2013年度 ナノマイクロ領域での欧州産業技術調査(その2:セミコンヨーロッパ2013および国際MEMS/MST産業化フォーラム)
2013年10月8日から10日まで、ドイツ・ドレスデンで開催されたセミコンユーロに参加しました。ドレスデン(Dresden)はドイツの東の端、ザクセン州の州都ですが、この地域はSiliconSaxonyとも呼ばれ、多数の電子デバイス製造拠点やMEMS・マイクロシステム関連の研究所があります。昨年も同じイベントに参加しましたが、併設されている「国際MEMS/MST産業化フォーラム」は、世界有数の企業や専門企業、および産業技術を主体とする研究所から最先端のデバイス、MEMSを支える最先端の装置や材料技術、世界中のMEMS産業動向調査等が発表され、2日間で全容を理解できるフォーラムであって、私の知る限り最も充実しているものと思います。
写真1. セミコンユーロの開催されたメッセドレスデン
写真2. セミコンユーロ・ロビーのあるビル
最初に「国際MEMS/MST産業化フォーラム」を報告します。このフォーラムはセミコンユーロ前日の7日と8日の2日間で開催され、17の講演がありました。
(1)革新的応用セッション1(MEMS Innovative Applications 1); 5件
キーノート講演が最初に2件ありました。まず、STマイクロのBenedetto Vigna氏(Executive Vice President)から,
「MEMS and Sensors for a New World 」と題した講演です。STマイクロは今やコンシューマIT機器のMEMSの研究開発から生産までトップクラスですが、技術のHumanizationとしてロードマップを示しています。この中で、Wearable
Technology, Contextual Awareness Technology,Internet of Thingsが今後大きな市場になるとのことです。ここで、”Wearable”は身につけられるシステムにMEMSが利用されていくこと、”Contextual
Awareness”では環境と人間を介在する全て、”Internet of Things”では、全ての物が繋がる時に必要なコンポネントとしてMEMSが展開されていくとのことです。最初のWearableシステムにはMEMSが多様に使われ、モーションセンサー、MEMSマイク、MEMSスピーカ、圧力、温度、湿度、MEMS表示やRF関連と言ったものです。更にSTマイクロは医療や自動車、家庭にもその範囲を広げて行きたいとのことでした。
Infineon TechnologiesのUlrich Krumbein氏(Senior Principle Device Physics
Discretes)から「The Infineon Silicon MEMS Microphone」と題した講演です。MEMSマイクに絞った講演ですが、これまでMEMSマイクはKnowles社が高いシュアを維持してきましたが、2010年頃から、Infineonがシュアを伸ばし、2012年の時点で30%を確保したとのことです。MEMSマイクの技術内容としてSN比を72デシベル以上、ダイナミックレンジを140デジベル以上に達成させたとのことです。この挑戦には、MEMSの設計や加工として微小ベンチレーション穴、バックプレイトの設計、スティッキング防止構造が重要であったとのことです。
キーノート以外で個人的に興味があったのは、Heptagon Advanced MicroOptics
またSi-Ware SystemsのBassam Saadany氏(Division Manager)による「Micro Optical Bench
on a Chip」ですが、大変古くからある技術にも関わらず、長い時間をかけて技術を磨き、市場を開拓され、既に多くの光学機器への採用がなされて安定的な企業運用ができているようです。モジュールの例では、小形赤外分光器、MEMSマイクロスキャナー、3Dコリメートミラー、可変調整フィルター等です。
写真3. SEMI EuropeのHeinz Kundert氏(President)によるご挨拶
写真4. 会場風景とチェアのBosh Senontec のLammel氏
(2)革新的応用セッション2(MEMS Innovative Applications 2); 2件
キーノート講演が最初に1件ありました。InvenSenseのPeter Cornelius 氏(Director of Product Marketing)による「The
Future of MEMS Sensors - System on Chip 」と題した講演です。
InvenSenseはファブレスで年率60%の売上を伸ばしているモーションセンサーの大手企業です。今回はOptical Image Stabilization
、日本では光学式ブレ防止となると思いますが、このブレを検出するセンサーの紹介でした。大きなカメラではなく、スマートホン等にこの光学式ブレ防止が使われて行く場合は、レンズを微小なボイスコイルで動作させ光軸を調整しますが、その場合にモーションセンサーの大きさが非常に重要になるとのことです。更にウェラブルシステム用のセンサーやMEMSについては、ジャイロセンサーを搭載することで、装着者の運動状態を細かく解析できるとのことです。InvenSense社はこのモーションセンサーを軸にし、他のセンサーとの融合、無線システムに発展させて”
Internet of Things”世代にて、全ての物が繋がる時に必要なコンポネントの中心に置く構想でした。
(2)MEMSファンドリ、ファブレス(Foundry, Fabless, IDM) 4件
ATREGのBarnett Silver氏( Senior Vice President)から「The inflection point: Macro
forces & emerging trends that will reshape the semiconductor industry
through 2016」と言う興味深い発表がありました。 MEMSに限定せず、半導体全体の世界的なファンドリ企業、およびMEMSの内製企業やファブレス企業全体を俯瞰した場合の問題点や将来の課題を整理した発表です。これによると、最先端の半導体の工場における設計ルールは2007年が45nm、2009年が32nm、2012年が22nmであるが、この世代交代に伴って建設された半導体工場は、2007年が13社(この内日本が3社)、2009年が6社、2012年が4社で年々少なくなって(日本が戦線離脱)いる。現在最先端の施設を持つのはGlobal
Foundry, Intel, Samsung, TSMCの4社のみである。 またファンドリに限定すると、TSMC、UMC,Global Foundryの3社に集中してきている。300mmラインの投資を7000Bドルと考えると、今後安定に投資が出来るかの不安が残ると言う課題提供です。興味深いのは、半導体投資は先進国全体の問題であるので、半導体の恩恵を受けている企業が分担して投資をしてはどうかと言った提言もありました。
(3)MEMS製造技術と品質 Manufacturing technology and quality 6件
SPTSのDave Thomas氏( Marketing Director)から「Advances in profile uniformity,
CD uniformity and TILT control for high aspect ratio DRIE processes」と言う興味深い発表がありました。ご存知のようにMEMSはDeepRIEと言うシリコンの深堀技術の技術開発と同時に成長して来たと言っても過言ではありません。初期のDeepRIEは低温エッチング等を使っていましたが、Boschプロセスが実用化されて一気に一般的になりました。そのBoschプロセスを実用化(1995年に最初の出荷)した企業はご存知SPT(住友精密)で、今も80%の市場を確保しています。その技術を更に進化した「Rapier」と言う新規な製品群の紹介がありました。「Rapier」は主プラズマ発生装置に、リング状の副プラズマ室を設けて均一化を図ると同時に、ウェハー周辺で電界強度が一定になるような様々な対策をして、エッチングレートやエッチング角度の均一性を上げ、エッチング角度では既に計測が困難な程度に高精度加工(チルト量0.03度程度)が可能とのことです。
(4)MEMSマーケット 2件
MEMSマーケット予測では、MEMS分野の二大調査会社であるiSuppliとYole Développementから発表がありました。2010年からスマートホン向けのMEMSが急激に伸びていますが、2015年位までこの傾向は続きそうです。更に1014年からウェアブル電子機器への搭載が始まって年率20から40%の伸びが期待できるとのことです。 また今後伸びるセンサーは色センサーや赤外イメージセンサーです。色センサーはディスプレイ等の色調調整に使い、赤外イメージセンサーはジェスチャー認識に使います。
Yoleの発表は、少し専門性を縛ってBioMEMS関連です。最初に医療用デバイスの市場に関する報告があって、最大の市場は米国42%、欧州36%、日本10%、中国7%です。またBioMEMSの応用先として製薬研究市場、ポイントオブケア、医療デバイスが大きな市場を形成しており、今後は個人健康モニターが伸びるだろうとのことです。講演者が強調されているのはバイオ&医療MEMSは継続的に年率15%の成長をしており、今後も同じ成長を継続するであろうとのことです。
この「国際MEMS/MST産業化フォーラム」の特徴は、産業化のセミナーとして参加者が特に興味を持ちそうなテーマを挙げ、世界中から発表者を贅沢に集めていること、大学からの講演は少なく、殆どは企業や、産業技術に特化した研究所からの発表である点です。
写真5.セミコンユーロの展示会場
次に「セミコンユーロ」展示会です。規模としては昨年と同規模ですが、(全体としては最先端半導体のデバイス製造は欧州全体は強くないものの)ASLMを始め強力な半導体関連製造装置メーカやIMECやフラウンホーファー研究所、LETIのような半導体を含めた国際連携を強力に押し進めている研究機関があること、更にMEMSを中心に欧州の産業の活況、また印刷電子機器と言った新規な取り組み等の話題性は多いと感じました。出展者としては、半導体やMEMS、電子デバイスの製造装置メーカ、半導体センサーやMEMS、パワー半導体、三次元実装関連の研究所や企業です。 日本の展示会と異なるのは、非常に多いベンチャー、専門企業の活力が高いこと、地域性を前面に出して地域単位で展示していることです。 引き続き欧州でのマイクロナノ分野は有望であると感じました。
写真6. フランフォーファのIZM フレキシブル半導体の展示
写真7. センサーPDを埋め込んだマイクロ表示装置
昨年と同じくテクノアリーナと呼ぶ100名程度入れる無料のセミナーが2会場あって、個別セッションを並列で行なっていました。私はこの中で、Process
technologyやAdvanced Process Control、Emerging Research Materials、Silicon
Photonics 、3D TSV の各セッションを聞きましたが、どれも最先端の技術発表で立ち見が出るくらいの好評でした。
最初に「Next Generation Lithography Session」に関して簡単に報告します。注目の的であるEUVの発表がASMLとZeiss SMTからありました。ASMLは全体のシステムや電源、Zeissはミラーの制作状況です。従来のArFを用いた露光では解像度が限界に近いので2重や4重露光を行っていますが、コストが50%以上上がることが問題視されています。EUVでは装置自体やマスクは高価ですが、簡単なプロセスで精度を確保できます。ここではNAが0.25のNXE3300とNAが0.33のNXE3300Bの紹介がありました。3300Bは11台が制作されて、ASMLの各研究所の他にIMECを含む幾つかの企業で試験的に検討がされているとのことです。大きな問題としてレーザ光源の問題がありますが、現在の50Wレーザで毎時40枚の処理、2015年までには250Wまでパワーを上げることが出来ると予測しています。
壮大なプロジェクトであるEUVに対して他の手段も幾つか発表されました。IMS NanofabricationからはElectron multi-beam
mask writer (MBMW)の発表がありました。電子源をProgrammable Aperture Plate Systemと言う可変2Dアレイで捜査し、並列処理するもので、既にかなりの完成度を持っています。またIBM
Research - ZurichからはProbe Nanopatterningと言う先端部加熱型カンチレバを使ったAFM捜査型ホトリソの発表もありました。
「Emerging Research Materials」のセッションとして「New Trends in Epitaxy and Atomic
Layer Processing」を聞きました。これは原子・分子層成膜でMEMSや薄膜機能素子への応用が進んでいます。研究ではどこも進み、金属以外の半導体や酸化物、窒化物やセラミックスでは広く研究・一部実用化も進んでいます。その中でも、TNO
and TU Eindhovenの「Spatial Atomic Layer Deposition; a novel disruptive technology」は交互の供給する領域を絞って、サンプルを動かすと言う手法で通常のALPに比較して1桁高速の成膜が出来、ALDの実用化が一気に進んだということです。
「Silicon Photonics 」セッションで個人的に驚いたのはSTMicroelectronics のMaurizio Zuffada氏およびRichard
Fournel 氏による「Silicon Photonics for Efficient Data Communications: ST advantage
and solution」と言うテーマでSTマイクロが半導体300mmラインを「A low cost Silicon Photonics technology
platform」と称して整備するとともに、欧州の他の研究機関と一緒にシリコン導波路型光デバイスと半導体チップを組み合わせた光モジュールの研究開発をしていました。STマイクロは半導体からMEMSにいち早く移行して成功を収めた企業ですが、まだ研究段階であるSilicon
Photonics分野において、将来を見据えた研究開発投資や準備をしている姿勢が見て取れました。
「3D TSV」のセッションでは、相変わらず最先端の3D技術を各研究所・各社で発表されています。もう殆ど技術的には完成しているのでは?との印象でした。講演の中で、何人かは3D TSVはMEMSから市場にでると力説していましたが、MEMSでは既に古くから同様の技術は(小規模ながら)採用しています。よって、大規模の半導体では何か実用化を阻害する問題があるように思えました。その解のヒントになりそうな発表として、Multitest社のJames
Quinn 氏から「MEMS Fusion – Challenges and Chances in Final Test」がありました。これは、従来の半導体に比較してMEMSではテスト技術に関して大きな飛躍があると言った内容ですが、3D半導体のテストに関しては課題程度で終わっています。これは、各社がまだ水面下で検討し、標準的な手段に移行していないのでないかと感じました。また、SEMI
Europe Grenoble OfficeのYann Guillou 氏から「European 3D TSV Summit 2014 – Application
Ready」との発表がありました。European 3D TSV Summitは今年(2013)1月に第1回がグルノーブルで開催されたものですが、第1回にも関わらず20カ国から320人の参加があったとのことです。第二回もグルノーブルにおいて1月20-22日で開催されます。
最後に各ブーズを回っての感想ですが、まず殆どの電子関連研究所は印刷電子技術(Printed electronics)や3D TSVを重視しています。特にフランフォーファ研究所のIZMは三次元実装に注力し、8インチのフレキシブルICや12インチのTSVウェハを展示していました。TSVに関する実験設備はメッキからCMPまで揃えてあるとのことです。更にフランフォーファ研究所はセンサーPDを埋め込んだ有機EL表示装置を展示実演していました。単純な疑問として有機ELは画素単位で認知でき画像を見ることが可能ですが、センサー素子はレンズがないと像を結ぶことは出来ません。このため素子の近接された物体のみ検できます。このことを質問すると、限定された応用を考えているとのことです。
最後に、IVAMの新所長Dr. Thomas Dietrichと会合を持つことができました。IVAMの所長は前所長のMr.Heinz-Peter
Hipplerがお辞めになったあと、暫く空席でした。Dietrich氏は元ベンチャーを立ち上げた経験もある理解ある方で一般財団法人マイクロマシンセンターとの連携や日本企業との交流を積極的にされたいとの要望でした。
(MEMS協議会 三原孝士)
写真8.IVAMの新所長Dr. Thomas Dietrich(右)と一緒に
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