研究開発プロジェクト(MEH、IRiS)の活動報告
MMC/NMEMS組合が推進している研究開発プロジェクトにつき、平成27年度の活動成果を報告します。先月はRIMSとUCoMSでしたが、今月はMEHとIRiSについてご報告します。
1.「エネルギー・環境新技術先導プログラム/トリリオンセンサ社会を支える高効率MEMS振動発電デバイスの研究」(MEH)
本先導研究(トリリオンセンサ社会を支える高効率MEMS振動デバイス)においては、次世代トリリオンセンサ社会およびIoT社会に必要不可欠な高効率の小型自立電源(エナジーハーベスタ)として、環境振動から未利用エネルギーを回収するMEMS型の振動発電素子の開発を実施している。本研究ではとくに、MEMS・マイクロマシン技術の新設計・新工法を新たに導入することで、2020年度までに直径20mm程度の一円玉サイズの面積で発電効率を従来比2桁以上に飛躍的に高めた10mW級の振動発電素子を実現するための設計・製作・評価技術を確立することを研究の目的としている。
①「高密度固体イオンエレクトレットのエナジーハーベスタ応用」における目標は、発電素子の負荷はキャパシタンスへの充電(すなわち容量性負荷)である特性を踏まえ、発電電力のみならず発電電流を増大する観点から設定されている。発電電流は力係数と振動速度の積で表される。このうち、①-(1) 高電荷密度シリコンエレクトレットの形成法の開発の項目では大きな力係数を得るための開発、①-(2) エレクトレット振動発電素子のパッケージ技術と信頼性評価は小さな振動外力でも大きな振動速度を得るための開発を行った。
②「大容量イオン液体可変キャパシタ技術のエナジーハーベスタ応用」では、エナジーハーベスタ応用のためのイオン液体と、ゲル化のためのポリマー、および、重合開始剤などの選定基準となる知見を得た。また、研究開発項目①の固体イオンエレクトレットとの組合せに必要なパラメータに関しても把握できた。特に、イオン液体を1V/nm程度の絶縁皮膜を持つ液体導体としてモデル化することで、大幅に理解が進んだ。また、ゲル化イオン液体の弾性を利用し、静電引力による電極-イオン液体間の接触界面の面積変化の減少を抑える新たな技術を開発した。
③「高効率エナジーハーベスタの開発」では、既存の加工装置を用いてインパルス加振タイプのエナジーハーベスタの一次試作品を製作した。
④「交通インフラでの振動発電デバイスの導入開発」では、想定した交通インフラにおいて、センシングを要するセンサ端末設置場所を設定し、振動環境(振動状態)を計測し、振動の最大加速度と卓越周波数を評価した。
⑤「オフィス・工場等での環境発電デバイスの導入開発」では、オフィス・工場での主要な振動環境の把握を目的として、人体、空調機、工作機械で振動波形測定と周波数解析を実施した。
⑥「標準化の戦略立案」では、標準化の戦略立案のためIEC/SC47Fシンガポール会議(6月)、ミンスク会議(10月)に出席し、MEMSエレクトレット振動発電デバイスの審議を通じて国際標準化動向を調査した。
2.「エネルギー・環境新技術先導プログラム/究極の省エネを実現する「完全自動化」自動車に不可欠な革新認識システムの研究開発」(IRiS)
究極のエネルギー効率により30%のCO2の削減が見込まれる未来交通システムを実現すべく、従来技術では到達不可能な「完全自動化」自動車を実現するための革新技術として、①分子慣性ジャイロ:自車位置を常に厳密に把握する技術、②分光イメージャ:周辺環境を常に正確に把握する技術、③高精度認識アルゴリズム技術、の三つの未踏認識技術の可能性を確保することを目的としている。先導研究としてそれぞれの技術の可能性について、自動車の実環境を見据えた視点で研究開発・評価を行った。
①分子慣性ジャイロ
分子慣性ジャイロの原理検証のために、慣性力検出センサとしてMEMSフォースセンサチップを設計、試作し、分子慣性ジャイロラージスケールモデルを製作し、既製MEMSジャイロとの比較を行い、分子慣性ジャイロの有効性を確認した。
また、MEMSフォースセンサチップの試作ラインへの適用について、高感度化に向けた最適形状を得るべくシミュレーションと試作を行った。
要求仕様の明確化、省エネ効果の見積り精度向上のため、ジャイロ単独での走行が必須となるGPSが途絶するシーンを抽出し、これらのシーンでの走行速度、距離を加味しジャイロの位置精度を算出した。省エネ効果として合計約30%が期待できることが分かった。
②分光イメージャ
ナノアンテナによる光吸収効率の向上により、シリコン単体では吸収できない光を検出可能とする機能の原理検証として、ナノアンテナを試作し、アレイ化したナノアンテナに光を照射したときに、赤外光の吸収を確認した。
分光検出器の試作ラインへの適用として、i線ステッパを用いて、原理検証の電子線描画法によるナノアンテナの同等構造の作成を行った。
物体の識別、人検知の観点から波長域は可視~遠赤と設定し、イメージャの画素間ばらつきの指標であるNETDを精度指標として、既存技術の開発動向を加味し目標値を設定した。
③認識アルゴリズム
疑似同軸光学カメラの作成を用いて、可視画像と遠赤外画像からなる、人を撮影対象としたデータセットを構築した。上記データセットを用いてディープラーニングによる人識別を行い、遠赤外画像の有効性を確認した。さらに、可視画像と遠赤外画像を組み合わせた多波長データを入力としてディープラーニングを行い、人識別に適用することで、識別率が向上することを示した。また、車載を想定した実環境抽出を行った。
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