TIA連携大学院サマーオープンフェスティバル 第2回学生・若手研究者向けMEMS講座及び第30回MEMS講習会開催の報告
2018年8月7日(火)に、一般財団法人マイクロマシンセンター/新テクノサロンにおいて、午前・午後の2部制で、第2回学生・若手技術者向けMEMS講座(午前)及び、第30回MEMS講習会(午後)を開催致しました。MEMS講習会は、MEMS協議会に所属するMEMSファンドリーネットワーク企業を中心に企画され、都内と地方都市で年に1回ずつ開催しています。昨年度より、TIA連携大学院サマーオープンフェスティバルのプログラムとなったのを受け、学生・若手技術者向けMEMS講座と併せて開催しており、講師の方も含めて総勢56名(学生5名)が熱い討論を繰り広げました。
写真1.講演会会場の様子
午前中に開催いたしました第2回MEMS講座では、企画を取り纏めたMEMSファンドリーネットワークの浅野委員長の挨拶の後、2つの講座を行いました。まず、最初の講座は、国立研究法人産業技術総合研究所の日暮栄治先生より、「MEMS概論」と題しまして、MEMSの歴史から最新の市場・技術動向までをオプティカルMEMSを中心に解説していただきました。新規にMEMSに取組む技術者が読むべき論文の紹介など、初心者向けの構成となっており、これから研究開発を進める上での参考になったのではないかと思います。
続きまして、みずほ総合情報総研の浅海和雄氏より、「MEMS設計・解析支援ソフトMemsONEを用いたデバイス設計」と題しまして、MEMSデバイスを設計する一連の流れを解説していただきました。MEMSの研究に取り組んでいる学生には、馴染みのあるMemsONEかと思いますが、その特徴を概説していただくことで、企業に入ってからMEMSの研究開発に取り組みだした技術者にも解析技術を導入することのメリットや使いどころなどを感じ取っていただけたのではないかと思います。
写真2.MEMS概論 日暮先生
写真3.みずほ情報総研 浅野氏
昼休みを挟みまして、午後からは第30回MEMS講習会「VR/ARを支えるセンシング技術と、その活用事例:見る・触る・嗅ぐを伝えることの価値とは」を開催いたしました。5G通信の足音とともに、スマートフォンなどの「聴く」を伝えるに加えて、「見る・触る・嗅ぐ・味わう」を伝えるVR/AR技術の実用化に向けた動きが活発になっています。本講習会では、五感の伝送を可能とすることで、何が出来るのかを感じ取っていただく一助として、昨年度の「味わう」を除く「見る・触る・嗅ぐ」についてのプログラムを企画いたしました。
講習会では、主催の一般財団法人マイクロマシンセンター専務理事長谷川英一の挨拶のあと、1件目の特別講演として、東京大学大学院の牧野秦才准教授より「“触る”を伝える- 振動触覚から空中での触覚提示まで - 」と題して、ご講演いただきました。VRの3大要素として、1.等身大の三次元空間、2.実時間相互作用、3.自己投射、があり、ヘッドマウントディスプレイにより実現される等身大の三次元空間に、実時間相互作用や自己投射を付与する手段としての触覚伝送の研究をされておられます。触るという感覚の特徴から、それを伝える触覚ディスプレイの研究開発動向まで、視覚との関りなど具体例を交えたご講演により、触覚を伝えることの意味を考える機会を得られたことは、大変有意義だったと思います。ゲームなどでは実用化例もありますが、より一般的な普及が楽しみになるご講演でした。
写真4.特別講演1 牧野先生
次に、国立研究開発法人物質・材料研究機構のセンサ・アクチュエータ研究開発センターの吉川元起グループリーダより、「“嗅ぐ”を伝える – 嗅覚IoTセンサ(MSS)と産学官連携によるニオイの標準化への挑戦 - 」と題して、ご講演いただきました。嗅覚センサは、ニオイを人が識別できる情報に変換する素子であり、感応膜への気体分子の吸着による物理化学的変化を電気信号に変換して得た情報を解析することで、ニオイを識別しています。吉川先生らが開発された嗅覚IoTセンサ(MSS)の社会実装に向け、2017年11月にMSSフォーラムを立上げ、公募によるオープンな実装実験に取組まれておられます。様々な物から発するニオイが入り混じった実社会の中で、嗅覚IoTセンサがニオイを嗅ぎ分ける解析手法など興味深いご講演でした。
写真5.特別講演2 吉川先生
ここで休憩を挟みまして、「見る・触る・嗅ぐ」に関する3件のご講演を企業からしていただきました。
最初のご講演は、セイコーエプソン株式会社の津田敦也氏より、「“視聴”から“体験”へ – セイコーエプソンが変革する世界 - 」と題して、スマートグラスMOVERIOを支えるコア技術と、その活用事例について、ご講演いただきました。2011年に上市されたMOVERIOは、光学エンジンなどのコア技術の進化による小型・軽量化だけでなく、装着性や堅牢性など、第三世代まで進化しているとのことです。製品ラインアップも個人から商用、作業用など、用途に合わせた製品が用意されているとのことです。社会実装の例としては、AR(拡張現実)の用途が多く、美術館などでの音声+映像ガイドや、映画館での聴覚障害者サポートなど、個人・商用事例の他、現場での機器検査やトラブル対応時のサポートやトレーニング支援など現場用途の活用事例を紹介いただきました。観光用途では、東京オリンピックに向けて、ツアー客へ新しい体験・経験を提供するための実証実験が進行しており、2年度が楽しみとなってくるご講演でした。
写真6.セイコーエプソン 津田氏
企業からの2つ目のご講演は、株式会社香味醗酵の黒田俊一氏(大阪大学・教授)より、「全ての匂いの定量化をめざして – “嗅ぐ”を伝えるための基盤技術 - 」と題して、匂いの定量化に向けた試みをご紹介いただきました。匂いは、個人に依存する官能試験により評価されていますが、約400種類ある人の嗅覚受容体をバイオセンサとすることで、匂い情報のデジタル化を進めておられます。遺伝子から嗅覚受容体を発現させてバイオセンサとする技術を確立されており、この研究で匂いと心の関係が解き明かされることで、新しいビジネス領域が創成されるのではないかと期待されるご講演でした。
企業からの最後のご講演は、日本メクトロンの吉原秀和氏より、「“触る”を伝える – 超薄型3原触グローブによるリアルな触感伝送をめざして - 」と題して、FPC技術を応用したセンサグロープをご紹介いただきました。AR/VR市場は、ゲームが牽引していますが、ライブイベントや教育、不動産、ヘルスケア、産業などへの展開が進み、2025年には800億ドルまで拡大すると予測されていますが、その時点では、ハードが半分以上を占めると予測されているそうです。商品化されている触覚グローブは、アクチュエータなどを組込んでいるため大きく、実用的とは言えませんが、この技術により、軽量化が進むことで、一般への普及も期待されます。
写真7.香味醗酵 黒田氏
引き続きまして、MEMSファンドリーネットワークから6件のファンドリーサービスをご紹介させていただきました。最初にファンドリーサービス産業委員会の浅野委員長より、「MEMSファンドリーネットワークとサービスのご紹介」と題しまして、MEMSを開発したい企業を支援するMEMStationなどの取り組みをご紹介いたしました。所属機関からは、最初に、産総研の設備を運用してMEMS開発を支援するMNOICについて、MNOIC開発センターの原田氏より「MNOICが提供するMEMSオープンイノベーション」と題して報告し、株式会社メムス・コアの慶光院氏より「メムス・コアのビジネス」、大日本印刷株式会社の中谷氏より「大日本印刷MEMSファンドリーご紹介」、富士電機の武居氏より「富士電機のセンシング技術」、みずほ情報総研の鶴岡氏より「みずほ情報総研のサービス」と、各社が得意とする技術について報告させていただきました。
本講習会の終了後には、講師の方々を囲んだ意見交換会を開催し、講習会での質疑応答では足りなかった時間を補って余りある有意義な時間を過ごせたのではないかと思います
写真8.日本メクトロン
最後に、ご講演者を始め、ご参加・ご協力いただいた全ての方々のお陰で有意義な時間を持てたことに対して、御礼申し上げます。
写真1.講演会会場の様子
午前中に開催いたしました第2回MEMS講座では、企画を取り纏めたMEMSファンドリーネットワークの浅野委員長の挨拶の後、2つの講座を行いました。まず、最初の講座は、国立研究法人産業技術総合研究所の日暮栄治先生より、「MEMS概論」と題しまして、MEMSの歴史から最新の市場・技術動向までをオプティカルMEMSを中心に解説していただきました。新規にMEMSに取組む技術者が読むべき論文の紹介など、初心者向けの構成となっており、これから研究開発を進める上での参考になったのではないかと思います。
続きまして、みずほ総合情報総研の浅海和雄氏より、「MEMS設計・解析支援ソフトMemsONEを用いたデバイス設計」と題しまして、MEMSデバイスを設計する一連の流れを解説していただきました。MEMSの研究に取り組んでいる学生には、馴染みのあるMemsONEかと思いますが、その特徴を概説していただくことで、企業に入ってからMEMSの研究開発に取り組みだした技術者にも解析技術を導入することのメリットや使いどころなどを感じ取っていただけたのではないかと思います。
写真2.MEMS概論 日暮先生
写真3.みずほ情報総研 浅野氏
昼休みを挟みまして、午後からは第30回MEMS講習会「VR/ARを支えるセンシング技術と、その活用事例:見る・触る・嗅ぐを伝えることの価値とは」を開催いたしました。5G通信の足音とともに、スマートフォンなどの「聴く」を伝えるに加えて、「見る・触る・嗅ぐ・味わう」を伝えるVR/AR技術の実用化に向けた動きが活発になっています。本講習会では、五感の伝送を可能とすることで、何が出来るのかを感じ取っていただく一助として、昨年度の「味わう」を除く「見る・触る・嗅ぐ」についてのプログラムを企画いたしました。
講習会では、主催の一般財団法人マイクロマシンセンター専務理事長谷川英一の挨拶のあと、1件目の特別講演として、東京大学大学院の牧野秦才准教授より「“触る”を伝える- 振動触覚から空中での触覚提示まで - 」と題して、ご講演いただきました。VRの3大要素として、1.等身大の三次元空間、2.実時間相互作用、3.自己投射、があり、ヘッドマウントディスプレイにより実現される等身大の三次元空間に、実時間相互作用や自己投射を付与する手段としての触覚伝送の研究をされておられます。触るという感覚の特徴から、それを伝える触覚ディスプレイの研究開発動向まで、視覚との関りなど具体例を交えたご講演により、触覚を伝えることの意味を考える機会を得られたことは、大変有意義だったと思います。ゲームなどでは実用化例もありますが、より一般的な普及が楽しみになるご講演でした。
写真4.特別講演1 牧野先生
次に、国立研究開発法人物質・材料研究機構のセンサ・アクチュエータ研究開発センターの吉川元起グループリーダより、「“嗅ぐ”を伝える – 嗅覚IoTセンサ(MSS)と産学官連携によるニオイの標準化への挑戦 - 」と題して、ご講演いただきました。嗅覚センサは、ニオイを人が識別できる情報に変換する素子であり、感応膜への気体分子の吸着による物理化学的変化を電気信号に変換して得た情報を解析することで、ニオイを識別しています。吉川先生らが開発された嗅覚IoTセンサ(MSS)の社会実装に向け、2017年11月にMSSフォーラムを立上げ、公募によるオープンな実装実験に取組まれておられます。様々な物から発するニオイが入り混じった実社会の中で、嗅覚IoTセンサがニオイを嗅ぎ分ける解析手法など興味深いご講演でした。
写真5.特別講演2 吉川先生
ここで休憩を挟みまして、「見る・触る・嗅ぐ」に関する3件のご講演を企業からしていただきました。
最初のご講演は、セイコーエプソン株式会社の津田敦也氏より、「“視聴”から“体験”へ – セイコーエプソンが変革する世界 - 」と題して、スマートグラスMOVERIOを支えるコア技術と、その活用事例について、ご講演いただきました。2011年に上市されたMOVERIOは、光学エンジンなどのコア技術の進化による小型・軽量化だけでなく、装着性や堅牢性など、第三世代まで進化しているとのことです。製品ラインアップも個人から商用、作業用など、用途に合わせた製品が用意されているとのことです。社会実装の例としては、AR(拡張現実)の用途が多く、美術館などでの音声+映像ガイドや、映画館での聴覚障害者サポートなど、個人・商用事例の他、現場での機器検査やトラブル対応時のサポートやトレーニング支援など現場用途の活用事例を紹介いただきました。観光用途では、東京オリンピックに向けて、ツアー客へ新しい体験・経験を提供するための実証実験が進行しており、2年度が楽しみとなってくるご講演でした。
写真6.セイコーエプソン 津田氏
企業からの2つ目のご講演は、株式会社香味醗酵の黒田俊一氏(大阪大学・教授)より、「全ての匂いの定量化をめざして – “嗅ぐ”を伝えるための基盤技術 - 」と題して、匂いの定量化に向けた試みをご紹介いただきました。匂いは、個人に依存する官能試験により評価されていますが、約400種類ある人の嗅覚受容体をバイオセンサとすることで、匂い情報のデジタル化を進めておられます。遺伝子から嗅覚受容体を発現させてバイオセンサとする技術を確立されており、この研究で匂いと心の関係が解き明かされることで、新しいビジネス領域が創成されるのではないかと期待されるご講演でした。
企業からの最後のご講演は、日本メクトロンの吉原秀和氏より、「“触る”を伝える – 超薄型3原触グローブによるリアルな触感伝送をめざして - 」と題して、FPC技術を応用したセンサグロープをご紹介いただきました。AR/VR市場は、ゲームが牽引していますが、ライブイベントや教育、不動産、ヘルスケア、産業などへの展開が進み、2025年には800億ドルまで拡大すると予測されていますが、その時点では、ハードが半分以上を占めると予測されているそうです。商品化されている触覚グローブは、アクチュエータなどを組込んでいるため大きく、実用的とは言えませんが、この技術により、軽量化が進むことで、一般への普及も期待されます。
写真7.香味醗酵 黒田氏
引き続きまして、MEMSファンドリーネットワークから6件のファンドリーサービスをご紹介させていただきました。最初にファンドリーサービス産業委員会の浅野委員長より、「MEMSファンドリーネットワークとサービスのご紹介」と題しまして、MEMSを開発したい企業を支援するMEMStationなどの取り組みをご紹介いたしました。所属機関からは、最初に、産総研の設備を運用してMEMS開発を支援するMNOICについて、MNOIC開発センターの原田氏より「MNOICが提供するMEMSオープンイノベーション」と題して報告し、株式会社メムス・コアの慶光院氏より「メムス・コアのビジネス」、大日本印刷株式会社の中谷氏より「大日本印刷MEMSファンドリーご紹介」、富士電機の武居氏より「富士電機のセンシング技術」、みずほ情報総研の鶴岡氏より「みずほ情報総研のサービス」と、各社が得意とする技術について報告させていただきました。
本講習会の終了後には、講師の方々を囲んだ意見交換会を開催し、講習会での質疑応答では足りなかった時間を補って余りある有意義な時間を過ごせたのではないかと思います
写真8.日本メクトロン
最後に、ご講演者を始め、ご参加・ご協力いただいた全ての方々のお陰で有意義な時間を持てたことに対して、御礼申し上げます。
(産業交流部 小出晃)
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