第31回マイクロナノ先端技術交流会の開催報告
平成28年3月2日(水)午後より、マイクロマシンセンター・新テクノサロンにて、第31回マイクロナノ先端技術交流会を開催いたしました。
今回は「嗅覚センシングの新たな可能性について」と題しまして、生産ラインなどの整った環境から屋外へと活躍の場を広げている匂いセンシング技術につきまして、最前線でご活躍されているお二人の研究者にご講演いただきました。
最初のご講演は、東京工業大学精密工学研究所の中本高道教授です。「ロバスト匂いセンシングシステム」と題しまして、温度や湿度などの外乱に打たれ強いセンシングシステムについて、ご講演いただきました。水晶振動子を用いた匂いセンシングでは、匂い物質の吸着特性が異なる複数の水晶振動子への匂い物質の吸着・脱離を固有振動数の変化として捉え、それらの応答の違いをパターン化することで、匂い物質の種類を識別します。匂いセンシングの弱点とされる湿度の影響に関しては、緩やかに昇温する濃縮管やペルチェ素子による凝縮(SAW応用)により高湿度環境でも匂いの違いを識別できるシステムをご紹介いただきました。また、目まぐるしく濃度が変化する匂いでは、素子間の応答パターンだけでは匂い物質の識別が難しくなるため、応答速度の違いを利用して識別する手法をご紹介いただきました。最後に、相対比較法で匂いを識別する方法として、実時間参照方式をご紹介いただきました。対象臭と調合臭を秒単位で交互に計測して調合臭での応答を対象臭に近づけることで、温度や湿度が変化しても正確な匂い物質の識別を可能としています。現在は、濃縮素子やセンシング素子の一体化した高感度小型匂いセンシングデバイスや、小型匂い発生デバイス組み込み実時間参照方式などの開発に取り組まれており、その小型化によりアプリの開発も加速されるものと期待されます。また、質疑応答で、本日のご講演にはなかった匂いディスプレイに関する質問があり、その回答として色の三原色に換わり30種類程度の要素臭を用いることで、再現性の良い匂いディスプレイが実現できるとのお話があり、匂い伝送による新たな可能性が、すぐそこまで来ていると感じさせるご講演となりました。
続きまして、九州大学味覚嗅覚センサ研究開発センターの小野寺准教授より「匂いを測るバイオセンサシステムの開発」と題しまして、爆発物探知犬に代わる装置を目指して取り組まれているバイオセンサシステムにつきましてご講演いただきました。爆発物検知では、低誤認率(高選択性)や高探知率(高感度)が求められ、それらを実現する手法として、分子検出部には抗原抗体反応を利用し、信号変換部として表面プラズモン(SPR)を利用した超高感度匂いセンサを開発されています。爆発物起因の低分子に吸着する抗体は自然界には存在しないため、国内で独自に抗体作成技術を確立され、その抗体を用いたSPRセンサの表面修飾法や検出プロトコル(直説法、置換法、間接比較法)などをご紹介いただきました。
SPRセンサでは、誤検知の原因となる非特異吸着を抑止するエチレングリコール鎖による表面修飾や、抗体に対する親和性の異なるターゲット類似物質を最適化した間接比較法により、低誤認率で高探知率(80ppt)なセンサを実現されています。また、デンドリマー(樹状高分子)の利用や、表面開始原子移動ラジカル重合を用いたポリマーブラシによる表面修飾などにより、更なる高感度化に取り組まれており、検出限界5.7pptを実現されています。
最後にTNT検出の実証試験において、検出時間1分を切るのに苦労され、実現した時の喜びもひとしおだったエピソードに続き、ゲームや小説で描かれる未来世界のように、嗅覚を可視化した世界の実現に向けて取り組んでいきたいという想いを語られており、ロボット開発におけるアトムやガンダム世代と相通じる情熱を感じるご講演となりました。
講演会後には、先生方を囲んでの匂い談議に花が咲くかと思いきや技術論の花が咲き、この分野の実用化に向けた出席者の熱い想いを感じさせる懇親会となりました。
<産業交流部> 小出晃
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