欧米におけるAE診断に関する動向調査
欧州においてAEセンサシステムを用いた構造検査サービスを実施しているTUV Austria、および、AEセンサユニット・検査HW・SWを提供している欧州最大のベンダVallen Systems GmbHを訪問。また、AEセンサーによるモニタリングの第一人者であるUCLA小野教授にお話をお伺いし、欧米におけるAE適用事例、センサの要求仕様、検査の対象および実施内容について調査した。
[AEセンサの適用市場について]
石油タンクの腐食検査が大きな適用市場であり、欧州で数百タンクを検査している。1タンク当り50~60個のセンサを用いるのが一般的とのことである。また、一事例で数多くセンサを用いているのはオイルのパイプラインである。デンマークの例で、最大50kmのパイプラインに50mおきにセンサを設置しているという(約1000個のセンサ)。
ガスタンクへの適用事例では、球形タンクに数m間隔で30個のほどのセンサを配置し、欠陥の位置標定も行なっている。また、ガイシの製造工程検査にAEセンサを用いている事例もある。FRPとメタルの嵌合強度検査に適用している。
米国ではサンフランシスコ-オークランドベイブリッジでAEによる常時モニタリングが行われ約600個のセンサーが使用された(約4百万ドルの事業)。カナダではT社が鉄道橋のAEモニタリングを継続的に実施しており、鉄道事業者は結果を基に修繕計画を立てているという。これは商業ベースで採算が取れているケースである。ポーランド、チェコでは大型トラックを通過させたときのAEを測定し健全性を判別。AE診断結果で通行止めと判断した例もある。
一方で、航空機への適用、変圧器の絶縁不良の検知診断の要求もあるという。船(オイルタンカーなど)の検査では、腐食と疲労亀裂の両面での検査が必要となり、今後適用市場として期待されている。また、航空機等の燃料配管の漏れ検知にもAEの適用は考えられるが、この用途ではセンサの小型化・低コスト化が必要となるとのことである。
[AEセンサへの要求仕様について]
感度や周波数範囲といった基本仕様は勿論であるが、使用可能な環境温度範囲に対する要望がいずれのヒアリングにおいても議題となった。情報を総合すると、環境温度範囲は、基本的にー50℃から80℃をカバーすることが望まれている。低温側は‐50℃でほぼ全ての対象に適用できる見通しであった。高温側は80度超を要求する特殊なアプリケーション(エンジン・格納容器など)も存在する。この場合、ウェーブガイドを用いてセンサ接触面の温度を室温に近づける手法も選択されるようであった。また、耐久性も実用上の大きなポイントであり、構造物に製造工程で埋め込まれるケースでは基本的に構造物そのものの寿命と同等の寿命が要求される。
周波数帯域としては150kHzがセンサのボリュームゾーンである。但し、MHzオーダーのセンサが実現できれば、新たなアプリケーションへの適用も可能となる。一方で、10kHz、20kHz程度で感度のよいセンサーができればコンクリート構造物への適用が可能となる。
センサのコストについては、現状のセンサはインストレーションコストが高く、低コスト化により置きっぱなしに出来れば大きなメリットとなる見通しである。
[AE検査の標準化について]
欧州では、ベルギー・ブリュッセルに本拠を置く、CEN(欧州標準化委員会)によりEN(欧州規格)化が実施されており、AEに関する検査規格のEN化実績があるという。ENは規格原案のISOとの並行投票が可能とのことである。
以上、本調査では、欧州におけるAE診断の適用市場や動向、センサの要求仕様、標準化手法等において非常に有益な情報が得られた。
(NMEMS技術研究機構 笠原章裕、渡部一雄)
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