依然として台湾、韓国が大半を占めること、また、今後10年の最大のリスクとして、PFAS規制の強化やオペレータ、エンジニア人材の不足などが指摘されました。
北米では、これら半導体産業への投資は、MEMS分野へも波及しており、2024年7月には、MEMSファウンドリ企業のRogue Valley MicrodevicesがMEMS分野で初めて米国CHIPS and Science Actに基づく補助金を獲得しました。同社創業者CEOによる講演では、この補助金を活用し、フロリダ州パームベイにあるMEMS製造施設に300mmウエハ対応設備を導入する計画であり、その主な目的は、CMOS/MEMS統合デバイスやウエハレベルパッケージングなど半導体製造のエコシステム構築にあり、ウエハサイズ(300 mm)の共通化は重要な要件であると述べられました。
MEMSの設計・開発サービスを提供しているAM Fitzgerald & Associatesの創業者CEOによる”The Past, Present and Future of MEMS” と題した基調講演では、1970年代から今日に至るまで主流であるSiウエハベースのMEMSデバイスについて触れ、今後、新しい薄膜材料(PZT, GaN, diamond, graphene, etc.)の活用やシリコンフォトニクスとの融合により、さらなる革新が期待できると述べられました。
また、製造技術においては、多品種少量生産や多種材料使用を可能とする3Dプリンティングにより製造されるMEMSデバイス、LCDパネルのような大型基板やプラスチック、紙、布をベースとした超低コストで必要十分な性能を有するMEMSデバイスなど、新たな開発の方向性で進展するであろうと、開発事例を交えながら説明されました。
続く研究開発関連の講演においても、AR/VR、医療・ヘルスケア、ナビゲーションなど今後拡大が期待されるアプリケーションに向けた新規デバイスの製造技術(新材料、積層構造)や信号処理(AI融合、エッジデバイス)、及びチップレット実装などMEMS技術のCMOS半導体パッケージングへの展開などの取り組みが紹介されました。
これらの講演から、従来のSiウエハベースの微細化、集積多機能化に留まらない新たな開発の方向性が示され、MEMSデバイスのさらなる進展の可能性が感じられました。
本会議では、スタートアップ企業にもフォーカスが当てられており、Session2では、カナダのスタートアップ企業3社がそれぞれ開発した製品について実機デモにより優位性がアピールされました。また、Session5では、カナダのスタートアップ企業4社から、各社の独自技術とその事業戦略に関するピッチが行われ、投資獲得をかけてベンチャーファンド3社の審査員との厳しい質疑応答が行われました。これらの様子から、カナダにおけるMEMSスタートアップの勢い、またそれを支援する投資家の熱意が感じられました。
写真2 講演会場の様子
写真3 参加者集合写真
また、会議に先立って、前日夕刻より開催されたテクニカルツアーでは、カナダ最大のマイクロエレクトロニクス研究開発拠点であるC2MI (Centre de Collaboration MiQro Innovation) を訪問し、研究開発事例やクリーンルーム(外から)の見学を行いました(写真4)。
C2MIは、2009年にカナダ政府や民間企業(IBM, Teledyne)からの資金提供で設立され、2012年より正式に活動が開始されたとのことです。その後も継続的に政府、民間から投資を受け、現在、90社以上の企業とのコラボレーションが進められ、250名以上の研究者・技術者を迎え入れているとのことです。
保有する施設は、200 mmウエハ対応MEMSライン、先端パッケージング・光エレクトロニクス実装ライン、プリンテッドエレクトロニクス・表面実装ライン及び信頼性評価・故障解析・材料特性評価設備などであり、今年度もカナダ政府の補助金が投入され、2025年夏の完成を目指して、先端パッケージング関連の300mmウエハ対応ライン(約1,000 m2)の整備が進められていました。
写真4 テクニカルツアーで訪れたC2MI
(Centre de Collaboration MiQro Innovation)
本会議を通じて、北米におけるMEMS関連技術の研究開発に大きな活気が感じられました。その背景には、米国の半導体戦略とそれを補完するカナダ政府のMEMS製造インフラへの継続的な投資が大きく寄与しているものと考えられました。
(MNOIC 所長 福本 宏)