ナノテク国際会議&展示会 Nanotech2010(米)参加報告
6月に米国で開催されましたナノテク国際会議Nanotech2010からMEMS関連情報を紹介します。(概要はMMC-MIF-BEANSニュース7月号、マイクロマシンMEMS展7月30日MEMS協議会フォーラムで紹介) Nanotech2010は、大きく分けると大学を中心とする研究発表と企業間或いは産官学の交流を目的とした技術発表が行われました。その中からMEMS関連企業(一部公的機関含む)の発表内容を以下に紹介します。
1.
Yole Inc.(仏)
○事業:MEMSを含めたエレクトロニクス技術、産業動向調査
○発表:“MEMS Market Overview”
・MEMS市場は2009年6,460M$から2015年に17,009M$に拡大。
・Emerging (次世代)MEMSとしてRFID、電子コンパス、オートフォーカス、発振器、燃料電池をはじめとするエナジーハーベスト、カンチレバー等部品、スピーカ、ボロメータ、マイクロディスプレイがあげられ、これらの市場は2009年559M$から2015年2,183M$へ。
・Emerging MEMSの成長は主にベンチャー企業が担うのでは。この分野で既に30以上のスタートアップ企業が名乗り。
2.
AMFizgerald&Associate(米)
○事業:MEMSコンサルタント。初期のアイデアから製造までの間、技術開発戦略、製品設計、プロトタイプ、検査、ファンドリー選択等をサポート。
○発表:“What it takes to
Develop New MEMS Products: Reality Check”
・これからのMEMSビジネスモデルは”SmartMEMS companies don’t have fabs”。ファブレスとファブライト(キープロセスは自社内)がある。
・垂直統合型から水平分業型へ。
・開発スピードの加速化、かつて初期アイデアから量産まで10年以上(TI等)今は5年以内(SiTime等)。
・ファンドリーの選択、6 inch, 8 inch選択は事業戦略に基いて決定。
・設計シミュレーション、プロトタイピングはUC
Berkrley Microlabで。
3.
Baolab Microsystems(スペイン)
○事業:2003創立、ファブレスMEMSベンチャー、モバイル向けCMOS集積型モーションセンサ
○発表:“Ultra low cost monolithic CMOS motion sensors for
mass-market consumption”
・先行するCMOS一体型は、MEMSウェハとCMOSウェハを後工程で接合、BaolabはCMOSの最終メタル工程で表面マイクロマシンによりMEMS構造を形成。超低コストを実現。
・第1段は3軸電子コンパス、3軸加速度CMOS集積型(2011年)
・さらに集積化を進め、3軸のコンパス、加速度、ジャイロと圧力、CMOS集積化(2013年)
4.
Micralyne(加)
○事業:MEMSファンドリー、6 inch、MEMSファンドリー世界第4位
○発表:“It’s not just about
the MEMS”
・KodakからOptical MEMSを受託してこの分野を得意領域に。
・他にMEMSセンサー、Microfluidicsも手掛けている。
・プロセスではDRIEによるトレンチ形成技術、ウェハ接合技術に強み。
5.
SiTimes(米)
○事業:Si発振器MEMSベンチャー、ファブレス、Si発振器でシェア85%
○発表:“Revolutionizing the
Timing Market Silicon Replaces Quartz”
・発振器関連市場4500億円の置換えを狙う。
・水晶発振器に対するSi発振器の特徴は小型、薄型、回路一体化、低コスト(これから)、発振周波数可変(programmable)、水晶発振器の納期は8-16週に対しSi発振器は3-5週、信頼性(精度)に関し水晶は周波数依存性があるが、Siは無し。
・現行の作製プロセスは、Si共振子とASICを積層化、ワイヤボンディング、標準樹脂パッケージ。
6.
Sand9 (米)
○事業:Si発振器MEMSベンチャー、ファブレス、2007年創立ボストン大学スピンアウト
○発表:“Sand 9 has achived a
technology Breakthrough: the TCMO”
・特徴は、温度補償含むCMOS一体型Si発振器、ウェハレベルチップサイズパッケージ、バンプ実装。
・先行するSi発振器より小型低コスト、低消費電力で優位性有り。
・将来的にはワイヤレス機能、ジャイロ、高度計、GPS等の一体化を企画開発中。
7.
Seikowave(米)
○事業:ケンタッキー大3次元画像システムのスタートアップ企業
○発表:”Real-Time Structured
Light”
・簡便な画像システムSLI(Structured
Light Illumination)、MEMSプロジェクタチップが特徴
・SLIシステム:対象物に専用プロジェクタからストリップ状ライトを照射して3次元形状情報を得るシステム。再生用プロジェクタにMEMSチップを活用。
8.
WiSpry Inc.(米)
○事業:RF-MEMS ベンチャー、ファブレス、2002年創立
○発表:“Integrated RF-CMOS
MEMS Capacitors”
・主力デバイスはチューナブルRFキャパシタ、モバイル機器向け。
・特徴はCMOS回路集積化プロセス、同一チップ内でCMOS部形成後、上部にRFMEMS部(チューナブル機能含む)形成。
・特にチューナブル機能で他社を圧倒する性能を保有。
9.
Bartels Mikrotechnik(独)
○事業:マイクロ流体デバイス
○発表:(Micro fluidics components)
・主要MEMS応用機器である自動車用は頭打ち、今後医療分野が期待できる。
・医療のマイクロ分析機器(Lab on Chip)は将来性が期待できる。
・課題としてSi標準プロセスコンパチMEMSは生産性に優れるが、例えばマイクロポンプ等プラスチック構造体を用いるプラスチックMEMSは、生産性に課題があった。しかし現在生産性に優れる量産機を準備中。
・マイクロ流体の応用としてディスプレイ”fluidic
displayを提案する。
・Electro Wetting現象をシャッターに利用して光の透過を制御する。
・特徴は大面積で低消費電力、高いコントラスト。
10. Roger Grace Associates(米)
○事業:MEMSコンサルタント
○発表:”MEMS-Based System
Solution and Integration Approaches”
・MEMSの将来の方向性である集積化のメリットを考察することは、事業戦略を策定するうえで重要である。
・集積型センサの成功例として、タイヤ空気圧モニター:圧力+ASIC+無線回路+2次電池(Schrader
Electronics 1995発売)、ナビゲーションシステム:加速度+ジャイロ+ASIC(Crossbow Technologies 1995発売)、モーションセンサ:3軸ジャイロ+3軸加速度+ASIC(Movea 1989創立)、LED表示TOY:2軸加速度+amp+制御回路+LED+電池(MEMSIC 2008オリンピック)、慣性センサ:3軸加速度x2+ジャイロx3(MilliSensor
Systems and Actuators 軍事)、地震計:2軸加速度+電池+制御回路+無線回路+メモリ(HP)
・成功要因:小型化が価値を生む(microGC)、ASICパートナーの選定、ソフトウェア設計エキスパート、パッケージング/検査エキスパート、成功例に学ぶ(polychromix,C2V)
・ビジネスチャンス:簡易診断装置、携帯分析器(環境、テロ)、ワイヤレス機器(ヘルスケア、スマートビル)、モーションセンサ
11. ハンブルグ工科大学 マイクロシステム研究所
○発表:”Micro Analytical
Instruments – A System Approach”
・種々の分析手法、分析装置関連技術は既に確立されている。マイクロ化のニーズは次にあげる。
・小型化、携帯化、低消費電力、少ないサンプル量、高真空レス、低価格、分析スピード
・アプリケーション例として、工場の工程管理(高速モニター)、携帯用環境分析機、排ガス即時分析、公害観測、対化学テロ、宇宙での分析等
・ハンブルグ大で現在開発中のデバイスは、分光器、磁性式酸素センサ、ガスクロマトグラフ(商品化済)、質量分析器、炎色分析、ピラニ式真空ゲージ、赤外吸収ガス検知器
・共通の要素技術としてデバイス設計とウェハ接合技術が重要
12. LETI(仏)
○発表:”Smart System Integration
issues: a perspective from Europe”
・European Technology
Platform:ヨーロッパ内R&Dネットワーク化による産業育成強化。
・競争力強化のためR&Dアクションプラン策定
・産業化に関連した適切なファンド
・各産学の計画を集めて、技術開発プロジェクトを策定、委員会の承認を経て予算化される。
・Smart Systemは4つの分野にフォーカス:健康/高齢化(健康管理、がん検診、介護)、クリーン(電気自動車、電気飛行機)、安全(危険物質検知、社会インフラセキュリティ)、アンビエント(インターネット、ネットワーク)※詳細ロードマップ資料はマイクロマシンセンターまで
・集積型デバイス開発例:Smart Imagers
& Detectors(3次元画像検出素子)
・超高速温度センサ、GaN-MEMS、マルチガスセンサ
・今後、学際的アプローチ、様々なアプリケーションによる技術蓄積を伴い技術開発を継続、ハイリスク、ロングタームへの挑戦者が必要
13. Fraunhofer IPMS
○発表(PhotonicMEMS,yesterday,today,tomorrow)
・MEMS micro mirrors,
projector, scanner 応用:レーザスキャン顕微鏡、近赤外分光計、それぞれ機能集積化が検討されている。
・集積化を進めることがすべての解では無い。ユーザのメリットを考えて最適設計することが重要。
14 ATK (米)
○事業:ロケット制御システム他軍事用デバイス
○発表:A Critical Review of
Thermal Management Schemes for MEMS and Electronics Cooling
・温度制御のためのMEMS冷却装置
・ヒーシンクの表面積増大を¥にMEMSを活用。
15. softMEMS(米)
○事業:MEMS設計ソフトウェア
○発表:Co-design of MEMS,
Electronics, and Packagin Putting the Deign back
in Design Tools
16. Integrated Sensing System Inc. (米)
○事業:医療用MEMSデバイス(Micru流体)、MEMSファンドリー
○発表:”Microfluidic Systems
Integration”
・Microfluidic構成要素:センサ素子、入出力流路、配線、チップパッケージこれらをMEMSプロセスで集積化する。
・液体比重センサ:Siマイクロチューブ振動子を応用。チューブを通過する液体の比重によって共振周波数が変わる。
・ウェハ接合でチップレベルパッケージを実現。
・燃料センサ(航空機用燃料品質モニター)
・無線機能をパッケージ化して、体内モニターに採用される。
17. STmicroelectronics (伊仏)
○事業:半導体デバイス大手、MEMSデバイス大手の一つ
○発表:"Motion MEMS: Think outside the box and beyond the chip"
・モーションセンサは、今後も主力デバイスとして注力。市場予測として加速度は年率14.5%、ジャイロは17.3%の伸び。
・携帯電話、ゲーム以外にも3Dマウス等アプリは益々広がる。
・正確な人の動きを把握するのに複合センサによるマルチセンシングとアプリに応じて有効な出力に加工するためのソフトウェアが重要。
・これらを1パッケージに収めるデバイス、プロセス技術開発に今後注力。
18. ミシガン大学 Center for Wireless Integrated Microsystems
○発表:”Research Trajectories
of Microsystems for Health-Care and Environmental Sensing”
・開発デバイス:Wireless
Integrated Microsystems (無線回路集積型)
・応用:環境モニタ、医療用バイオセンサ
・構成要素:無線インターフェース、RFデバイス、アンテナ、ASIC、パッケージ他
・消費電力とサイズで用途分類:体内埋込み、ウェアラブル、ポータブル
例えば、消費電力30pW時、1mm2の薄膜バッテリーで10年間連続使用可能
写真:血液成分モニタ
・今後環境、医療用集積型無線センサは大きく広がる。そのために学際的研究、産学連携、専門研究者の育成が重要である。
19. Touch Micro-system Technology(台)
○事業:MEMSファンドリー,2000年創立、台湾で最初のMEMS専門ファンドリー、8インチライン、パッケージ工程まで含む。
○発表:”Recent Progress in
MEMS Process Integration”
・得意分野:MEMS-CMOS一体型
・MEMS-CMOS一体化は1チップ化と2チップ積層又は2チップ1パッケージがある。現時点では一義的にどのタイプが有利かは決められない。
・集積化の標準プロセスはMEMSファンドリーにはまだ無い。
・集積化が有利かどうかはデバイス毎に決められる。開発コスト、期間、性能、サイズ、製造コスト、開発投資、ファンドリー資本、パッケージングコスト、難易度等
・標準ICプロセス外の材料の使用/物性の把握、使用材料の次工程への影響等を配慮。
・MEMS-CMOS
1チップ化には3つのパターンがある。
①CMOS工程の中間にMEMSを挿入 例AD
②MEMS→CMOS 例Sandia、SiTime
③CMOS→MEM CMOS最終工程(メタル工程)とMEMS同時形成 例Akustica、Baolab
CMOS形成後、MEMS形成 例 TI、Miradia、IMEC、Silicon Labs
CMOS+MEMSウェハレベル接合 例 Xerox、InvenSens・集積プロセス課題
①挿入型:プロセス課題多いため開発期間長期化
②MEMS first:ウェハ清浄度、MEMS材料物性変化
③MEMS Last:工程複雑、高製造コスト
最近、一体型デバイスの開発が増え、徐々に標準化しつつある。さらに標準化を進めることで、開発期間を短縮することができる。
・Miradia Imagerは標準ICプロセスで作製している。
・集積化プロセス今後の課題:CMOS/MEMS低温接合 GeAl(InvenSense)
Silicon oxide bonding(Miradia)
Cavity bonding (Miradia)
・MEMS-CMOS connection 高密度化
・ポリマー接合(Micro fluidics)
・CMOSプロセスで用いる薄膜材料 polySiGe,metal,アモルファスSi
・集積化プロセスはMEMSファンドリーで徐々に標準化されつつある。
・ファブレスメーカはこれをうまく利用すると利益に結び付けられる。
・集積化プロセスの短縮化技術がMEMSファンドリーのキー技術となる。
20. Hillcrest Labs(米)
○事業:3次元マウス 3Dゲーム、TV用 デバイス、ソフトウェア
○発表:(Motion sensor in 3Dデバイス)
・ユーザから見たモーションセンサ課題:標準化されていない、特性ばらつき、ドリフト、サンプリングレート精度、直線性、軸間調整、温度特性、寿命、usability
21. movea(仏)
○事業:LETIスピンアウト、2007年創立、モーションセンサソフトウェア
○発表:複数のセンサ出力から人の動きを示す信号に置き変えるソフトウェア開発、アプリケーションに対応
まとめ
以上より最近のMEMS関連企業の動向をまとめると、アプリケーションに関しては、モバイル機器の拡大に対応してモーションセンサ、RF-MEMS、Si発振器等の発表件数が多かった。また環境、健康に対応した環境モニターやヘルスケアチップのデバイスもすでに実用化が始まっており、着実に技術開発が進歩していることが伺えた。
技術トレンドとしては、CMOS一体化、異種機能一体化等、集積化に関するものが圧倒的に多かった。(主催者が集積化をテーマに選んだ背景も有り)
CMOS集積型はすでに多くの分野で実用化されており、MEMSファンドリーの発表中にあったように、集積化プロセスも徐々に標準化されつつあることが判明した。集積化の構成は、これまでの複数種のセンサ、ASICに加えて無線系デバイスも一体化される傾向が伺えた。
ビジネスモデルに関しては、今回はベンチャーの発表が中心だったこともあり。ファブレスによる成功例の発表が多数を占めた。ファンドリー側もファブレスメーカのニーズに対してできるだけ答え得るように努力しており、今後益々水平分業型のスタイルが増えていくものと予想される。
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