第27回MEMS講習会開催の報告
2017年3月9日にまちなかキャンパス長岡において、第27回MEMS講習会を開催致しました。MEMS講習会は、MEMS協議会に所属するMEMSファンドリーネットワーク企業を中心に企画され、都内と地方都市で年に1回ずつ開催しています。
今回は「MEMS技術を利用した地域活性化」をテーマに、長岡地区の大学や企業と連携してMEMS産業の育成に取り組まれている新潟県総合技術研究所と、にいがたナノ基盤技術実践会、との共催で、地元企業とのビジネス交流を目的として、開催いたしました。当日は、あいにくの雪となりましたが、47名もの参加者を得て、MEMS分野で最先端の研究開発をされている研究者による特別講演と、長岡地区の企業とMEMSファンドリーネットワークの双方からの報告により、MEMS技術の事業への活用について議論する貴重な場となりました。
写真1 講演会場の様子
写真2 にいがたナノ基盤技術実践会(共催) 明田川会長
主催者および共催者の挨拶のあと、1件目の特別講演として、東北大学の田中秀治教授から「スマート社会5.0の鍵を握るMEMS」と題して、ご講演いただきました。IoTにより実現されるスマート社会5.0を支えるMEMS技術として、Epi-Sealプラットフォームにより生み出される様々なセンサや、音声認識やノイズカットなどでいつの間にか身近な製品に浸透しているMEMSマイクロフォンなど、様々なデバイスと、その応用例をご紹介いただきました。MEMSマイクロミラーの応用では、高速位置トラッキングやVRヘッドセットなど、様々な製品へと用途が広がっており、また、MEMSジャイロの高性能化や触覚センサなど、ロボットなど自動で動き回る機械が人と共生する上で必須となるセンサ技術や、大量のセンサを組み込んだシステムでの情報伝達のためのバスネットワークなど、スマート社会5.0を実現するための様々な技術開発が着実に進んでいることもわかりました。田中研究室では、江刺研究室時代から培われているノウハウを基に企業のデバイス開発を陰に陽に支援されており、多くの企業の事業化を実現されておられます。60分という短い時間ではありましたが、MEMS産業の発展に向けた更なるご活躍が期待されるご講演でした。
写真3 特別講演1 田中先生
写真4 特別講演2 河合先生
続きまして、2件目の特別講演として、長岡科学技術大学の河合晃教授より「新潟県地場産業とMEMSデバイス産業との懸け橋」と題して、ご講演いただきました。新潟県は、非鉄金属加工が盛んな工業地帯であり、MEMSデバイスの活用による産業の更なる活性化が期待される地域であることもわかりました。また、河合研究室での研究内容として、自然災害に備えた計測技術(地震計測など)や生体燃料を用いた燃料電池、植物の成長促進に向けて開発されたバイオチップ、ナノバルブの観察手法など多岐にわたる技術をご紹介いただきました。特にバイオチップで植物のpH値を適切に制御することで成長を促進する技術は、遺伝子操作や品種改良によらず食料を増産可能な技術として期待されます。河合教授は、開発した技術の事業化を支援するベンチャーを立ち上げられており、企業と連携した研究成果の事業化が期待されるご講演となりました。
ここでいったん休憩を挟み、休憩明けからは長岡地区の企業から3件のご講演と、ファンドリーサービス産業委員会からのファンドリーサービス内容をご紹介させていただきました。長岡地区から最初のご講演は、ナミックス株式会社の榎本利章氏より、「アンダーフィルのシミュレーションから見えるもの」と題して、フリップチップパッケージを対象としたアンダーフィルの流動・応力・疲労解析技術についてご紹介いただきました。研究開発費比率が10%弱と高く、2014年にはグローバルニッチ企業100選にも選定された企業で、技術開発力の高さを垣間見るご講演でした。
写真5 ナミックス株式会社 榎本氏
次にヘッドアップディスプレイ(HUD)で世界No1のシェアを誇る日本精機株式会社の中原剛氏より「HUDにおけるMEMS技術」と題して、ご講演いただきました。欧州の高級車を中心に搭載が進むHUDでは、液晶型が主流となっておりますが、将来的にはDMD(デジタルミラーデバイス)やMEMSミラーを用いたプロジェクションタイプにより視認性を改善する方向に技術開発が進むのではないかとのことで、MEMS関連企業にとっては、心強いご講演となりました。
写真6 日本精機株式会社 中原氏
長岡地区の企業からの最後のご講演は、コネクテックジャパン株式会社の小松裕司氏より「MEMSプロセスを用いた半導体基板配線狭ピッチ化」と題して、ご講演いただきました。LSIの多機能化により1チップ当たりの端子数が増えているが、現状の実装技術では端子ピッチとして40μmが限界であり、チップの小型化が進んでも端子ピッチの制約でパッケージサイズが律速されつつある現状と、この課題のブレークスルー技術として開発中の配線とバンプの一括転写技術について、ご紹介いただきました。この技術は、流体MEMSのチップ作製に用いられる厚膜レジストによる型作りと、PDMS(ポリジメチルシロキサン)への精密転写の技術を応用しており、PDMSの離形性の良さを活用してバンプと配線パターンを一括して基板上に転写することで、端子の狭ピッチ化を実現されておられます。開発中の技術とのことですが、スキージでクリームはんだを基板上に転写する印刷法に代わる技術として、実用化が待たれます。
写真7 コネクテックジャパン株式会社 小松氏
MEMSファンドリーネットワークからは、産総研、MNOIC、大日本印刷、メムスコアからMEMSの開発支援から量産までを網羅した4件の技術紹介をいたしました。最初にファンドリーサービス産業委員会の浅野委員長より、「MEMSファンドリーネットワークとサービスのご紹介」と題しまして、MEMSを開発したい企業を支援する仕組みをご紹介させていただきました。所属機関からは、産総研の高木総括研究主幹より、集積マイクロシステム研究センターで開発してきた様々なMEMS技術について、ご紹介いただき、その産総研の設備を運用してMEMS開発を支援するMNOICの紹介をMNOIC開発センターの原田氏よりいたしました。ファンドリー企業からは、大日本印刷の中本氏より「大日本印刷MEMSファンドリーご紹介」、メムスコアの慶光院氏より「メムスコアのビジネス」、と発表が続き、本講習会の最後に部屋を移動してファンドリーサービス産業委員会の企業による技術相談会を開催いたしました。別会場ではありましたが、多数の参加者に足を運んでいただき、予定の時間を過ぎても活発な議論が交わされ、MEMSデバイスの開発を目指す企業の裾野が拡がっていくことが期待できる講習会になりました。今後、講習会に参加された方々とMEMSファンドリーネットワークとのコラボによる製品開発がなされることを期待いたします。
また翌日は、長岡技術科学大学の見学会を開催いたしました。長岡技術科学大学は、企業の人事担当者から見た大学のイメージ調査で、総合ランキング1位を獲得されており、特に学生の行動力が高く評価されているそうです。地域の高等専門学校からの編入者が多く、長期間にわたる企業での実習プログラムなどもあり、実践的な技術の開発を主眼とした教育を進めておられます。研究室の見学では、前日の講習会でご講演いただきました河合晃教授のナノマイクロ研究室と、明田川教授のピコメートル・ナノメートル研究室の見学をさせていただきました。河合教授の研究室では、デバイスの設計から試作、パッケージングまでを一貫して行える設備を揃えられており、自らの力で発想を具現化することで、実践力のある学生を育成されておられます。対象とされている分野として、原子間力顕微鏡を用いたナノスケール解析・加工技術から地震計測、燃料電池、植物育成制御用バイオチップなど、多岐にわたる技術をご紹介いただきました。研究成果の実用化に向け、企業での事業化の支援を目的としたベンチャーを設立されており、実社会への研究成果の普及に力を入れられているのが良く分かりました。また、明田川教授の研究室では、原子スケール精度の計測に取り組まれており、精度向上のための温度変動の抑制や低熱膨張率材を用いた装置など、様々な実験装置をご紹介いただきました。また、リニアスケールの格子としてグラファイト格子を利用し、その格子間隔を走査型トンネル顕微鏡で捉えたり、レーザ干渉計の波長安定化ために原子の励起周波数を利用されるなど、大変興味深い技術もご紹介いただきました。改めて、長岡技術科学大学での見学会を企画いただいた方々に感謝いたします。
(産業交流部 小出晃)
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