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2013年8月 7日 (水)

「ナノ・マイクロビジネス展2013」国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウム開催(2013年7月5日)

 既にこの「MEMSの波」で速報としてご紹介していますが、世界最大規模のマイクロマシン/MEMSの総合イベントである「ナノ・マイクロビジネス展2013」(東京ビッグサイト)が好評のうちに終了しました。また幾つかの併設イベントをMEMS協議会が中心になって実施しました。この中でも、19回と言う長い歴史を持つ「国際マイクロマシン・ナノテクシンポジウム」は、(同時通訳もついて)世界のマイクロマシン/MEMSの産業および技術動向を得ることが出来る絶好の場となっています。今回もシンポジウムの方向をMEMS協議会・国際交流委員会の委員長である、東京大学・下山勲教授(本シンポジウムのチェアマン)を中心に議論を重ね、「社会課題対応センサーシステム(インフラ・医療・農業)の現状と未来」と題したテーマで、日本が直面する社会課題を解決するために必須なMEMSセンサーとそのセンサーネットワークシステムに関して、国際的な視野で話題提供を行うことを目的にプログラムを作成しました。この背景には、社会課題先進国である日本において優先順位の高いソーシャル技術としてのセンサーやネットワーク技術が近年急速にクローズアップ・重要視されて来たことがあります。

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写真1 会場の様子

 

 本シンポジウムでは技術研究組合NMEMS技術研究機構、今仲理事長の挨拶に続いて、経産省・須藤産業機械課長からご来賓のご挨拶のあと、2つの特別講演と3つのセッションを行いました。特別講演は「社会を変えるセンサーネットワークシステム」として、海外と国内からそれぞれ1件の講演でした。 

 最初の講演は、欧州Guardian Angels(GA)プロジェクトのChair and CoordinatorであるスイスNanolab, EPFLのAdrian M. Ionescu教授です。GAプロジェクトはスイスEPFLの主導する先導研究プロジェクトでエネルギーハーベストデバイスと超低消費電力デバイス、MEMSセンサー、ナノデバイスセンサー及びそのセンサーシステムを用いて、ゼロエネルギで見守りシステムを構成するとともに、様々な応用に向けて実用化させようとするものです。ここで「何故スイスのナノテク研究の総本山であるEPFLが主導するか?」ですが、このプロジェクトのゼロエネルギ-動作を実現するために、様々な超低消費電力動作ナノデバイスの研究が含まれていることです。例えば、トンネルトランジスターやナノシリコンセンサー、CNTやグラフェンセンサー等です。GAはスイス、欧州(ECや北欧)、アジアや米国、世界を代表するデバイスやMEMS企業、システムや応用先企業が参画しています。また成功のための4つの技術は、1)高効率な処理と通信技術、2)超低消費電力センサー、3)高効率エネルーギーハーベスト、4)エネルギー志向ソフトウェアの4点とのことです。またデバイスの研究者らしく、センサーシステムの電力を決めるのはセンサー感度とADC(アナログデジタル変換)の効率で、現在の100倍の効率化と1変換当たり10フェムトジュールを目指すものです。(現在は1変換あたり、1ピコから1ナノジュールが必要であった。)

 

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写真2 スイスEPFL Adrian M. Ionescu教授

 

 

続いて、特別講演2「社会を変えるセンサーネットワークシステムの未来」として、東京大学 大学院情報理工学系研究科の下山勲教授から、非常に幅広い内容を含む講演がありました。最初に日本の長期的な人口推移として西暦800年から現在まで、および現在から2100年までの予想参考データを出され、2100年にはピーク時の半分に人口が減ると同時に、3人に1人が高齢者となってしまい、今後100年は経済活動を含めて大きな変化が起こるであろうことです。特にその中で老朽化したビルや橋、トンネル等の「社会インフラを如何に整備するか?」が大きな社会課題であり、効率的なモニタリングを行うことで、現在の社会インフラを長持ちさせることが重要であるとの講演でした。更にセンシングとしても新規な技術が出初めており、例えばカンチレバーを使った歪みや圧力センサー、アコースティックエミッションの利用等でです。

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写真3 東京大学 大学院情報理工学系研究科 下山勲教授

続いて、インフラ・医療・農業に対応する3つのテーマを議論するためのセッションです。最初のセッション1は「社会インフラ対応センサーシステムの現状と未来」と題して、東京大学・社会基盤学専攻 藤野陽三教授から「社会インフラ(橋・道路等)に於けるメンテナンスの重要性とセンサーへの期待」と題した講演です。藤野先生は橋の構造解析、強度解析の専門家ですが、社会インフラの管理、整備を科学的に捉えたインフラマネージメントの立場からセンサーやセンサーネットワークへの期待が講演されました。その中でも、どのようにモニタリングして整備に役立てるかとの課題に、モニタリングの2つの方法、移動型インフラモニタリング、および埋め込み型インフラモニタリングの現状と特徴、課題が時に興味ある内容でした。ここで、移動型モニタリングは、広大な国土を持つ地域では特に重要です。

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写真4 東京大学 社会基盤学専攻 藤野陽三教授

 

本セッションの海外からのご講演は、University of California, Berkeley 、Berkeley Sensor & Actuator CenterのAlbert P. Pisano教授「Sensor Cluster for Public Infrastructure」です。本講演では、耐環境デバイス、センサーの技術開発を中心とした話題です。耐環境デバイスは地熱発電等の特に高温・多湿、或いは様々な化学物質の環境中での動作だけでなく、高速で走る車のタイヤ(高温で常時高い圧力や摩擦を受ける環境)、車のエンジンルーム(高温・騒音)、環境モニタリング用のデバイス(例えば地滑り感知用のロッド)等様々な場所で使用できるものです。最も厳しい場合は電気炉やガスタービンの中に組み込む場合もあります。 更にこれらのデバイスはSiCや化合物半導体だけでなく、白金系の金属やセラミック等の耐熱・耐久性材料が必要です。またデバイスは比較的シンプルなものが確実に動作すると思われます。更にこれらは単純であるためにシリコンを用いた常温デバイスに比較すると信号量も小さく、高い回路技術が必要となります。


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写真5 BSACのAlbert P. Pisano教授

セッション2は「医療・ヘルスケア対応センサーシステムの現状と未来」と題して、日本側として自治医科大学、内科学講座循環器内科学部門 、苅尾七臣主任教授から「24時間血行動態モニタリングシステム:臨床的有用性と今後の展望」と題した講演でした。先生のご講演は血圧の常時モニタリングの現状と、その重要性およびその将来です。血圧の常時モニタリングで特に重要な時間帯は、朝の10時前後と就寝時とのことです。血圧は、心臓が必要な酸素やエネルギーを、その心身活動の状態に応じて変化させるために必須な制御システムです。このため外部環境や精神的な変化の影響も受けやすいのですが、朝の時間帯と就寝時の血圧は、特に心臓や血管と言ったハードウェアの状態を顕著にモニター出来て、循環器疾患の把握に非常に重要とのことです。しかしこのような重要な認識があるにも関わらず、連続計測装置が比較的大掛かりで装着感もあるため、常時モニタリングは十分に浸透していません。もしMEMSを用いて小形化され、業務中や就寝中等、何時でも何処でも計測できれば、これまで判らなかったような心疾患の形態を更に詳細に評価でき、成人から高齢者の健康管理に役立つとのことです。

 

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写真6 自治医科大学 苅尾七臣主任教授

 

本セッションの海外からのご講演は、CEA-Leti フランスSilicon Components DivisionのAndré ROUZAUD副VPから「MEMS and Sensors: Some Expected Trends in Medical and Quality-of-life Applications」です。最初に医療マーケットへ向けたMEMSビジネスの概要説明がありました。MEMSを含むセンサーは医療や健康領域で様々な場所で使用されています。また医療全体では全世界で大きな伸びが期待される領域です。しかし医療へ応用を考えると幾つかのハードルがあって、第一は規制や認可の問題、第二は標準化の欠如と、信頼性の確保とのことです。規制に関しては「Continua Health Alliance」という国際的な医療産業団体を組織化して、遠隔医療を中心とした個人健康システムの確立を目指しています。また技術的な進展としては、シリコン上のピエゾ素子によって作成されたマイクロポンプを用いて、分解能150ナノリットルで200毎分マイクロリットルの性能を持つマイクロポンプを作成し、ドラッグデリィバリーシステムを構成した例、6種のイオンセンサーを用いて生体内イオンのリアルタイムモニタデバイスを作成し、人工腎臓、人工肝臓、ポイントオブケアシステム等に利用する例、更に人体表面につけてリアルタイムで汗の成分分析を行う例、アッセイと化学発光を用いた生体マーカ検出を用いたインビトロ診断器、スマートバンドエイドという化学発光の変化を用いて感染症を検出可能なフィルム等の紹介がありました。また環境分析においては、蛍光分析とイムノアッセイを用いた水質汚染分析装置、ナノシリカ材料を用いた超感度揮発性有機物質(VOC)センサー等でした。

 

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写真7 CEA-Leti フランスのAndré ROUZAUD副VP

 

「農畜産業に於けるセンサーネットワークの現状と未来」を議論する最後のセッション3では、最初に海外からの講演としてオランダ大使館・Paul op den Brouw科学技術参事官から「Sensors and sensor networks in high-tech horticulture(plant factory) in the Netherlands」でした。ご存知のように欧州の先進国は農業大国でもあります。特にオランダは狭い国土、農業環境としても低温で日照時間が少ない、しかも農業人口が少ないという悪条件にも拘えらず、農業輸出額はアメリカに次ぐ規模で国際競争力のある農業産業を形成しています。その秘密の一つが「スマートアグリ」、すなわち農業スキルがIT技術によって蓄積され、温度、湿度のセンシング項目、養分その他の情報がセンサーネットワークと連携して自動化させて管理・制御され、更に省エネで再生可能エネルギーなども利用しながら、 (植物工場に代表される)高度に自動化された農業技術を有効に使っていることです。これらは農業に新たな産業革命をもたらす技術と言われています。今回のBrouw科学技術参事官(ご自身も学位をお持ちです)のご講演は、特にスマートアグリに必要なセンサー技術を紹介され大変興味深いものでした。必要なセンシング項目を、その環境変化に応じて、高速(秒から時間単位)応答、中速(時間から日単位)応答、低速(数日から月)に分けて、その観察対象とセンサー手段に分けて分類されています。高速センシングではCO2の濃度、ライシメータや赤外分光による温度変化、また中速センシングでは葉脈フロー、成長状態、顔料分析等、長期センシングでは画像解析、分光解析、土壌を含む栄養分析等です。植物工場では、センシングの対象は極めて幅広く、気象状態(風速、温度、も含む)も含まれています。基本は単位セクション(5000m2)に1個配置されている計測Boxに贅沢にもPt100温度計と相対湿度計、赤外吸収を用いた二酸化炭素センサー、(この二酸化炭素の量は農産物の成長に大きな影響を及ぼすようです)また農園ハウスにおいては温度や湿度を2次元分布で見るために多数のセンサーを配置して計測します。また水の管理や肥料の適正量を計測・制御するのは大きな問題です。水分料のセンシングは温度補正を行った電気抵抗を用いた方法を使います。それ以外にも農園の特殊なセンサー群も必要です。例えば、植物の色、照度、植物自身の温度、画像や分光器を用いた植物の評価、クロロフィルの蛍光イメージ、ステレオ画像による生育の三次元イメージ、植物のソーティング等・・このように多様なセンサーを使いこなすことで実現されています。

 

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写真8 オランダ大使館・Paul op den Brouw科学技術参事官

 

 日本からの報告は産総研・集積マイクロシステム研究センター 伊藤寿浩副センター長から「畜産業に於ける大規模センサーネットワークの有用性とその展望」でした。最初に鶏舎内の鶏のセンシングでは、1997年から問題になり日本を含むアジアで経済的にも大きな問題になったH5N1ウィルス感染による鳥インフルエンザの対応です。鶏舎内の鶏の体温の変化や動体の変化を温度計やモーションセンサーを鳥につけてできるため早期に発見しようというものです。早期に発見して隔離や消毒が出来れば被害は最小限に抑えられます。次の酪農分野では食用牛では年間120万頭が病気で死んでおり、その内訳は地域を限定して発生する口蹄疫等のウィルス性疾患、呼吸器や消化器の病気が多いとのことです。口蹄疫等のウィルス疾患には直腸の体温を計測して無線でデータ送信をします。感染によって体温が1度程度上がるとのことです。またRumen反芻(はんすう)胃の異常をモニターするためには、胃の内部に導入した小形センサーで、温度と胃の加速度を計測し無線でデータを収集するとのことです。鶏用のセンサーでは、MEMSのピエゾ圧電センサーと24Hzの共振周波数を持つMass付きカンチレバーを用いて5-15Hzの動作を検出し、動作を検出した場合のみシステムの通電を行って無線データ送信を行う1マイクロワットの小形軽量のセンサーノードを構成し、これを鶏につけて運用実験をしているとのことです

 

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写真9  産総研・集積マイクロシステム研究センター 伊藤寿浩副センター長

 

 この国際シンポジウムは終始大勢の聴講者にご参加頂きました。立ち見、或いは会場の隣接したラウンジで聴講された方を含めると参加者数は約250名でした。下山委員長を始め、スタッフ一同、このテーマの重要性を改めて実感したとともに、多くの方々にご参加頂いたことに感謝致します。来年は時期、場所ともに変更になりますが、来年に向けて更に充実した企画をして行きたいと思いますので、ご気軽にご意見を頂ければと思います。(MEMS協議会事務局 三原 孝士)


なお、本セミナーは日経BP社の取材を受け、講演の内容について同社サイトに順次掲載されていますので、ご参照ください。

「社会を変えるセンサーネットワークシステムの未来」 東京大学教授 下山勲
 

http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20130716/292429/

「社会インフラ対応センサーシステムの現状と未来」 東京大学教授 藤野陽三
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20130722/293460/
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/FEATURE/20130722/293546/

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