「ナノ・マイクロビジネス展2015」国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウムの開催(2015年4月22日)
国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウムは、関連分野の最先端技術及びその動向に関して内外の学識経験者と情報交換することにより、我が国のマイクロマシン/MEMS技術の更なる発展に寄与することを目的に、1995年以来、一般財団法人マイクロマシンセンターを主催者として開催して参りました。
最近の当該分野での動向として、米国から「トリリオンセンサ」、欧州から「新製造革命・インダストリ4.0」等の新しい概念が台頭してきました。「トリリオンセンサ」は、半導体産業の次の世代の最先端・大型投資産業として位置付けられ、ネットワーク化した(MEMS)センサーモジュールが兆の単位で大量に必要になること、また「インダストリ4.0」はセンサとIT(情報産業)が連携して、製造業に革命が興るとの概念です。これらから、今後10年以上にわたってセンサの時代が来たことを予感させています。
このように、スマートフォンからウェアラブルシステム、更に1兆個センサ・製造業を支えるセンサへと高い成長が期待されるMEMSですが、この成長を支える新技術が世界中で湧上がっています。今回は更なる成長を約束するスマートモニタリングデバイスを、飛躍的に高機能化する新技術に焦点を絞って、国内の最前線、欧州と米国の最新情報の話題を取上げ、将来のMEMS産業の新たな可能性を探って参ります。
以上から、今年の第21回国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウムは「更なる成長へ、スマートモニタリングの進展を飛躍的に強化する新技術」として企画致しました。司会は昨年に引き継き、国際交流委員会の委員長であり、多彩な活躍をされている東京大学の下山勲教授です。最初の主催者挨拶として、マイクロマシンセンターの理事長・山西 健一郎から最近のMEMSを取り巻く状況に関して報告と皆様への挨拶がありました。
写真1 司会の下山勲国際交流委員会委員長
写真2 主催者挨拶マイクロマシンセンター理事長・山西 健一郎
セッション1の最初の特別講演は、GPS衛星等に搭載されている超精密原子時計をチップサイズに小型化することで、現在問題になっているネットワークセンサモジュールの同時性を一気に解決する可能性のある、チップサイズ原子時計の世界最先端研究をされている、米国NIST(ニスト)のKitching(キチン)博士です。
ご存知のように、時計やコンピュータ、通信システムに使われている時を刻む装置は「タイミングデバイス」と呼ばれ、最も重要なコンポーネントの一つです。通常は腕時計に使われている水晶発振器で、精度は10ppm、すなわち1ヶ月に1秒の精度を持っています。これに対してGPS衛星に搭載されているものや、世界標準時計等は原子時計と言われるppbの精度、すなわち10万年に1秒の精度を持つような高い精度を持っています。チップサイズ原子時計は、このような超高精度のタイミングデバイスを指先サイズに小型化する試みですが、このようなデバイスが出来て、センサーネットワークの端末に載ると、今まで問題になって様々な問題が解決されると言われています。
セッション1の2番目の講演は、完全自動運転に使用されるモニタリング素子に関するご講演です。講演は司会の下山勲・東京大学教授からです。自動運転には外界の状態を精密・高速にモニタリングする必要があります。この講演では、微小力を検知可能なカンチレバーを用いた分子慣性ジャイロ、赤外領域で超高感度にスペクトル分光が可能な分光イメージャ、その膨大な(主として画像)データから意味のある行動を抽出できる認識アルゴリズムから成り立っているとのことです。
セッション1の最後の講演は、年吉洋・東京大学教授からトリリオンセンサ(IOT)時代をターゲットにした、従来の100倍の性能を目指すエネルギーハーベスタの話題提供です。トリリオンセンサ時代には、非常に多数のセンサ端末からデータを寄せ集める必要がありますが、これらの端末の電池を入れ替えることは容易ではありません。特にインフラモニタリングではセンサ端末の設置位置も重要であって、簡単には取り外し効かない場所に設置されることを考えると、このエネルギーハーベストの技術がトリリオンセンサの概念の成否の鍵を握っていると考えられます。この講演では2つの大きなブレークスルー技術があります。第一は、絶縁膜を含むシリコン表面に大量の固定電荷を固定して、固定電荷による高電圧化による電力確保をする方法、第二は電極間にイオン液体を用いることで電極間の容量を飛躍的に高めて高い効率の発電を期待するものです。
写真 3 特別講演 チップサイズ原子時計(米国 NIST, John Kitching博士)
写真 4 会場の様子
写真 5 自動運転用の高性能センサ技術(下山勲教授)
写真 6 高性能・高効率エネルギーハーベストデバイス(年吉洋教授)
セッション2として、世界の最先端研究所や工業会からの報告でした。第一の講演はSPPテクノロジーの神永晋氏によるトリリオンセンサの話題です。ご存知のようにMEMSのシリコンドライ深掘り技術がMEMSの技術進化や産業化を牽引したわけですが、神永氏は何時もその立役者であって、世界的にも有名です。このこともあって米国発トリリオンセンサの初期から日本人として密接に関わって来られました。このため、トリリオンセンサの全てを語るには最も相応しい人選と言えます。「楽観主義者の未来予測」から、「日本の製造技術無くしてトリリオンセンサの社会は来ない」等の、日本に取って勇気を頂いた講演でした。
第二の講演は、フランス・CAE-LETIのJulien Arcamone博士からのご講演です。私も昨年LETIを訪問して、そこは間違いなく世界有数の研究施設であり、かつ世界最高水準の研究者を抱える研究所であると実感しました。そのLETIの研究開発最前線を材料、プロセス、デバイスの3つのテーマからの発表がありました。まず材料は、8インチウェハーに成膜できる高性能のSolGel-PZT薄膜です。次にプロセスでは、様々なデバイスのセンシングに利用できるナノワイヤピエゾ抵抗素子です。その大きさは250nmと言うことで、現在のリソグラフィーで十分加工できる範囲とのことです。 LETI発ベンチャーであるトロニクス社にライセンスされ、量産も可能とのことです。最後のデバイスの話題はCMUTです。CMUTは超音波を発振、受信できる静電容量型のデバイスで、多くのポテンシャルを持っています。
最後の講演は、ドイツ・フランホーファ研究所ENASのJoerg Froemel博士です。Joerg Froemel博士は東北大学のVisiting研究者でもあるのでご存知の方も多いと思います。テーマはMEMS用の材料技術と言う内容で、三次元実装や異種材料を接合できるスパッタ法で形成する金属ガラス薄膜や、同じくスパッタ法で形成する磁性薄膜の話題提供がありました。これらの方法でMEMSスピーカデバイスを試作検討しているとのことです。MEMSスピーカはシリコンでは十分な振幅を出せないと言うことが知られています。今後の成果を期待したいと思います。
写真 7 トリリオンセンサの話題提供(神永晋氏)
写真 8 フランス CAE-LETIの最先端技術(Julien Arcamone博士)
写真 9 ドイツ・フランフォーファ研究所ENAS 先端材料(Joerg Froemel博士)
写真 10 経済産業省 佐脇紀代志課長によるご挨拶
この国際シンポジウムは終始大勢の聴講者にご参加頂きました。最後に経済産業省 佐脇紀代志課長による、MEMSへの期待の大きさに言及されたご挨拶と、一般財団法人マイクロマシンセンター・専務理事 青柳桂一による閉会挨拶がありました。参加者数は約180名でした。下山委員長を始め、スタッフ一同、このテーマの重要性を改めて実感したとともに、多くの方々にご参加頂いたことに感謝致します。また来年に向けて更に充実した企画をして行きたいと思いますので、ご気軽にご意見を頂ければと思います。(MEMS協議会事務局 三原 孝士)
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